Home»連 載»中国ビジネスの行方 香港からの視点»中国発の設備過剰産業(中国の鉄鋼は世界中に漂いつづけるのか)

中国発の設備過剰産業(中国の鉄鋼は世界中に漂いつづけるのか)

0
Shares
Pinterest Google+

前回も書いたが中国の1~3月GDPが6.9%増と秋の党大会前に地方政府の指導者や幹部が得点稼ぎに投資を大幅に増やした形跡が見える。この結果、鉄鋼など過剰生産能力の削減を謳いながら地方政府のインフラ投資の増大で鉄鋼需要は膨らんでいる。過剰生産能力の削減が緩めば供給過剰問題が再燃するであろう。現段階では鉄鋼やコークス、非鉄金属、半導体などの生産が伸び出した。一方で不動産バブルは一向に収束に向かわず難しい段階に至っている。

国際商品市況を定期的に書いてきたが、中国発の「鉄冷え」と設備過剰産業の整理が一向に進まないので今回は鉄及び鉄鋼原料について

触れてみたい。

過剰設備を抱える産業は鉄に限らずセメント、合成繊維原料、造船、

電子部品などいろいろな分野に及んでいる。中国の場合、一社が成功すると全社が参加すると言う特色があり、この意味では生産調整は簡単には行かない側面もある。不動産にしてもほかに投機の対象がないことも投機に走る理由だが、過去に国営企業などは従業員に安く部屋を提供していたがその住宅がバブルで高値となりそのまま居座り金持ちとなっている人も多い。約9千万人の共産党員とその家族のほかにこのような人が中産階級を形成しているが、現政権も金融政策だけでバブル退治もできず秋の党大会までを合い言葉に迷走を続けている。

 

#乱高下する鉄鉱石価格

鉄鉱石は元々cheapest commodityと言われ数十年前はトン15ドル程度で当時の船は数千トンと小型でも有り、船の安定を保つため船底にバラストとして敷かれていた。

昨年前半はトン/54ドルから62ドルと中国需要によって高値に張り付いていたが、中国の「鉄冷え」と豪州・ブラジルでの鉱山の拡張があり供給過剰との見方から昨年10月にはspot priceが50ドル台に

戻った。ところが一時期鋼材価格が上昇すると輸入も急増し港湾在庫は1億3千万トンにまで増大したと報じられている。(おそらく過去最高と思われる)

一方鉄鉱石とともに高炉の主要原料である原料炭は高値に張り付いており昨年夏場にトン/60ドルから9月には200ドル以上に張り付いていた。

不動産開発が政府の経済対策の主要項目となってしまったが、これに即応して活発化した不動産開発、公共投資案件(鉄道など)も多く、中国内の鋼材価格の急騰を招き、今年2月には豪州産のspot priceはトン90ドル以上となりこの1年で倍となった。中国の1月の鉄鉱石輸入量は9,200万トンで前年同月比12%増えている。この煽りを受けているのが日本の製鉄業界で鋼材販売価格の値上げが課題となっている。鉄の例だけではないが中国では個人の投資マネーが鉄鉱石などの先物市場に入り価格を実態より押し上げていることが多い。この原料高で中国の非効率な製鉄所が再び増産に向かうことも十分考えられる。いつまでも中国の鉄鋼業界との闘いは続くであろう。

 

#その他の鉄鋼製品・原料も乱高下

電炉の主原料の鉄スクラップも今年4月には20%以上の下げに転じ6ヶ月ぶりの安値となっている。中国での鋼材価格が下げているためだが、スクラップと競合するビレットは380ドル程度で、中国で余剰となったビレットの安値輸出が増える可能性も大だ。同時にスクラップも国内で溢れ国際市場にあふれ出る危険性もある。コークスの場合、2016年12月の高値に迫っている。(今年4月の天津港スポット価格はトン330ドル)北朝鮮の石炭輸入を中国が止めた影響が大きい。原料炭は2016年spot priceがトン/100ドルから300ドルに急上昇し、中国の石炭の生産調整方針が出され100ドルに再び戻るかと思われたが今年に入って値下がりは一服している。日本の高炉各社も中国の動向に神経質になっている。

 

