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マシン生成情報の法的保護の案

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今、すべてのモノがインターネットに接続されて、情報空間と物理空間の間での密接な相互作用を通じて社会および産業を進化させようとしています。
IoTを中心としたAI、ロボット、3Dプリンタによる第4次産業革命です。
これを、ここではIoT産業革命と呼びます。
欧米や日本を含めて世界の主要国や主要地域が産官学の連携体制でIoT産業革命の推進競争を開始しています。
18世紀のイギリスで始まった第1次産業革命はエネルギー駆動でしたが、IoT産業革命はデータ駆動です。価値の源泉がデータに集中してきます。
センサが出力するセンシングデータ、AIが機械学習によって得てロボットの高度な制御等に使用する知識情報、3Dプリンタによる製造を駆動する3Dデータなどの「データ」が、IoT産業革命における価値の源泉となります。
しかも、それらのデータの主要なものは人間が作成するのではなくマシンが生成する「マシン生成情報」となります。
IoT産業革命を駆動するマシン生成情報は、著作権法や特許法が想定していた「人間により創作された情報」に該当しませんが、今後の社会及び産業の発展のためには法的保護を与える必要があることは自明です。
この事をまとめると、次のようになります。

1. IoT産業革命において、データは競争力の源泉となる。
2. 価値あるデータの大部分はマシン生成情報であるという時代が来る。
3. マシン生成情報の例としては、次のものがある。
①センサの出力するセンシングデータ,②ビッグデータ処理で獲得できる分析結果データ,③人工知能(AI)が創作する情報であるAI創作物(例:プログラム、音楽作品、小説、絵画、知識情報)
4. 創作性のないマシン生成情報(例:センシングデータ)にも、大きな価値がある。(例:緊急地震速報に使用する地震計データ)
5. マシン生成情報は、人間によって創作された情報ではないので知的財産権での保護ができないし、有体物ではないので現在の民法では所有権の客体とすることができないとする意見も根強い。
6. しかし、マシン生成情報は価値と競争力の源泉となりえる重要なものなので、マシン生成情報の生成や利用への投資と努力のインセンティブの確保のために、所有権に類似した権利である「データ所有権」を法によって設定することが必要である。
7. 「マシン生成情報のデータ所有権」のあり方を根本から議論することが急務である。

マシン生成情報の法的保護の制度の基礎となるべき原則を、次のように考えます。

(1) 内容保護主義:
データ所有権は、マシン生成情報の表現を保護するのではなく、内容を保護する。
(2) 非創作性主義:
マシン生成情報の創作性はデータ所有権の発生要件としない。
(3) 一意特定主義:
マシン生成情報にデータ所有権が発生するためには、その情報を一意に特定するための識別情報,データ所有権者,データ所有権発生時刻を特定するための情報と一体的に管理されていることが必要。
(4) マシン所有者主義:
マシン生成情報のデータ所有権は、その情報を生成したマシンの所有者に原始的に帰属する。
(5) 相対権主義:
マシン生成情報のデータ所有権は、独立に生成された他のデータには及ばない。

上記の各原則に基づいて、マシン生成情報の法的保護のためのデータ所有権法の骨子を次のように示します。これが、今後の議論のたたき台になることを期待します。

まず、データ所有権法の基本思想を列挙する。

1. データ所有権法を、データの生成・獲得・記録をするために費やす努力や投資が、正当に報われるための法的基盤とする。(額に汗の法理:参考サイト2参照)
2. データ所有権を原始的に獲得する者は、正当な方法でデータを生成又は獲得した上で、そのデータをデータ登録機関に登録した者であるとする。
3. データ所有権者には、自己が所有権を有するデータについて、あらゆる種類の操作および利用の範囲を制御する法的権利を与える。
4. データ所有権は、データの内容が同一である限り、データの表現が変わっていても、権利を及ぼすことができる。
5. 独立に生成・獲得されたデータは、相互に独立したデータ所有権を形成できる。
6. データ所有権は、データの生成・獲得を正当に行なった者が、世界に唯一のデータ登録機関にそのデータを登録して登録番号を取得することで発生する。
7. データ所有権は、データ登録機関を承認する国ごとに発生する物権的権利である。
8. データ登録機関でのデータ登録はデータ内容の審査なしに、一定のプロトコルで自動で行なう。
9. データ所有権の有効期間は、データ登録機関へのデータ登録の日から20年(特許権の有効期間にあわせている)とする。
10.データ登録機関は登録されたデータの公開はしないが、登録番号と登録されたデータ内容の一致の照会や、 登録番号に対応するデータ所有権の書誌的事項の開示請求には応じる。
11.データ登録機関でのデータ登録料は有料とする。
12.データ登録機関に登録済みのデータ(以下、登録済みデータという)の所有権の譲渡の効力は、 データ登録機関に最新の所有権者の情報として、被譲渡者を特定する情報を譲渡者が設定することで発生する。その場合、当該データの元の所有権者には、当該データに 関する一切の権利が無くなる。
13.他者が所有権を有する登録済みデータを、登録しようとするデータの一部又は全部とするデータに関しては、その他者と共同での登録で無い限り、 データ登録機関にデータ登録をすることができない。
14.データ所有権者が死亡又は消滅した場合には、その一般承継人がその権利を承継する。
15.データ所有権者が死亡又は消滅した場合であって、一般承継人が存在しない場合には、そのデータはそのデータ所有権者の最後の帰属国の所有とする。
16.データ登録機関に登録が行なわれた日時よりも後の出願による特許権の効力は、そのデータの複製・記録・送信には及ばない。
17.同一の所有権者に帰属する登録済みデータとしての1対のデータ所有権タグデータで前後を挟まれて一体的に管理されるデータは、 その内部に他者が所有権を有するデータが含まれていない限り、そのデータの自己使用およびその複製データの他者に対する譲渡について、その者が所有権を有するデータ であるとみなす。そして、そのデータについてのデータ所有権は、そのデータを挟むデータ所有権タグデータの有効期間の満了日までの有効期間を有するものとする。
18.自己のオリジナルのデータの複製データにシリアル番号を付随させて譲渡対象データとなしたものを1対の自己のデータ所有権タグデータで前後を挟んで、 他者に所有権を譲渡することができる。その場合、その譲渡対象データの所有権の譲渡を受けた者は、バックアップ目的および特約で定められた範囲を越えては、 その譲渡対象データの全部または一部を複製することができないし、許容範囲を越えた複製データの廃棄請求および利用等の差し止め請求の権利を、オリジナルのデータの所有権者は有する。
19.自動装置(例:センサー、機械学習機能を有するAI、ビッグデータ処理ソフトウェア)によって生成されたデータは、そのデータの内容がその自動装置に入力されたデータと実質的に同一では無い限り、その自動装置の所有者に帰属する。 ただし、その自動装置の生成するデータについて、その自動装置の所有者によって、所有権を与えられた者がいた場合には、その者にそのデータの所有権は帰属する。
20.データ所有権を有する者(所有権を有すると推定される者を含む)は、他者に対して、自己が所有権を有する当該データについて、 操作および利用ができる権利(以下、ライセンスと言う)を契約によって自己の所有権の範囲内で自由に設定できる。

【参考サイト】
1. センシングデータの所有権と知的財産権について
http://www.patentisland.com/memo358.html
2. データベース保護と競争政策 -創作性を要件としないデータベース保護の競争政策的考察-
http://www.iip.or.jp/summary/pdf/detail05j/17_25.pdf

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