右脳インタビュー 鮫島正洋 内田・鮫島法律事務所 パートナー弁護士・弁理士
片岡: 今月のインタビューは鮫島正洋さんです。本日は知的財産についてお伺いしたいと思います。宜しくお願い申し上げます。
鮫島: まず全体的な話からすると、嘗ては日米欧三極が世界のGDPの70%近くを占め、特許も主にその中で考えればよかったのですが、今ではその三極のシェアも45%ほどになり、BRICSが大きくシェアを伸ばし、次に中東やアフリカの市場も立ち上がってくるといわれます。市場がこれほどグローバル化すると、各国ごとに設定された特許権をとるのは手間もコストも大変で非現実的です。そもそも各国は、特許審査を、自国だけでなく、世界各国の文献を調べたうえで判断しますので、まったく無駄な重複です。そうした中で、先発明主義だった米国も先願主義に移行、各国の制度は、大きなところでは違いがなくなってきており、世界統一特許制度を作るというような構想もあるともいわれていますが、強い反発もあります。世界特許庁ができると、各国の特許庁は大幅に削減されて代理人(弁理士等)も各国に申請するという仕事がなくなっていくからです。いきなりそこまでいかなくても、例えば米国で特許をとれば、他の国でも特許になるというようなものでも、競争力のない特許庁は依頼が来なくなっていく…。いずれにしても、中短期的には、欧州のように東南アジア統一特許やアフリカ統一特許といった地域毎の統一特許というものがでてくるでしょう。
片岡: 発展途上国は特許制度をどんどん発展させることに積極的ではないのでは?
鮫島: 例えば東南アジアのある国では、年間1000件の特許が出されています(日本は約30万件/年)。ところが、その1000件の8割、9割が外国資本の特許だとすると、そもそも特許制度は国益に適っているのかという疑念が生じます。そういう観点からいえば、あまり特許制度を発展させたくないでしょうが、一方、先進国からの投資を得るためには特許制度の整備が求められます。そのトレードオフの中で、自国の特許制度をどこまで進めていくのかということです。中国も当初、特許制度は自国の発展を阻害するという感覚でしたが、世界経済の主流に躍り出ると同時に特許制度を急速に整備してきました。特許制度は、その国の成長度合いと強い相関があるものです。
片岡: 特にコモディティ化(ここでは、満了特許だけを使って製造できる製品のスペックが、世の中の要求するスペックに達することをいう)した製品の製造だけで十分産業発展も可能な国も多いでしょうね。
鮫島: 自国のR&Dによって産業を発展させようというのであれば特許制度を採り入れる必要がありますが、コモディティ製品の製造で十分というのであれば、あまり必要ないでしょう。20世紀までは、特許制度を整えて、企業等が中心となって研究開発をして特許を取り、それによって国の競争力も上がっていくというものが普遍的なモデルでしたが、今は違ってきています。例えば中国は先程述べたように、科学技術に対しても力を入れ、特許制度も整えてきましたが、実際に同国を潤わせているのは明らかに特許モデルによるものではありません。そういう流れの中で、そもそも特許は今でも有効なのかというのがコモディティ化の話です…..