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右脳インタビュー 神谷秀樹

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2012年9月1日

 

 

片岡:    今月の右脳インタビューはRoberts Mitani, LLC(注1)のFounder / Managing Directorの神谷秀樹さんです。Roberts Mitaniは、米国で日本人個人によって設立された初めての投資銀行です。神谷さんはバンカーとしてご活躍の一方、ご著書の「強欲資本主義 ウォール街の自爆」等も大変な反響を呼んでいます。本日は強欲資本主義についてお伺いしながらインタビュー初めたいと思います。

神谷:    私がGoldman Sachsにいた頃はまだ知恵と人脈を駆使して顧客にアドバイスをする投資事業部門が本流中の本流であり、パートナーたちが無限責任を負うパートナー制の時代でした。強欲な面もありましたが、「短期的には強欲になるな、長期的な強欲であれ」というものでした。それが株式会社として上場し(注2)、たっぷりの借入金で膨らませたバランスシートを使い、リスクを取って行うセールス&トレーディングと投資業務が収益の9割を占め、あれほどの強欲となりました。例えばそれは、今日の利益は僕のモノ、明日の損は、銀行が潰れたり公的資金を投入したりなどと、結局は国民が負担する、これは資本主義の誤用に他なりません。
それはサブプライムだけでなく、欧州も同じです。ギリシャでもスペインでも、お金を貸した大銀行は、ドイツの銀行も含まれますが、返せないほどのお金を貸して沢山儲けました。その上で投資した不動産プロジェクト等がどんどん潰れると、一般納税者に増税しろと言う。年金で生きている老人にとっては、国は借金したかもしれないが、自分が借りたのではないのに電気料金を値上げする、だから怒ります。そこに正義はありません。そして儲けた人は、既に、その儲けをどこかに移してしまっていて、動けない人、庶民に負担が集中します。
ドイツやフランスが救済するといっても、ギリシャにいくお金の3分の2は、結局、自国の銀行等に渡る、つまり自国の金融機関の救済です。一部の人が儲け、それを持って行ってしまい、明日の損は全員が負担しなければならない。これは世界中同じです。そこには社会の公正も民主主義もありません。そして、一番高いお金を獲った人は極端な節税に励む…。

片岡:    貸した国も、借りた国も同じ構造ですね。米国は、そうした強欲をシステムとして許容し、活用している面もあるのでしょうか。

神谷:    寧ろ政治の面では、ウォール街は圧倒的な力があり、特に共和党政権はウォール街と石油産業、軍需産業に支配されていて、ウォール街の出身者が名を連ねる閣僚名簿などを見ても明らかです。民主党は若干違い、オバマ大統領になって彼らと戦うと言っています。しかし伝統的には、この3つの産業が支配しています。
世の中が曲っていく中では、人間復興なくして経済復興はありません。そのためには選挙制度と税制の改革がまず必要です。今までは富裕層に有利になる税制を行ってきました。例えばヘッジファンドのマネージャーは、自分のお金をリスクしたわけではなく、フィーなのに、キャピタルゲインとして課税、実効税率は15%程度に抑えられています。一方、そのセクレタリーは35%課税されます(注3)
また政府高官になる際、利益相反を防ぐために保有株を売却すると、半ば強制的な売却であるために、キャピタルゲインに対する税金を免除される、タックス・ホリデーと言われる特例があります。インベストメントバンカーの中には、大統領選の候補者に多額の寄付をして、パートナーを辞める時に政府高官に就いてタックス・ホリデーを得る、大使にしてもらい治外法権となる…。はじめからそれを目的としていることも多々あります。

