東芝の第三者委員会報告書を読んで
安田正敏 2015-07-24基本的には、内部統制の機能不全、中でも企業風土、企業倫理などの企業活動を律する統制環境の破たんです。社外取締役の重要な役割の一つは、その会社の統制環境を評価することだと思います。そのためには、取締役会に出席するだけでは十分でなく、東芝の「社長月例会」のような社内の重要会議に出席し統制環境を嗅ぎ取る努力をすべきでしょう。
東芝の第三者委員会の報告書をざっと読みました。「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員長もつとめる久保利弁護士は「落第点」をつけています。それでも、日本を代表する企業のひとつである東芝でこんなことが行われていたのかという驚きはありました。
以下は、イオン監査役アカデミーの受講生からの質問に答えたものです。
大きく分けて2つの問題があると感じました。
ひとつは、日本の会社に一般的にみられるシェア・売上重視の経営戦略です。問題を起こした案件の多くは最初から赤字が予想される安値赤字受注です。これが問題の出発点です。この点は別途議論してみたいと思います。
もうひとつは、内部統制の機能不全です。中でも、統制環境の破たんです。
利益を上げろ、目標を達成しろということは社長や経営幹部にとっては当然のことです。
しかし、「会計処理の担当者、その上長である事業部長やカンパニーCP、コーポレートP、GCEO及びCFOに至るまで適切な会計処理に向けた意識が欠如していたり、稀薄であった」(報告書279ページ)という環境の中で、「各四半期が近づいて、もはや精一杯の営業努力をしても多額の収益改善を図ることが困難となってからも、会社の実力以上に嵩上げして設定された予算を達成するための『チャレンジ』が示されていた」(同277ページ)ということが行われていたとすれば、当然起こるべくして起きた事件といえます。
このような状況では、当事者(社長も含め)は不正、あるいは不適切なことをしているという意識はなくこれが日常化していたという状況が報告書から良く分かります。だから記者会見で田中社長(当時)が「不正なことはしていない」と言う趣旨の発言をしたことも肯けます。
監査役あるいは監査委員、社外取締役の役割についてですが、オリンパスも常勤監査役が元経理部長で不正の当事者、東芝も監査委員長が元財務部長であり報告書で問題が指摘されている当事者という事を考えると、社外監査役、社外取締役の責任は重要です。
業務執行取締役、執行役、執行役員の業務執行を監督するには、社外監査役、社外取締役も取締役会への出席だけでは不十分だと思います。東芝では、「社長月例会」と呼ばれる社長と社内カンパニー社長と会議があり予算達成状況をモニタリングしていたということですが、このような社内の重要な会議に社外取締役が出ていれば上記のような統制環境の状況は嗅ぎ取れるはずです。これからわかることは、社外監査役、社外取締役の重要な役割の一つは「統制環境を評価すること」だと思います。日経で報道された政府の指針ではこの点はあげられていませんでしたが重要な点だと思います。
内部統制システムの運用についての監査は内部監査部門がまず担うことになりますが、内部監査部門の監査が機能しているかどうかを見るのが監査役の仕事だと思います。監査委員会のある場合は、基本的に監査委員会が内部監査部門を指揮することが望ましいと思いますが、ほとんどの会社は社長へ直属しています。東芝も経営監査部と呼ばれる内部監査部門は監査委員会に報告するだけで指揮下には入っていませんでした。東芝の場合は経営監査部も監査委員会も機能していなかったようです。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより転載)
The Author
安田正敏
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 専務理事、(株)FPG常勤監査役
1971年 東京大学経済学部卒業、(株)日立製作所入社、1973年より(株)日立総合研究所。1978年 Institut pour l'Etude des Methodes de Direction de l'Entreprise(IMEDE、現IMD) MBA。1983年よりシティバンク、エヌ・エイ東京支店フィナンシャル・エンジニアリング部長、1988年シティ・コープ・スクリムジャー・ビッカース証券東京支店長、1992年から2001年までキャンター・フィッツジェラルド東京代表。2009年より現職。
著書:「日本版SOX法実践ガイド」日経BP社
「内部統制システム構築マニュアル」(PHP研究所)
「経営リスク管理マニュアル」PHP研究所
お問い合わせはこちらへ