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平和安保法制の改正点と今後の課題 ―平和安保法制は「戦争法」なのかー

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昨年成立した「平和安保法制」を「戦争法」とし、その破棄を求める動きが野党を中心に政治課題として喧伝されている。しかし、本当に「戦争法」と言えるのか否かは、同法制制定の背景事情、法制の概要と改正点、残された課題を確認しなければ、論断できない。

 

1 平和安保法制制定の背景となった我が国を取り巻く安全保障環境の変容

今回の安保法制の制定整備は、平成二六(二〇一四)年七月一日に閣議決定された、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」に基づいている。この閣議決定内容の中で、安保法制制定の背景理由としてまず挙げられているのは、「我が国を取り巻く安全保障環境」が「根本的に変容するとともに、更に変化し続けて」いることである。

すなわち、「冷戦終了後の四半世紀だけをとっても、グローバルなパワーバランスの変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発及び拡散、国際テロの脅威により、アジア太平洋において問題や緊張が生み出されるとともに、脅威が世界のどの地域において発生しても、我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼしうる状況になっている。さらに、近年では、海洋、宇宙空間、サイバー空間に対する自由なアクセス及びその活用を妨げるリスクが拡散し深刻化している」。

その中でも、上記閣議決定では明示されていないが、米中のパワーバランスは近年大きく変化している。中国の軍事力が著しい増強近代化をみせる半面、米国の軍事力は日本周辺を含むアジア太平洋において、相対的に低下している。

昨年三月に出された、米国防総省による米議会に対する、「中国の軍事力と安全保障の発展に関する報告」でも、中国の核戦力、海空戦力、宇宙とサイバー空間での発展などについて言及している。例えば、戦略核戦力の移動化、多弾頭個別誘導化、固体燃料使用が進み、残存性が向上している。

また中国のミサイル戦力の濃密な火網は、日本列島~沖縄~台湾~フィリピンを結ぶ第一列島線以西の、南シナ海から東シナ海を覆っており、米空母も危険で入れない海空域と化している。

さらに、人民解放軍は、サイバー空間と宇宙空間の支配権獲得に、軍民一体となり取り組んでいる。これらの脅威は、グローバルなものであり、時間的にも瞬時に攻撃が可能である。さらに、平時から国境を越えて浸透する特殊部隊、無人機、電磁パルスなどの脅威も高まっている。

今年に入り、北朝鮮は「水爆実験に成功」と自称する四度目の核実験を行い、長距離弾道ミサイルの発射試験にも成功しており、我が国周辺での核などの大量破壊兵器の拡散も進展している。

国際的に見ても、サイバー攻撃は日常化し、宇宙の軍事利用が進み、欧州ではテロが多発し移民流入に伴う治安の悪化も深刻になっている。このように、グローバルな脅威も増大している。

これらの現代の脅威は、平時からグレーゾーン、有事まで連続的にかつ迅速に脅威度が高まるおそれがあり、またいつ突発するかもわからない、しかも瞬時にグローバルに波及するという特性がある。そのため対応する側は、地理的にも時間的にも脅威様相でも、「切れ目のない対応」が要求される。

また、国内的には、関係省庁間の緊密な情報共有、調整、協力等、政府一丸となった対応が求められる。国際的にも、グローバルな脅威に対応するためには、米国はもちろんのこと、その他の同様の脅威に晒されている関係国との集団的自衛権の行使も、国連のもとでの集団安全保障の行使も、時に必要となる。

 

2 集団的自衛権限定行使容認の論理と平和安保法制の概要

これらの点は、上記の閣議決定でも言及されており、平和安全法制もこのような枠組みの中で組み立てられている。平成二六年の閣議決定では、まず、「政府の憲法解釈には論理的整合性と法的安定性が求められる。したがって、従来の政府見解における憲法第9条の解釈の基本的な論理の枠内で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くための論理的な帰結を導く必要がある」との、従来の政府解釈の「基本的な論理」を継承するものであることを明言している。

従来の政府解釈では、前文の「国民の平和的生存権」、憲法第13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を踏まえて考えると、「憲法第9条が、我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとは到底解されない」との立場から、自衛権の行使を認めてきた。

ただし、それは無条件ではなく、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという窮迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認されるものであり、そのための必要最小限の「武力の行使」は許容される。」として、自衛権行使の要件を明確にしている。この要件は、今回新たに制定された「集団的自衛権行使の要件」にも取り込まれている。