片岡:    大統領が自分の後援者(注4)を、大臣や大使として実質的な年収10億円で雇うといえば、国民の理解を得るのはなかなか難しいでしょう。

神谷:  そうした仕組みを支えている選挙制度ですが、予備選挙や大統領選挙ではスーパーパック(注5)等で、相手のネガティブキャンペーンを、特に投票日の3日前くらいから徹底的に流し、票をもぎ取るというようなことが行われます。これが民主主義でしょうか? 資本主義だけでなく、民主主義も誤用されています。
日本でも同じです。家電メーカーがテレビ事業で苦しんでいます。本当は地デジに移行するだけでも大きな需要が見えていました。そこに税金で更にエコポイントを付けました。過剰需要ができ、過剰な設備投資が行われ…、終わってみると7000億円損した、2000億円損した…。メーカーはこれから赤字の7000億円分、税金を払わず、人員削減も行うでしょう。結局、損はすべて一般庶民にいきます。それがわかっていながら景気対策だ、エコポイントだ…と、どんどん圧力がかかり、それが国会で通ってしまう…。こうした資本主義、民主主義の誤用を直していかないと、ヨーロッパの例のように極右、極左が台頭してきます。そうすると嘗ての全体主義が歩みを始め…、世界的にそういう分岐点に来ています。
欧州統一は見果てぬ夢、二つの議会だけでも法案を通せないのに17か国、或は25か国にそれぞれに議会があって多党制で割れている…。危機に際して民意が一つに集まるのではなく、寧ろ、どんどん割れています。今経済的に援助するといいますが、では、どこに到達するためにやっているのでしょうか、その絵がありません。本当は欧州の人たちもバラバラになるということがわかっていても、一気に瓦解させないために、一生懸命、統一するといいながら時間を買っているのではないかと思います。例えばドイツの世論調査では50%以上の人がユーロから抜けてドイツマルクに戻るのがいいと考えています。民意に逆らって、民主的な力で統一するというのは考えられません。この民意が反映するとき、強い国が出るか、弱い国が追い出されるかでゲームが終わります。マーストリヒト条約を結んだ20年前から間違っていた、間違った以上、やり直すしかありません。

片岡:    投資銀行家として、どのように備えているのでしょうか。

神谷:    ユーロが落ち着き、通貨にはスタビリティーがあって、共同債が発行されて、ドイツ人がお金を出しても規制するのは欧州中央銀行…。ドイツはスペインの銀行の経営指導もできない、これでお金を出せるでしょうか? プロパガンダのように欧州中央銀行とかEC等が出てくるだけで、架空の事が語られ、どうにか格好を維持しています。こうなると大不況を迎えるしか処方箋がなく、その必然を通らないと次のステップはないでしょう。今、中央銀行等がお金を出していますが、行き場を失うお金を増やしているだけで、奈落の底を深くするだけです。
日本も、個人の資産が1000兆円、政府の借金が1000兆円、国破綻して個人にお金が残る、でも個人が持っている資産は結局、国債で、国民の資産もなくなる…。誰もかもイリュージョンの中に生きています。
だから資産の運用を考えるときは非常に大きなクラッシュが来ることを前提に考え、今は株でも、債券でもなく、例えば砂漠に投資を進めています。砂漠というのは土地代が非常に安いけど、地下には水が流れています。その水をくみ上げて灌漑をし、バイオテクノロジーで砂漠向きに品種改良したピスタチオを栽培しています。経済に何が起ころうと木は実を付けます。しかもピスタチオが育つ場所は世界中で非常に限られているし、生産者も限られ、米国でこれを作っている業者は7社しかありませんし、育つまでに7年以上かかりますので、なかなかまねできません。また木は毎年、実を付けて配当します。これは投資ですが、金は同じ量の金の値が上がったり下がったり…これは投機です。投機はしません。
この事業はアリゾナの砂漠で行っているのですが、殆ど100%輸出、4割は中国向けです。砂漠という雇用が殆どなかった場所に雇用が生まれ、砂漠も緑化します。ポイントは、この市場が株式市場や債券市場と関連がないことです。普通、オフィスビル等は債券価格を基準に値段が決められています。今は金利がゼロに近く、上がるしかない。そうなると債券価格は下がるしかなく、それに連動するものはすべて値崩れするでしょう。

片岡:    新興国の中産階級の伸びに需要が連動していると、不況になった時、暴落する可能性はないのでしょうか?