#海外の鉄鉱石大手は更に強気

鉄鉱石はヴァーレ(ブラジル)、BHPビリトン(豪)、リオ・テイント(豪)などが最大手だが、何れも増産体制に入っている。中国の鋼材需要は政府主導の投資拡大策によるもので先行きは不透明だが経済成長を持続するためには粗鋼生産を増やすしかないとみている。一方、頼りはインドで7%程度の経済成長は続くとしている。特に豪州の大手は鉄鉱石価格が下落しても鉱山から港までの鉄道輸送の画期的な改善で生産コストも下がっている。

本題から外れるが世界最大の資源商社グレンコアは元々銅や石炭では供給元を押さえているが鉄鉱石ではあまり知られていない。そのグレンコアが間に入り日本の高炉各社向けに販売を始めたという。日本ならば中国のように投機的動きに惑わされることもないし実需に応じた買いなので試験的に入ってみようとのことかもしれない。

一方、ばら積み船のチャーター料も改善し(コンテナ船の運賃も前年よりは改善しているので)日本の大手海運3社が今期は黒字に転換したと報じられたが5月に入るとばら積み船の用船料は40%も急落した。8万トン級のパナマックス型の用船料は8,100ドル/一日程度で4月から40%近く下落した。ブラジル・アルゼンチンなどからの穀物輸送が最盛期を過ぎたためだが、鉄鉱石などを運ぶ更に大きなケープサイズ(約17万トン)の場合3月には2万ドル以上したがやはり40%急落した。船の場合、元々船腹過剰が問題であったがこれに鉄冷えが状況を悪化させている。一方コンテナ船はアジア発米国向けが5月には前年同月比10%の伸びとなっている。(中国/日本から米国向けが増えている。)原料炭価格の急騰を受け昨年11月には建築・土木用鋼材の価格が(2014/15年と下落していたが)上昇した。但し原料価格の先行きは不透明なのでこのまま上昇するとは思えない。

問題は国家資本主義による政策の変更が製品価格に直接響く事が多い。中国内の自動車向け需要は堅調であったが、1月から小型車減税のメリットが無くなってしまった。中国人民銀行は不動産バブル抑制のため金融引き締めに動くとみられているが、一般には今年後半に不動産市況は下がるとの思惑が先行し、すでにマンション用の鉄筋は3月末に比べ10%も下がったと報じられている。(香港紙South China Morning Post)中国らしいのは昨年来の鋼材高を受け製鉄所は増産に走り3月の粗鋼生産は7,200万トンと月間としては過去最高と報じられている。一部の鉄鋼メーカーは再び安値輸出競争を始めたらしい。中国共産党も秋の大会まで景気刺激策が必要で舵取りが極めて難しい局面にある。鉄は中国経済のアキレスケンと言われる。年間12億トンの生産能力が有りながら国内需要は7億トン、輸出が1億トンでこの輸出が貿易摩擦になっている。ここでトランプ政権がどのように出るか注目されるところだ。日本の場合対米輸出自主規制とか米国内での現地生産の方法を長い間模索してきたが、中国はどのような手段をとるのか注目される。

中国の過剰生産問題は鉄鋼だけの問題ではなく化学、石油精製、板ガラス、紙、造船など多くの分野にわたる。鉄鋼の場合、巨大国営の

宝鋼と武漢鋼鉄が合併し、世界第2位の製鉄所が出現した。同じ動きは他の業界でも進みつつある。セメントの場合、中国建築材料集団と中国中材集団との経営統合も具体化しつつある。問題は大型統合が果たして経営の効率化につながるのであろうかと言うことだ。上記香港紙の報道では宝山製鉄の前会長が汚職で17年の懲役刑という。2,000年から2014年の間に4千万元(US$5.8million)を懐にしたとのこと。(上海市副市長になるとの噂があった)大国営企業にはいろいろな人材がいる。彼らはそれぞれ共産党内にコネを持っている。汚職の場合も個人がこの巨額のカネを独り占めするわけではない。下の方からトップにこれらのカネが積み上がり何れは分け合うのであろうがそれが自然に人脈形成となって大組織を動かしている。秋まで中国の政治の世界は水面下でいろいろな動きを見せるであろうが国営大企業の動きは注目に値する。

北京政府が強力に過剰生産を抑制しない限り素材の価格の乱高下は避けられないし今後も続くであろう。

一方、中国で過剰生産された鋼材は世界中にまだ漂い続けるのだろうか?

 

 

Previous post

田中良紹 ジャーナリスト

Next post

新産業構造ビジョン(案)でのリアルデータ・プラットフォーム戦略実現のために追加する「戦略その3」