以上が、従来政府が一貫して表明してきた「基本的な論理」であり、この論理に基づき、これまで政府は、「「武力の行使」が許容されるのは、我が国に対する武力行使が発生した場合に限られると考えてきた」と断わっている。

それに続けて、「我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る」として、集団的自衛権の限定的な行使容認の背景を説明している。

このような認識は、「日本の平和を守るためには、国際社会と協力して、地域や世界の平和を確保していくことが不可欠」との安倍政権の「積極的平和主義」の前提とする情勢認識と呼応している。

平成二七年九月一九日に制定された平和安保法制は、一〇本が法改正され、一本の「国際平和支援法」が新設された。これらの法は、安倍政権の「積極的平和主義」の理念に基づき、目的により、「日本の平和と安全の確保」に関するものと、「国際平和への貢献」に、大きく二分される。

「日本の平和と安全の確保」に関する事態として、①武力攻撃事態・存立危機事態、②グレーゾーン事態、③重要影響事態がある。「国際平和への貢献」に関する事態として、④国際平和共同対処事態、⑤国連平和維持活動・国際連携平和安全活動がある。

関係法としては、①に武力攻撃・存立危機事態法、②に自衛隊法、③に重要影響事態法と船舶検査活動法、④に国際平和支援法と船舶活動法、⑤に国連平和維持活動協力法、全体に関連する法に、自衛隊法、国家安全保障会議設置法がある。また、①の武力攻撃・存立危機事態に関する法として、同事態法のほか、米軍等行動関連措置法、海上輸送規制法、特定公共施設利用法、捕虜取扱法がある。

以下では、西原正監修、朝雲新聞社出版事業部『わかる平和安全法制―日本と世界の平和のために果たす自衛隊の役割』(朝雲新聞社、平成二七年)に沿って、それぞれの法の事態の定義、関連法の概要と改正点、残された課題等について列記する[1]

 

3武力攻撃事態・存立危機事態と同事態法

事態の定義は以下の通り。

武力攻撃とは、わが国に対する外部からの武力攻撃をいう。武力攻撃事態とは、武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められる事態をいう。

武力攻撃予測事態とは、武力攻撃には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。

存立危機事態とは、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。

このように、武力攻撃には、武力攻撃発生事態、同切迫事態、同予測事態の3段階があり、それらとは別に存立危機事態がある。

武力攻撃事態の対処方法では、内閣総理大臣の命令により自衛隊が出動し、反撃、あるいは敵勢力を排除する。このケースで自衛隊が出動することを「防衛出動」、武力をもって反撃、あるいは敵勢力を排除することを「武力の行使」という。

武力攻撃・存立危機事態法では、日本が武力攻撃を行使する際に満たすべき要件として、「武力行使の新3要件」が明記されている。すなわち、①我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、②これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきことの、3要件である。

このうち、①の要件は、従来の憲法第9条の政府解釈に沿ったものである。ただし、解釈にはばがあり、これに該当すると判断されるには、かなりの脅威が顕在化しなければ、事態認定がされない可能性がある。それだけ、武力攻撃には至らないが、警察力では対応できない事態であるグレーゾーン事態の幅が広がることになる。しかしグレーゾーン事態に対応することになる陸海自衛隊に対する領域警備権限について規定した領域警備法が、警察との権限区分等を巡り合意できず、今回も法制化されなかった点は、「切れ目のない対応」という点で、課題を残した。

また、②の要件は、当初入れられていなかったが、与党協議で入れられることになり、そのため、対処基本方針に、「我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要であると認められる理由」を明記し、対処基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならなくなった。

武力攻撃・存立危機事態の認定は、原則的には事前承認だが、緊急時には国会の事後承認が認められている。ただし、その場合でも、内閣総理大臣は対処基本方針案の閣議決定を求める必要が生じた。そのため、武力攻撃・存立危機事態の迅速な認定が遅れ、即時性を特色とする現代の脅威に対応できないおそれがある。

それぞれの段階での権限は、武力攻撃事態(切迫事態含む)では、防衛出動が発令されるが、切迫事態では相手の攻撃があるまで武力行使はできない。武力攻撃予測事態では、内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣が出動待機命令を発令し、施設の構築等を行うことが可能となる。存立危機事態では防衛出動が発令され、集団的自衛権の限定行使を含む武力行使が可能となる。