神谷:    ピスタチオは生産地も生産者も非常に限られていて、投資は大きい場所でも、ゴルフ場30個分(6000エーカー)、募集額は6000万ドルくらいと大きなビジネスではありません。一方、コーヒーは無限数の生産者がいて無限数のバイヤーがいる、そして先物市場があります。こうなるとと投機家のお金が入ってきて、実需が2割、8割は仮需となります。だからコーヒーや石油はいつ暴落するかわかりません。なぜ、そんなに増えたかというと金融を緩和したからです。金融を緩和して量を出そうとしますが銀行は担保がないと貸さず、結局、担保となりやすい金や石油といった現物にお金が向かい、実需ではなく仮需を膨らませます。もっと酷いのは為替で、90%以上が投機です。だからあんなに乱高下します。

片岡:    御社はベンチャー企業の育成に力を入れていますが、どのような形でフィーを取るのでしょうか。

神谷:    通常、我々のフィーは現金5%、株5%です。小さい金額の場合、現金ではあまりフィーになりませんが、その代わり大きくなって上場したり、買収されたりすれば、株の方はとても良いボーナスとなります。私どもも、会社を経営できるくらいの現金を戴かねばなりませんが、それより、その会社が生む将来の価値に対する参加権を戴くことが楽しみです。いろんな発明家が世の中の未解決のニーズに対してソリューションを提供しようとしています。私はバンカーとして、彼らにお金を集め、彼らがものを売れるシステムを作る、アメリカで作っているものを日本でも使えるようにする、そういうことの橋渡しをします。世に出して、未解決のものが解決する、その喜びは大きいものです。

片岡:    年にどれくらいの案件を取り扱うのでしょうか。

神谷:    だいたい20件くらい手掛けます。今、社員は10人くらいですので、それ以上は難しく、とにかく時間と手間がかかります。毎日、雨にも負けず、風にも負けず、煉瓦積です。案件の8割が医療関係、後は新エネルギー等です。基本的に特許やブランド、或はピスタチオのように生産地や生産者が限られるなど何らかの形で知的な資産が保護されているもの、そういう知財をどうやって活かすのかが中核です。どういう事業が成功するかというと、①基本的にニーズがあるがそれが満たされていない。②その技術的なソリューションを提供している。③知財の保護、排他性が確保されている。④あれば便利ではなく、なければ困る。⑤安いこと。エネルギー等で補助金があればやっていけるというのは、我々はもう懲りています。⑥開発コストがどれくらいかかり、どの程度の期間で収益に結び付くか等が見えること。⑦人、経営陣や株主。⑧数や量より質が大切です。ですからオーファン・ドラッグ(注6)のように市場が限られているものも扱います。
補助金については、今、政府は全部赤字ですし、いつ補助金がなくなるかわかりません。またシェールガスが出てきて、殆どの新エネルギーはコスト的に勝てなくなってきています。補助金が切れた時、3分の2の会社がなくなるでしょう。バイオディーゼルもエタノールも、またスペインのソーラーは既に潰れています。中には補助金があるうちに儲けて上場し、お金がポケットにあるうちに逃げてしまう、そういうケースもでてくるでしょう。

片岡:    失敗例もお聞かせ下さい。

神谷:    失敗は沢山しました。バイオディーゼルの効率的な機械を作る会社を手伝いましたが、トウモロコシと大豆の値段が高騰し採算が合わなくなりました。機械の注文が55件も入り、内金を払った方もいたのですが、全部キャンセルになりました。またブラジルでバイオディーゼルの油の取れる実がなるジャトロファの大農園開拓を、株を戴き手伝いました。資金の半分、1億5000万ドルをオランダの年金が出して、あと半分となった時にブラジルで、外国人の土地取得制限法が出てきてダメになりました。
エネルギー関係は殆ど全滅です。原料の値段が変わるとか、法律が変わるとか、技術が今一歩至らなかったとか…。本当に難しい。特に今は安いシェールガスが出てきた…。そんな中、日本はエネルギーコストを高くする方向で支援しています。エネルギーコストが高ければ、それだけ日本の産業が弱くなります。どうやって安く確保するかを考えるべきで、そこが勝負のはずです。
さて、今の日本の最大の問題は起業家精神の欠如です。だからこそ、金利をゼロにしても財政投融資をしても20年間成長せず、何をやっても景気が改善しません。例えば、今の日本人は誰かが国際標準を作れば、それに乗ります。出来たときは市場の8割は人にとられてしまっているのですが、自分で国際標準を作る、あるいは誰かが国際標準を作っているときに参加するということには乗りません。こういう起業家精神がないことが当たり前になってしまっています。

片岡:    新エネルギーは、どんなに失敗を重ねても挑み続けるべき価値がある…。ところで、なぜ日本では起業家精神が失われているのでしょうか?

