中国統計に対する不信

0
Shares
Pinterest Google+

中国の統計が当てにならないと昔から言われている。旧聞に属するが、3月になり海外メデイアが中国の輸出データと香港の輸入データの間に巨額の差異があることを指摘。これから騒ぎが大きくなった。騒ぎのお蔭でshadow bankingとか理財商品とか中国の金融制度の不健全さを示す言葉が一斉に飛び交うようになった。政府はこれらの報道を一切規制してしまったが政府以上に慌てたのが「理財商品」と称して高利回りを謳うファンドを売っていた金融機関だ。政府もこれらファンドの規制に乗り出すと言われだしたが、殆どの金融機関がこれに関与しており更に売り先は中央・地方の役人など金持ち階級なのでどんな規制になるのか見ものだ。これらの影の部分はいずれ明るみにでてくると思われるが今回は統計自体について触れてみたい。

1. 中国の統計の問題点

新しく首相になった李克強は遼寧省党書記のころ中国のGDPは余り信用が置けない。自分は電力消費量、鉄道貨物量、銀行融資の3つのデータに注目していると発言したことがある。今となっては余計なことを喋ってしまったと後悔しているかもしれないが、ここにきて中国の統計の問題点があちこちで暴かれている。元々中国の統計は信用できないと言われてから30年以上もたっている。確かに政府が発表する統計以外に数字はないのでその統計をベースに考えるしか方法はない。GDPなどにしても海外の大手金融機関がそれぞれ予想値を公表しそれが収斂して中国政府が発表する際には極めてそれに近い数字になるのも不思議だが、ここ数か月の輸出入統計に、BOA(バンク・オブ・アメリカ)はじめ大手金融機関からも過大申告ではと指摘されている。統計に対する正確さよりも政治的な正確さに重点が置かれていたので当然とも思えるが広東省の或る鎮(中国の郷級行政区の一つ)では鉱工業生産を4倍にまで水増しして中央に報告していたなどと暴かれだした。

2. GDP至上主義

各地方政府はGDP成長率の向上が最大のポイントとなるので実態以上に成長率を上乗せする。一方、すべてのメデイアは共産党の指導もあってGDPこそ何事にも優先するとしてGDPをすべての基準としてきた。更に中国のGDPが日本を抜いて世界2位になったことを喧伝している。当初は世界2位と依然貧困層が圧倒的に多いことを使い分けていたが、最近では世界2位の大国であり近々米国をも凌駕すると言った論調に代わってきた。日本ではGDPが世界2位になっても一般庶民の生活はまだまだ低く、むしろ他国からおだてられODAなどでいろいろむしり取られることを心配していたが、中国の場合はその心配もないためか国を挙げて世界第2位を謳歌しているように思える。少なくともネット上で飛び交う中国からの発信では中国全体が世界で最も豊かな強国になったような意見まで出ている。

3. 中国の統計に対する不信

中国政府発表のGDP成長率から5%を引いたものが実態の数字であると中国で取引をしていた人は指摘するが、中国で仕事をしていた人には良く理解されている。これほど中国の統計には信用がないが、例えば人口にしても農村部を回ると行けども行けども農家があり人口が無限であるような感覚となる。人口抑制のための一人っ子政策であったが実際にはかなり形骸化して政府は13億というが実態は15億とも言われている。社会主義国の特徴でもあるが都合の悪い数字は発表しないし、うまく改ざんする場合もある。
GDPの構成要素とか失業率(都市部だけで農村は含まれないので数字的には極めて低い)などは常に問題となるが、住宅価格、不良債権、エネルギー関連などは悪い数字は発表されない。一方ですべての産業に過剰設備、過剰生産が指摘されるが設備などの全国の統計がないので必然的に過剰を生む非効率な体質であることも問題だ。自動車販売台数なども世界一を謳うが、ディーラーは在庫過多を嘆いている。ここにも水増しがある。
そこで税関統計の不可思議な点に触れてみたい。