武力攻撃切迫事態でも、相手の攻撃があるまでは武力行使はできないという規定に変化はない。しかし、それでは我が方に犠牲が出るまで対応できず、大量破壊兵器による奇襲攻撃などに対する脆弱性が高まることになる。しかし、この問題点は残されたままである。

これに関連し、国際慣習法では認められている、マイナー自衛権とも呼ばれる、平時の部隊の自衛権の行使については、論じられることなく、平和安保法制にも取り入れられていない。この点は、特に存立危機事態において、武力攻撃に至らない侵害に対し、自衛隊と他国軍が共同対処をしようとした場合に、自衛隊側だけが部隊の自衛権を行使できず、共同連携に齟齬をきたすことになる。この問題点も、今後解決されねばならない。

なお存立危機事態の場合は、海上輸送規制法に基づき「停船検査」を行う。「停船検査」では、停船命令、接近、追尾等を行いながら呼びかけを続け、従わなかった場合は、停戦のために艦長等の命令によって合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。

 

4 グレーゾーン事態

現代の脅威様相は多様であり、政府として対処しなければならない脅威には武力攻撃事態や存立危機事態には至らないが、日本の平和と国民の権利を守るために、政府として対処しなければならない脅威がある。そのような事態区分として採り上げられているのが、「グレーゾーン事態」と「重要影響事態」である。

「グレーゾーン事態」とは、武力攻撃には至らないが、海上保安庁や警察では対応できない事態を指す。具体的には、離島への武装集団の上陸、民間船舶への他国の武装集団による不法行為、日本への武力攻撃が発生していない状況で米国のイージス艦が弾道ミサイル発射の兆候をつかんだ場合などが該当する。

その場合は、自衛隊が対応することになるが、「防衛出動」ではなく「治安出動」または「海上警備行動」が根拠法規となる。しかし、「治安出動」等は警察行動の一環であり、武力の行使はできず、武器の使用にとどまる。もしも、相手が本格的な武力による抵抗を始めた場合にも、防衛出動が下令されなければ武力行使はできない。

また、治安出動や海上警備行動の発令には閣議決定が必要だが、閣僚を招集して閣議を開いている間に、事態が急速に展開するおそれもある。このため、今回の平和安保法制では、「いかなる不法行為にも切れ目のない対応を可能にするため」、特に緊急の判断を必要とする場合には閣議や国家安全保障会議の審議を電話で行えることになった。併せて、関係省庁間の緊密な情報共有、調整、協力についても明記されている。このような、電話閣議等の規定が盛り込まれた点は、迅速な意思決定のための措置として評価はできる。また関係省庁間の連携も向上する。

ただし、前述したように、陸海自衛隊に対する領域警備権限がない現状では、相手方の武力行使のエスカレーションに応じて、迅速かつ組織的に対応することは、治安出動等の権限では限界がある。他方、武力攻撃・存立危機事態を閣議決定し防衛出動を下令するには、閣議での対処基本方針案の決定など、さらに時間を要することになる。それでは、事態の展開に間に合わなくなるおそれがある。この間を「切れ目なくつなぐ」領域警備に関する領域警備法制が必要である。

 

5 重要影響事態と同事態法

重要影響事態とは、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」である。重要影響事態法は同事態において、日米安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする活動を行う米軍等の外国軍隊への後方支援活動、捜索救助活動、船舶検査活動を行うための法律であり、「周辺事態法」から改正された。

改正点は、①当該国の同意があれば外国領域での活動が可能、②支援の対象が、米軍以外に国連憲章の目的達成に寄与する活動を行う外国の軍隊等に拡大、③後方支援活動の内容は、周辺事態法に定めていた業務に加え、新たに宿泊、保管、施設の利用、訓練業務、弾薬の提供、戦闘行動のために発進準備中の航空機への給油、整備が新たに加わった。

また、日本周辺の有事を対象とした周辺事態と異なり、地理的な制約は外され、グローバルな協力が可能になった。

ただし、後方支援活動、捜索救助活動、船舶検査活動のいずれも「武力攻撃との一体化」を回避するため、原則として「現に戦闘行為が行われている現場」では実施できない。また部隊の指揮官は活動中の場所やその近傍で戦闘行為が始まった場合、或いは始まりが予想される場合には活動の一時休止などの措置をとる。防衛大臣は活動地域が危険な状況になった場合などには、活動の中断を命じなければならない。活動の際には、原則として国会の事前承認が必要だが、緊急の必要がある場合には事後承認が可能である。

