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ネット経済が減速中国を下支え?通販やスマホ決済、タクシー配車サービスが活況

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経済は何が弾みでアクティブに動き出すのか、読めないことが多い。ところが、国有企業改革の遅れによる過剰生産・過剰在庫などで、経済成長の減速が避けられないとみられていた中国で、意外にもインターネットを活用したネット経済の動きが活発化しサービス消費のGDP(国内総生産)寄与度が上がり、経済を下支えしている、という。

 

要は、国有企業などの「旧経済」部門に代わってパソコンやスマートフォン(スマホ)を活用した消費財のネット通信販売が急増、さらにスマホを介在させたタクシー配車サービス、町の屋台での飲食代金のスマホ決済など、ネット活用の「新経済」が台頭し実体経済に活気を与えている、というのだ。生産主導から消費主導の経済に変わったのだろうか。

 

アリババのネット通販で「独身の日」にわずか1日で1.9兆円もの売買取引はすごい

象徴的な事例はメディア報道でご存知と思うが、中国ネット通販大手アリババの話だ。2009年以来、毎年11月11日の「1」のつく日を「独身の日」と独自に名付け、ネット上で大々的に特別安売りセールに行っている。その売買取引額が昨年2016年に何と前年比32%増の1207億元、円換算で約1兆8900億円というケタ外れのものとなった。わずか1日でそれだけの消費購買力が若者などにあるところが、何とも驚きだ。

 

そんな矢先、NHKが最近、特集番組NHKスペシャルで「巨龍中国14億人の消費革命~爆発的拡大!ネット通販」と題して、ネット経済社会の問題を取り上げた。ネット通販による売買額が2015年に円換算60兆円にのぼり、今や米国を抜いて世界一になったという。現場ルポ中心の見ごたえある企画で、一攫千金を夢見る若者たちが起業して、ネット上で通販サイトを立ち上げ通販ビジネスに取り組む生態を描いた。成功してプロジェクト強化に乗り出す若者のケース、逆に思惑が外れて通販用の商品在庫を山のように抱えた若者夫婦は資金手当てがつかず廃業を余儀なくされるケースなど、さまざまだった。

 

GPSにリンクのサービスインフラ整備でネット通販のサービスに魅力、が決め手

そこで、ジャーナリストの好奇心で、私なりに中国の現場にいる友人たちとEメールで情報収集し意見交換、また中国と往来を続ける日本国内の大学やシンクタンクの中国人の人たちにもネット経済の状況を取材した。今回は、それらの話をもとに、中国「新経済」の現状と課題を述べ、日本にとって学ぶものがあるとすれば何かをレポートしよう。

 

取材先の話をもとに、結論から先に申し上げよう。中国では日本のコンビニなど小売り店舗で経験するサービスのよさが全く見られない中で、中国の消費者が、急に便利になったネット通販に飛びつき、それをネット上の口コミで広げたため、爆発的に伸びたようだ。しかし注目すべき点は、それだけではなかった。

ネット経済化で新たな社会インフラ、とくにGPS(グローバル・ポジショニング・システム、衛星による地球測位システム)と組み合わせたサービスインフラが急速に出来上がったことが大きい。それによって注文後の商品輸送が今どの状況にあるか、到着はいつごろかが消費者に伝えられる。オンライン上での商品クレーム対応もシステム化された。日本でまだ縁遠いタクシー配車サービスが中国で伸びているのも、これらインフラ整備によるという。早い話、インターネットが中国経済社会システムを着実に変えつつあるのだ。

 

清華大・野村総研センター松野さん「びっくりするほど快適、中国は変わりつつある」

長年の友人の1人、清華大学・野村総研中国研究センター理事兼副センター長の松野豊さんはこう述べている。「中国のネット購買は本当に便利になった。タクシー配車サービス向けなどで開発されたGPSとリンクしたサービスインフラが整い、その効果がプラスに働き、消費者満足度を高めている。私自身、外に出ると寒い北京で食事の出前代行サービスを頼むと、数分の誤差で正確に届く。しかも決済もスマホなどネット決済でOK。以前に比べればびっくりするぐらいの快適サービスだ。中国は間違いなく変わりつつある」と。

