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計画的に整備されてきた北朝鮮東倉里のミサイル発射場

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北朝鮮西部の中国国境に近い東倉里のミサイル発射場は、2008年頃から本格的に整備され、それまで使用されてきた舞水端里の発射施設の約3倍の規模を持つ近代的発射施設に拡張された。また、建設段階で地下に燃料備蓄施設や電源装置、燃料パイプ系統らしい施設が確認されており、地下から自動的にミサイルに液体燃料を送り込めるように改良されている。

2008年末頃に一応、工事は概成したとみられていたが、その後も発射場の建設整備は続けられた。発射場の最終的な準備施設とみられる固定施設とそれに連接した移動式の組み立て施設は外界から遮蔽され、クリーンな施設内でミサイルのエンジン、電子部品等の最終点検やミサイルの組み立てが可能になった。さらに、組立後のミサイルは、2本のレールにより台車に乗せられて発射塔まで立てたまま移動することができるようになった。ミサイルを発射台に設置した後は、液体燃料を自動給油でき、最短では数時間程度で発射することができるとみられる。

昨年から衛星写真により、東倉里のミサイル発射場では、発射準備のための活動がみられた。それまで高さが約50m程度とみられていた発射塔は補修された。これまでの高さ約30m、直径2.4mのテポドン、ウンハよりも高く直径の大きな、新たな大型ミサイル用に、発射塔も高さが増し、ミサイルを支えるランチャーも補強された可能性がある。

これに関連し、衛星追跡センターとそれと道路で連接された要人用とみられる施設が、12月の降雪段階から、建物の屋根が融雪するなど活動状態にあることが衛星画像から確認されている。新たな大型ミサイルを打ち上げるためには、ミサイルや衛星の追跡施設も更新しなければならない。新たなレーダと指揮通信統制用の通信システムやコンピューターなどの配備も必要であろう。この衛星追跡センターの活動も、新大型ミサイル発射の兆候と言えよう。

今年1月25日の衛星写真では、発射塔は遮蔽用の覆いに覆われており、改修又は点検が行われていたのかもしれない。また、発射場の反対側にあるミサイルの最終準備施設とみられる固定された建物では、屋根の雪が解け、何らかの活動が行われていることが確認されている。同施設に通じるミサイル運搬用トレーラーの轍と見られる痕跡が、昨年12月時点の降雪時の衛星画像で確認されている。すでに、分離されたミサイルの1段目と2段目が、最終準備施設内に搬入され、点検、準備が進められているのであろう。

これらの衛星画像から判断された準備活動の兆候は、2月2日の北朝鮮のロケット打ち上げ通告と一致している。今後節目となる準備段階は、組立の終わったミサイル(北朝鮮はロケットと称している)の発射台への移動がいつ行われるかである。その兆候は、ミサイルの先端が発射台の横に突き出した状態になるため、カバーをしても変化はつかめるはずである。ひとたび、発射台にミサイルが設置されれば、自動化された給油システムにより最終点検に異常がなく、気象が許せば、最短数時間程度で発射するかもしれない。その意味では、奇襲的に発射する可能性があり、継続的な警戒監視が欠かせない。

 

2 北朝鮮のミサイル戦力のこれまでの開発経緯

2006年10月の第1回目の核実験を契機にして、国連安保理決議1718などの経済制裁が強化された。しかし北朝鮮はそれ以前の段階で、中露の技術援助、イラン、パキスタンとの協力、韓国の資金援助、日本製部品と器材の輸入等を利用し、ミサイル戦力を向上させている。

2005年夏、北朝鮮はテポドン2の開発を完了したと伝えられた。2005年3月、在韓米軍司令官は初めて、北朝鮮がスカッド600発、ノドン200基を保有していると表明している。2006年4月にイスラエル紙は、イランが北朝鮮から射程2500kmのBM25を導入したと報道した。このミサイルは旧ソ連のSSN6の改良型で核弾頭搭載能力があり、イランで発射試験を行った可能性もあり、2007年の北朝鮮人民軍の軍事パレードで初登場している。

