飛び交う独立社外取締役の是非論を切る
安田正敏 2014-05-20
- 取締役の少なくとも3分の1を「独立社外取締役」とし、どの取締役が当該「独立社外取締役」かを明確にすべきである。
- 「独立社外取締役」については、グローバルなベスト・プラクティスに則ったものとなるよう、会社法で定義づけるべきである。
- 取締役の研修に関する会社の方針を開示すべきである。
このような独立社外取締役の義務化については反対論も根強く、例えば、サイバーエージェント社長の藤田晋社長は、日経ビジネス5月12日号の「異説異論」というコラムで「社外取締役(独立社外取締役と解釈します)の義務化は無意味 設置しても不正はなくせない」として独立社外取締役の義務化反対論を述べています。しかし、藤田社長の義務化反対論は、義務化せずに「経営の状況に即して、会社ごとに判断をすれば良い話だ」という論理に立っています。
この論点は、4月26日に国会を通過した改正された会社法(以下、(改正)会社法という)の考え方に近いものです。つまり、(改正)会社法においては、独立社外取締役の義務化は見送られましたが、有価証券報告提出義務のある会社は、「社外取締役(注)を置かない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない」(会社法第327条の2)としています。 この方法は、英国のコーポレートガバナンス・コードにおける「遵守するか、しない場合は説明を義務付ける(Comply or Explain)」という方法を取り入れたものです。ここで重要な点は「説明」の内容です。(改正)会社法施行規則では「相当でない理由」は、個々の株式会社の各事業年度における事情に応じて記載しなければならないこと、また、社外監査役が2名以上であることのみを持って「相当でない理由」とすることはできないとしていること等、個々の会社の事情に応じて相当に説得力のある説明を求めています。つまり、標準的な模範解答的説明は許されないと理解すべきです。
これは非常に重要な意味を持っています。英国のコーポレートガバナンス・コードのExplainも会社の事情を考慮した説得力のあるものであれば、それがベスト・プラクティスとなり、次のコーポレートガバナンス・コードの見直しにおいてコードの中に採用される可能性を示唆しています。
この方法は相当に強制力があり実質的に義務化に近いものであると筆者は評価します。したがって、この方法においても義務化をした場合に懸念される状況と同じ状況が懸念されます。つまり、そのような説明は難しい、あるいは面倒だからとりあえず独立社外取締役を置いておこうという会社が少なからず出てくるのではないかという懸念です。これではコーポレートガバナンスの改善は期待できず無意味な施策に終わります。いままでの独立性の低い社外取締役の場合はこのような状況が少なくありませんでした。典型的な例はオリンパスの例です。5月19日号の日経ビジネスのコラム「世界鳥瞰 日本、ガバナンス強化なるか」(英エコノミスト誌5月2日の記事の翻訳)は、「オリンパスは社外取締役を3人置いていたが、彼らは当時の会長に従順で『授業中の生徒のようだった』と、ウッドフォード氏は述懐している」と書いています。
そもそも何故このような状況が存在するのかということを考えた場合、独立社外取締役の果たすべき役割について会社の経営者、独立社外取締役になる人の間で共通の認識がないということが大きな理由ではないでしょうか。それでは独立社外取締役の役割とはどういうものでしょうか。
オリンパス事件や冒頭に紹介したコラムのタイトル「社外取締役の義務化は無意味 設置しても不正はなくせない」という例に見るように、独立社外取締役は会社の不正を防ぐことだという役割がまず先に来てしまいがちです。経営者の不正に対して「NO」ということは重要ですが、これを言える人は他にも監査役がいます。独立社外取締役でないとできない重要な役割があります。
ひとつは、株主の視点をもって株主資本が効率的に使われているかというチェック機能を持つことです。これは社内取締役にも要求される役割ですが、細く長くキャリアを伸ばして行きたいと考えがちな社内取締役に多くを期待できません。
もうひとつのより重要な役割は、業績不振を続ける経営者に対して退陣を迫るという究極の役割です。社長の人事権の中にある社内取締役では一般的にはこの役割はあまり期待できません。独立社外取締役になる人はこの気概を持たずにこの職務を受けるべきではありません。
さらに、社内取締役の利益相反から離れた株主の立ち位置で会社の重要事項について判断をする役割があります。例えば、TOBを仕掛けられたときの判断があります。このTOBが成立した後の社内取締役を含む経営者の立場とTOBにおいて提案している事業戦略との間で起きる利益相反です。TOB成立の後に自らの立場が危うくなると予想する社内取締役は、TOBが提案している事業戦略が株主の利益になると想定してもそのTOBに賛成するかどうかの決断が難しくなります。このとき、明確に株主の立場に立って決断する役割を期待されるのが独立社外取締役です。
上記のような役割を全うするためには一人の独立社外取締役では無理があります。そのためには複数の独立社外取締役が必要となります。その意味で、冒頭の「対日直接投資に関する有識者懇談会」の外国企業等からの具体的政策提言のひとつの「取締役の少なくとも3分の1を『独立社外取締役』とする」という提言は意味があります。
一方で、現状は、そのような役割を担う能力のある人材が少ないという指摘もあり、その観点から独立取締役の義務化あるいは実質的義務化をしても意味がないという意見もあります。この点については稿を改めて議論することにします。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより)
The Author
安田正敏
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 専務理事、(株)FPG常勤監査役
1971年 東京大学経済学部卒業、(株)日立製作所入社、1973年より(株)日立総合研究所。1978年 Institut pour l'Etude des Methodes de Direction de l'Entreprise(IMEDE、現IMD) MBA。1983年よりシティバンク、エヌ・エイ東京支店フィナンシャル・エンジニアリング部長、1988年シティ・コープ・スクリムジャー・ビッカース証券東京支店長、1992年から2001年までキャンター・フィッツジェラルド東京代表。2009年より現職。
著書:「日本版SOX法実践ガイド」日経BP社
「内部統制システム構築マニュアル」(PHP研究所)
「経営リスク管理マニュアル」PHP研究所
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