 

同じく友人の富士通総研主席研究員、金堅敏さんも「ネット時代における中国の消費拡大の可能性」と題する自身のレポートで「中国情報産業省や中国インターネット情報センターなどの統計では2015年のスマホのユーザー数が9.1億人、インターネットユーザーが6.8億人にのぼりネット大国と言ってもいいほど。ITインフラの整備やインターネット普及に伴い情報関連消費の市場規模が急速に拡大している」と指摘している。これらの数字は、日本に比べ数字の単位が1ケタ異なるが、中国では、巨大人口の強み部分を生かした消費パワーが、ネット経済化で弾みをつけつつあるのは間違いない。

 

日本はネット通販が急に伸びてきたが、宅配ビジネスは人手不足で対応しきれず

そんな中で、日本では逆に、ショッキングな現実が明らかになった。宅配ビジネス最大手のヤマトホールディングスが人手不足でサービス対応が追い付かず、人材確保のコスト増などで連結営業利益が一時的に減益になった、という。ネット通販が最近、日本でも急速に比重を高めたのは「グッド・ニュース」ながら、宅配ビジネスに配送が殺到、しかも時間指定などのサービス競争が加わり、現場は人手確保できりきり舞い、というのだ。

 

日本の場合、失業率が3.1%で労働需給ひっぱくに近いが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けての建設ニーズの高まりで人手不足が急速に強まった。それが3.11被災現場での慢性的な人手不足状況をもたらしているのみならず、宅配便現場や至るところにしわ寄せがきている。ネット通販の拡大などビジネスチャンスがあっても、人手の確保が伴わずチャンスを逃すのは異常だ。人口減少の危機にある日本で本気で女性活用や高齢者雇用はじめさまざまな抜本対策を講じなければ、大変なことになる。

 

通販輸送激化で違法サービスも、でも中国政府は出稼ぎ者の雇用創出から静観

本題に戻ろう。中国でのネット通販急増による配送サービス現場の人手確保問題はどうだろうか。金堅敏さんは、「日本と違って、中国は人手不足が深刻にはなっていない。量的な不足よりも、ネット通販にかかわる人のサービスの質が問題になっている」という。

タイムリーに注文品が消費者の手元に届くネット通販は、配送システムもプラスに変えたのかと思ったが、松野さんによると「競争の激しさで、事業者は電気自転車に簡易な荷台をつけた配送車を使い、早く届けるスピードを競う。それが交通渋滞や環境トラブルを引き起こしている。これらの車は違法だし配送人の労務管理もずさんだと聞いている」という。ところがネット通販の配送が、農村からの出稼ぎ者の雇用創出に大きくつながっているため、中国政府も介入せず、当面は静観の姿勢だ、と松野さん言う。興味深い点だ。

 

中国NO2の李克強首相は、ネット通販を軸にしたインターネット社会の消費力を高く評価し、ネットベンチャーでの起業に関しても政府は政策支援していく、という。その点をNHKスペシャルが取り上げていた。しかし私の見るところ、「旧経済」部門の国有企業などの停滞で、かつて2ケタ成長だったGDPが今、6.7%にとどまる経済の現状を苦々しく見ている中国政府にとって「新経済」に強い期待を持たざるを得ないだろう。

 

「旧経済」の停滞にいら立つ中国政府、「新経済」への期待高まるばかり

中国政府が「新経済」担い手企業をどう見ているかで面白い話がある。米国タクシー配車サービスで先発ベンチャー企業のウーバーテクノロジーが、スマホなどモバイル活用によって営業免許のない「白タク」のドライバーなどをお客と結び付け成功したビジネスに刺激を受け、中国でもベンチャー企業、滴滴出行が事業認可申請を行った際のことだ。