この「武力行使との一体化」論は、国際平和への貢献における他国軍の戦闘参加者の捜索救助活動の実施地域においても、同様に論じられている。「武力の行使との一体化」論は、わが国独自の考え方であり、自らは武力の行使を行っていなくても、他国が行っている武力行使への関与の密接性などから、我が国も武力行使をしたとの法的評価を受けることがあり得るとする考えに立っている。

この「武力の行使との一体化」論について「安保法制懇」の報告書は、「国際平和協力活動の経験を積んだ今日では、いわゆる「武力の行使との一体化論」はその役割を終えたものであり、このような考え方はもはやとらず、政策的妥当性の問題として位置付けるべきである」と論じている。

今回の平和安保法制では、従来は、戦闘地域の外に、戦闘が予測される場所があり、その外に非戦闘地域があり、非戦闘地域のみで自衛隊は活動できるとされてきた。今回の改正により、非戦闘地域、予測場所の区分はなくなり、「現に戦闘が行われていない地域」に統一された。しかし、戦闘地域との区分は残った。

だが現代では、前線と後方、平時と有事の区分がますますあいまいになり、後方が前線より必ずしも安全とは言えない。また、戦闘行為が始まった場合、或いは予想される場合に活動の一次休止などの措置をとることは、他国からは危険を伴う共同行動からの利己的な離脱行為とみなされ、日本への信頼を失う恐れがある。

なお、重要影響事態及び国際平和共同対処事態における船舶検査活動を定めた船舶検査法では、不審船等に対する乗船には船長の同意が必要である。このことは、船舶検査が実質的に強制力を伴わない、監視、呼び掛け、追尾に留まることを意味しており、他国との共同哨戒行動等では穴が開くことになる。

 

6 国際平和支援法の新設

国際平和支援法は、国際平和と安全の確保のために活動する他国軍隊に対して行う支援活動を定めた法律である。これまで自衛隊は、様々の国際平和支援活動に従事してきたが、いずれも事案が発生するたびに国会で法案を審議し、時限法を作った上で活動してきた。今回新たに「国際平和支援法」が恒久法として成立したことで、自衛隊の迅速な派遣準備、切れ目のない対応ができることになった。

この法律では、「国際平和共同対処事態」という概念を設定し、「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い、共同して対処する行動を行い、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの」と定義している。

活動内容は、協力支援活動、捜索救助活動、船舶検査活動であり、「重要影響事態」とほぼ重なるが、「重要影響事態」の「後方支援活動」が、国際平和支援法では「協力支援活動」となっている。

活動には例外なく国会の事前承認が必要である。国会の議決については衆参各院7日以内に行う努力義務規定がある。派遣が2年を超える場合は、再承認が必要になる。その際、国会閉会中や衆院が解散されている場合は、事後承認が見つめられている。命令権者は防衛大臣である。

この場合、例外なく国会の事前承認が必要とされているため、国会の議決を各院7日以内に行う努力義務規定があるものの、努力義務であり確実に7日以内に議決される保証はなく、即応性に問題がある。

また、国際平和支援法に基づく後方支援の対象国については、与党協議の中で、米軍以外は、物資や情報の相互提供の協定を結んでいるところのみを対象国とすることになった。その結果、米軍以外は豪州軍に限定され、それ以外の国を後方支援するには、当該国と協定を結ばねばならなくなる。そうなると、米豪軍以外の軍への後方支援は即時かつ柔軟にはできない。

 

7 国連平和維持活動及び国際連携平和安全活動

今回の法改正で、自衛隊は、国連主導ではない「国際連携平和安全活動」への参加が可能になった。「国際連携平和安全活動」とは、国連総会、国連安保理、経済社会理事会が行う決議や、国連、国連総会によって設立された期間、国連難民高等弁務官事務所、EUなどの地域機関の要請等によってとられる活動である。