4. 輸出・入統計の怪

今年の3・4月に中国のGDPの信憑性について指摘が出ていたがWall Street JournalではReliability of China`s GDP Statisticsとして中国の輸出データと香港の輸入データに間に3ヶ月で362億米ドルの差があると指摘した。2012年12月から13年2月で見ると中国の対香港輸出は949億米ドル、香港政府発表の香港への輸入は587米ドルでその差は362億米ドルとなっている。香港の統計は細工の仕様がなく実態をそのまま発表しているが昔から香港の発表数字と北京政府発表数字が一致しないケースが多く、両政府の議論の対象となる場合が多かったがこれほど数字が食い違うことは珍しい。今年の1・2月だけを見ても中国の香港からの輸入額は24億ドル、香港の中国向け輸出は363億ドルと339億ドルの差がある。中国税関の輸出額はFOBベース、輸入額はCIFベースとして中国の輸入額は香港の輸出額より高くなければならないが、この数字では全く理解できない。

5. 広東省の貿易総額

4月15日 税関総署広東分室は広東省の貿易総額は1~3月で38%増と発表した。内容は今年1~3月の貿易総額は1兆8,165億元で前年同期比37.7%増、内輸出は34.3%up(以下、米ドル換算で表示) 1,628億6000万米ドル、輸入は42.4%up 1,263億米ドル、貿易黒字365億6,000万米ドル、その内訳は香港向け 91.5%up、米国向け16.3%up、台湾向け111.1%up、日本向9.6%downなどとなっている。3月単月では前年同月比 47.0%up(1,220億5000万米ドル、内輸出37.3%up、輸入60.1%up、貿易黒字92億7000万米ドル)となっている。
深圳の輸出額は毎月中国他都市と比べ極めて高い伸び率を発表しているが、1月は前年同月比82.6%up, 2/3月も約70%up となっている。水増し額は深圳に集中しているともいえる。

6. 何故 輸出額を水増しするのか

中国政府による製造業の輸出の拡大という虚構を演出するためとの説もあるが、(人民日報などは輸出が好転していることで国民経済の好調な発展が確定的で政府の外国貿易に関する施策が正しいことの証明などと騒いでいる)一方で政府も投資と輸出に依存する経済の改革を謳っているのであまり騒ぐわけにも行かない。
保税区では海外からの輸入素材を加工して輸出すれば輸出入に伴う関税は免除される。従来から香港を利用してmoney launderingを行うとか増値税などの減免を狙うとか色々考えられるが香港向け輸出と保税区向け輸出が爆発的に増えていることは人民元の先高を見越した投機資金または国内金融が引き締めに動いておりshadow bankingには旺盛な資金需要があるのでと見るのが妥当であろう。輸出の際に輸出額を水増し(over invoiceと言って単価を水増しする、おそらく政府関係部門、税関も関与していると思われる)、人民元に替えて値上がりを待つ手法だ。実際に集積回路とか宝飾品の輸出が急増しているのは単価を容易につり上げることができるからだ。それにしても、深圳港からの輸出が急増しているわけでもなく、中央政府も対策に乗り出したいのだろうがGDP至上主義でもあり、地方政府の反対もあり簡単に解決とは行かないであろう。但し、輸出依存度は増え、流入した資金も人民元が下落すれば一斉に資金逃避も起るであろう。

7. 5月から水増し摘発?もあってか輸出急減速

中国税関発表の5月の輸出は前年同月比1.0%増と6ヶ月ぶりに一桁増に急減速。対香港輸出は1~4月が前年同期比62.9%増に対し1~5月は54.9%増に急減速した。一方3月までの統計数字に対する修正はなく5月から数字を調整しようとしているのだろう。上海株の急落とかshadow banking, 理財商品に対する政府の指導?もあり今年後半の中国経済の動きについては更なる注目が必要だ。
以上

Previous post

“食”が一番重要なのに(粉ミルク騒動はまだ続く)

Next post

特定秘密保護法案:医師に情報回答義務はあるのか