中国ウオッチャーの専門家の話によると、中国ではネットによるタクシー配車サービスは前例のない分野のため、関係する7つの行政機関が互いの権限をふりかざし規制の方向で動き出した。ところがタテ割り組織の弊害がもろに出て決めきれない。そのうちにネット社会で利用者の期待先行からタクシー配車サービスへのニーズが高まったため、最終的に共産党中央が間に入り、規制よりも一転、容認で合法化に踏み切った、というのだ。

 

驚いたことに、滴滴出行はその後、ブームに乗って業績を急拡大し、中国に市場参入していた米ウーバーテクノロジーの中国事業を2016年8月に買収したのだ。これによって中国国内でのシェアが一気に90%のトップ企業になった、という。この場合、日本ならば、独占禁止法に抵触して、公正取引委員会が「待った」をかけるだろうが、そのM&Aは問題視されず現在に至っている。金の卵をうむ「新経済」への配慮?としか思えない。

 

資本主義的な市場経済と社会主義使い分けてきた中国も「旧経済」改革がカギ

中国政府はこれまで、資本主義的な市場経済化のシステムを容認しながら、社会主義中国の基軸を崩さず、という2つの体制の使い分けで巧みに経済成長を誘導してきた。しかしインターネットシステムが政府のコントロールがきかないほど走り出し、情報発信の面で、もし政治不安につながった場合、政治リスクになるため、歯止めをかける可能性が強い。現時点で中国政府は「新経済」期待が先行しているが、もろ刃の剣と言っていい。

 

金堅敏さんによると、この「新経済」はネット通販などネット関連のものだけでなく、新技術、新ビジネスモデル、新組織などで構成されたものすべてを含むそうで、中国政府は新エネルギー自動車、バイオエネルギー、新農業組織、ロボット応用の製造業などにも力を注いでいる、という。その先端のアリババなどネットベンチャー企業の勢いはすごい。今では世界10大ネット企業にバイドゥ、アリババ、テンセントの中国3社が名を連ね、その頭文字をとってBATと呼ばれ「新経済」の担い手企業となっているほどだ。

「新経済」は中国にとって成長下支えの期待の星となるかもしれないが、問題は、「旧経済」をどこまで改革できるかだ。事実、国有企業には既得権益にしがみつく共産党幹部が多く権力闘争もからんで先行きは不透明。中国ウオッチャーとしてはチェックが必要だ。

 

日本は中国ネット経済化によるライフスタイル変更・経済社会システム変革にヒント

さて、中国が情報通信の後発メリットを生かし、スマホなどモバイル端末を活用し、インターネットの自由活用だけでなく経済社会に組み込んでシステム化してしまったのは驚きだ。日本は学ぶべき点が多い。他人の迷惑も考えずスマホに見入って自分ごとに集中する若者らのライフスタイル変更が好ましいとは思えないが、たとえば病院の電子カルテ化、情報の共有化を進め、インターネット活用によって緊急事態に他病院、あるいは遠隔地診療所にもアクセス可能にすれば、スマホで患者の医療情報の共有が十分に可能になる。

 

それと、中国のネット通販が急速に普及したことで、日本企業にとっても越境EC、つまり国境を越えてインターネット上での電子商取引、通信販売を行うビジネスチャンスが増えた。日本企業が中国の巨大市場をターゲットに、ネット上で中国向けにショップ展開を行いマーケッティングに工夫をこらせば高品質の日本商品への購買アクセスは高まる。中間所得層に広がりが出て、消費市場としての厚みが出た中国は間違いなく日本にとってチャンスだ。事実、福井県立大教授の唱新さんは「中国の巨大市場では質レベルの高いサービスへのニーズは高まっている。日本の宅配便を含めた物流サービスにかかわる企業が、中国の巨大市場でビジネス展開のメリットは十分ある」という。以上、いかがだろうか。

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