活動内容は人道復興支援、停戦監視、安全確保業務、選挙監視、司令部業務、統治組織の設立、再建援助などである。国防組織の設立・再建に向けた指導、訓練なども行えるようになった。PKO参加五原則の一部見直しにより、自衛隊の活動内容に、駆け付け警護、住民保護のための治安維持などが追加された。また、武器の使用についても、これまでは自己防衛、装備品防護など、極めて制限されていたが、法改正により、国連の標準的な武器使用原則である、任務遂行型の武器使用が認められるようになった。

しかしPKO参加五原則の一部は改正されたが、当事者間の停戦合意、日本の参加への同意、中立性の維持、それらが満たされない場合の撤収、必要最小限の武器使用という原則は見直されなかった。

停戦合意の成立、相手国の受け入れ承認を前提とする限り、例えば朝鮮半島有事に在留邦人を自衛隊が救出に赴けるかは、依然として困難とみられる。受け入れ国の韓国すら、自衛隊の受け入れを拒む可能性が高いとみられるためである。北朝鮮の場合には、なおさらであろう。日本としては、在韓米軍の余った輸送力を使い、米軍に韓国などの領域外まで安全に輸送するようお願いするしかない可能性が高い。

 

8 事態全般に関連する自衛隊法等の改正

自衛隊の任務や組織編成、行動や権限、隊員の身分取り扱い等を定めた、自衛隊法は改正された。今回の改正では、主に自衛隊の任務、行動や権限に関する事項が定められた。「防衛出動」では、武力攻撃事態等に加えて、存立危機事態の際にも、内閣総理大臣は自衛隊の全部または一部に出動を命じることができる。

日米協力に関しては、自衛隊と連携して我が国の防衛に関する活動(共同訓練を含む)に従事する米軍部隊の武器等を防護するほか、弾薬を含む物品役務を提供できるようになった。

また、「在外邦人の保護措置」が新設され、海外で発生した緊急事態に巻き込まれた邦人の警護、その他の保護措置が可能になった。また脅威対象として、国と並んで国に準ずる組織が列挙されている。これらの点は、従来になかった規定である。また邦人救出という任務遂行のため、相手の攻撃の程度に応じて、自衛隊は武器の使用ができる。しかし、武力の行使は許されていない。この場合、武力の行使と武器の使用の区別が可能かどうかという疑問は残っている。

邦人救出について、これまでは航空機、船舶、車両等を使って海外にいる日本人を安全な場所まで送り届けることはできた。ただし、輸送だけで武器の使用は正当防衛に限られていた。今回の自衛隊法の改正により、武器使用を伴う救出も可能になった。当該国の同意があり、治安が維持されている範囲で、自衛隊は救出活動を行うことができる。ただし、邦人のいる建物が武装勢力により占拠されている場合など、かなりの困難と危険が伴う救出が可能かについては、はっきりしない。

また、「122条の2」の新設で、上官の職務上の命令に対する多数共同しての反抗、部隊の不法指揮、防衛出動命令を受けた者による上官命令反抗や不服従などに関して国外での犯罪行為に対する処罰規定が整備された。これらは、規律維持のために必要な規定であるが、その半面として表彰栄典、慰霊などの国として任務に準じた隊員の栄誉を称える施策の検討も必要であろう。

なお、国家安全保障会議設置法も改正され、「安全確保業務」、「駆け付け警護」、「PKO活動への司令官等の派遣」については、必ず審議することとされた。

 

まとめ

以上が平和安保法制の概要等であるが、改善点もあるものの、残された課題も多く、自衛隊の行動については、国際標準の規範に比べてまだまだ抑制的な内容となっている。現行憲法の枠内でぎりぎり可能な内容を詰めたとみることもできるが、今回の法制を「戦争法」などと喧伝するのは誤りである。現代の安全保障環境下で各種の脅威に切れ目なく対応し、国際平和に貢献するには、むしろさらなる法制の見直しが必要と思われる。

軍隊の行動は通常、ネガティブリストで規制するのが国際常識である中、自衛隊の行動に関する法制は、警察行動を律するポジティブリストで律せられている点に本質的な問題がある。複雑な法体系を再整理するには、国際標準に合わせたネガティブリストへの転換が必要であるが、それには憲法改正がなされねばならない。

 

 

[1] 定義、概要、改正点については、五~一二頁。事例とその分析については、同書第1章、第2章に、参照条文は、資料2に詳述されている。

 

(インテリジェンス・レポートより)

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