2006年6月に米上院外交委員長は、北朝鮮が米本土全体を射程に入れるICBM(大陸間弾道ミサイル)を開発する計画であることを指摘している。北朝鮮は、その後のテポドンの形状、推力などから、SSN6を2段目に利用し、ノドンのロケットエンジン4本を束ねて1段目とした、3段式のテポドンを開発していると見られた。

このテポドンの基本型は、2012年の4月と12月の2度打ち上げられ、12月には成功したウンハ3にも継承されている。ただし、ウンハ3では、それまで固体燃料ロケットであった3段目にも液体燃料が使用され各段の一体化が進められ、最下部の安定翼がなくなるなどの改修が確認されている。

韓国の『聯合ニュース』は液体燃料について、2013年1月13日、以下のように報じている。「全米の科学者らでつくる「憂慮する科学者同盟」のデービッド・ライト博士は12日、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューに対し、先ごろ韓国海軍によって回収された「銀河3号」の1段目の残骸から赤煙硝酸が見つかり、ロケットの燃料としてケロシンに炭化水素系化合物が使われたことを挙げ、いずれも1950年代のスカッドミサイルに使われた旧式の燃料だと指摘した。

また、韓国軍当局は、北朝鮮が常温で長期保管できる赤煙硝酸を酸化剤として使った点などを根拠に、北朝鮮のロケット発射が衛星打ち上げよりも大陸間弾道ミサイル技術の開発をより大きな目標としているとみている」。なお、赤煙硝酸は有毒であり、ミサイルの残骸が落下した場合、地上で被害がでるおそれがある。

2006年6月にテポドン2の発射の兆候が見られ、当時のペリー前国防長官は、「核兵器を手にした北朝鮮」が長距離ミサイルを発射するのを放置すべきではないとして、日本海側にある舞水端里にあるテポドン発射基地を先制爆撃することを主張している。翌7月にCIA長官は、2011年頃には米本土に届くテポドンの脅威が顕在化するであろうと警告している。他方の北朝鮮は、日本海側からの米軍の空爆に対して脆弱な舞水端里のような発射場を避け、西岸にある東倉里に本格的な発射場を整備することを、この頃から計画したとみられる。その成果が、2008年末の同射場の概成につながったのであろう。

東倉里の発射場は、遼東半島に隣接した黄海に面しており、日本海側からの攻撃に対し、北朝鮮全土に配備した戦闘機、対空ミサイルなどにより掩護することができる。また、黄海側は中国の領海に近く、背後の西側から回り込んで攻撃するのは中国領空を侵犯するおそれがあり、容易ではない。逆に中国からの攻撃には脆弱であり、発射ミサイルの追跡なども容易である。このような東倉里の地政学的な位置関係から見る限り、中朝友好協力相互援助条約が参戦条項も含めて今なお有効であり、中朝が軍事同盟関係にあることを裏付けていると言えよう。

北朝鮮は2009年から2014年の間に、以下のような、今後のミサイル計画を示唆する極めて重要な活動を行っている。①新型の道路移動式でより射程の長いムスダン中距離弾道ミサイル(IRBM)と、KN-08ICBMの開発は、先制攻撃に耐えて報復するという選択肢をとる余地を拡大し、グアムや米本土を攻撃しようとする意志を示唆、②短距離、海上配備、対地攻撃用ミサイルの配備は、残存性を向上させて戦域内の目標への脅威を増大させ、移動式の発射母体により、どのような方向からもこれらのミサイルを発射できるため、防御計画がより複雑になること、③「ウンハ宇宙ロケット」の開発と東倉里の「西海衛星発射場」の拡大は、より射程の長いミサイルを開発しようとする意向を示す、④固体燃料ミサイルKN-02の開発は、より機動性があり残存能力の高い、より長射程の固体燃料ミサイルをもたらす可能性がある。

(一部JBPRESSからの転載)

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