神谷:    例えば大企業は何か困ると「選択と集中」といいます。しかしこれは間違いです。何故かというとトップは過去と現在しか見ていないからです。トップが説明を求めると、見える化ということで過去の実例、現在の財務諸表が大半を埋めた1枚の紙がでてきます。しかしベンチャー投資はずっと債務超過が続きます。ベンチャー企業の財務諸表で見るべきは、現金がいくら残っているかだけです。あとは、研究開発の進捗、特許の確立、販売提携等、数字でないクオリティーが大切で、これは未来を見ることです。見える化や選択と集中が形骸化し誤用される中で、こうした未来が落とされるということが続いています。
ですから会社を再生には、社内にある起業家精神を、官僚主義や短期的な視点から解放すること、人を解き放つことが一番大切です。会社を経営しているのは、証券アナリストではなく経営者なのですから。
例えばソニーの社員の中には絶対に起業家精神があります。しかし予算、人事、報告書…という中で、どんどん潰れてしまう。ならば1単位5人として、1万社で5万人。それくらいに分社して、ソニーの持ち分は5割以下にし、残りは、従業員、或は従業員が他の株主からお金を集める…。かわいい子には旅をさせて、勝手にやらせればいい。9割は潰れてしまうかもしれませんが、1割の中から、フェースブックのような会社が出てくればいい。フェースブックは時価総額1000億ドルで上場、今のソニーは100億ドル以下です。どちらを試しますか? と言われたら、私には、これ以外にありません。ここで成功した人が本当のソニーのブランドを継承する資格のある人材で、他の人はソニーのブランドを継承する資格が本当はないのかもしれません? 平井新社長が選択と集中と言いましたが(注7)、今まで同じことを言って間違ってきたのではないでしょうか? これはソニーだけでなく、日本全体の問題です。井深さんが作ったものを盛田さんは、売れるかどうかではなく、絶対に売ると米国に行った。これは日本人の中に絶対にあるものです。しかし、それが潰されるようなシステムしかない。それを解放するのです。
さて、最後に、マキアヴェッリの言葉に「普通、人間は、隣人の危機を見て賢くなるものである。それなのにあなた方は、自ら直面している危機からも学ばず、あなた方自身に対する信ももたず、失った、また現に失いつつある時間さえも認識しようとはしない。あなた方の考えを変えないかぎり、いたずらに涙を流すことになるだけであろう。
わたしは、はっきりと言いたい。運は、制度を変える勇気を持たない者には、その裁定を変えようとしないし、天も、自ら破滅したいと思う者は、助けようとはしないし、助けられるものでもないのである、と。
とはいえ、わたしには、自由なフィレンツェ人であるあなた方が、そしてそれを決定できる力をもつあなた方が、自滅を望んでいるとはどうしても信じられない。ためにわたしは、あなた方が、自由に生まれ、自由に生きたいと望む者ならば考慮せずにいられないこのことを、尊重されるにちがいないと信じるのである」(塩野七生『わが友マキアヴェッリ』中央公論社)というものがあります。フィレンツェを今のイタリア、日本に置き換えてみて下さい。

片岡:    貴重なお話を有難うございました。

~完~

 

 

インタビュー後記

 

神谷さんは「世の中の先を見通すのは経済学者ではなく、芸術家や宗教家だ」と断言します。人間復興を掲げたのはヨハネパウロ2世。またキング牧師は「パウロからアメリカ人への手紙」という表題を付けた説教の中で、資本主義の誤用と格差の問題を明確に指摘し、原子力も使うべきでないと反対していたそうです。

さて、世界を飛び回り、多忙な日々を送る神谷さんですが、その合間を縫って、教会の祈りの場に掲げられる宗教画を巡るのが楽しみで、美術館の白い壁に飾られた芸術作品よりも、絵の命を感じるのだそうです。

 

 

聞き手 片岡 秀太郎

 

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。クライシス・マネジメントとメディアに特化したアドバイザリー事業を展開 < http://chizai-tank.com >

 

 

脚注

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