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イスラム国崩壊後の国際テロ情勢と東京五輪に向けたテロ対策

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イスラム国の領土的な敗北は、イスラム国によるテロの消滅を意味しない。なぜなら、イスラム国の本質は、イスラム過激思想を体現化した社会運動体であるからである。領土的な敗北の一方で、イスラム国の過激思想は、既に全世界に拡散し、本体に代わって、感化された「一匹狼」や属州を名乗るテロ組織が多くのテロを敢行している。

1 イスラム国(IS)とは何であったか?
イスラム国とはテロ組織が初めて領土を持った疑似戦争国家であった。2014年には「カリフ制国家」を樹立したと宣言し、イスラム国は最盛期には石油密売などで莫大な財源を持った。先ず米国など有志国連合は石油施設などに空爆を加え、反撃する形で、イスラム国は米英仏など有志国連合の国内においてテロを次々と実行していった。2015年のパリ同時テロ事件では、130人が亡くなった。2017年秋に、首都のラッカが陥落したが、本年3月仏南部テロ事件が発生するなど、イスラム国によるテロ事件は途切れることなく続いている。

2 テロ事件の背景としてのグローバル化とイスラム過激思想の拡散
テロとは、政治的暴力であり、第一義的に一般市民を狙う。国際テロが頻発する背景の一つはグローバル化である。イスラム過激派は、グローバル化に対抗してイスラム教を背景に独自の政治思想を作り上げた。イスラム教本来の姿を暴力によって取り戻すべきであると主張して、彼らはそれをジハードと呼んだ。この過激思想は、イスラム国の崩壊後も世界に拡散し、自己過激化した「一匹狼」と呼ばれる自国育ちのテロリスト達によって欧米でのテロ事件が引き起こされている。東南アジアなどにおいて共鳴した過激派組織は、イスラム国の名の下にテロを敢行している。

3 邦人へのテロ事件と日本への脅威
日本も、テロの脅威から無縁ではない。日本は、アルカイダから「十字軍の共犯者」としてしばしばテロの対象とされてきた。2013年にはアルジェリア・イナメナスでの天然ガスプラント襲撃事件で邦人10名が亡くなった。2015年以降、イスラム国も機関誌「ルーミヤ」等で、日本を攻撃対象に名指している。2016年には、バングラデシュ・ダッカのテロ事件で邦人7名が殺害されるなど、邦人がテロに巻き込まれ死亡する事件が相次いでいる。

4 東京五輪に向けたテロ対策のあり方
世界最大のイベントである五輪は、テロリストにとって最大の政治効果が狙える格好のターゲットである。イスラム国は、2016年のリオ五輪をテロの標的と宣言し、テロ実行を呼び掛けた。日本政府は、東京五輪に向けて2017年末に「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据えたテロ対策推進要綱」を決定した。大量集客施設である会場は、典型的なソフトターゲットであり、接客と警備を両立させることは極めて困難である。先ず、5万人を超える警備要員の確保である。既に会場警備等を担う大手民間警備会社は、共同企業体(JV)を立ち上げ、要員確保に努めている。次に、手荷物検査や雑踏警備などにおけるIT機器を活用した効率的な業務遂行である。顔認証やウェアラブルカメラなど先進的機器の活用によって、夏の暑さの中、効率的な遂行が望まれる。正に、日本の国家的な課題である東京五輪は、官民の総力を挙げたテロ対策と警備によって成功に導かれるのである。

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