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右脳インタビュー 柴山昌彦

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片岡:  今月の右脳インタビューは柴山昌彦さんです。本日は6月に政府が発表した“日本再興戦略 改訂2014 -未来への挑戦-”注1と、それに反映させるべく自民党の考え方をまとめて5月に発表した “日本再生ビジョン”注2について、特にコーポレートガバナンスの面からお話をお伺いしたいと思います。宜しくお願い致します。

柴山:  私のコーポレートガバナンスとのかかわりは、2年前のオリンパス事件注3が契機となりました。この事件が日本の企業統治に投げかけた問題は大きく、そして社外取締役がコーポレートガバナンスに与えるインパクト、意味の大きさに気づかされました。当時、法務省でも会社法改正案が議論されて社外取締役の独立性をより強化するといった改革案が示されていたのですが、私はそれでは生ぬるいと感じ、1、社外取締役の独立性を高めるための要件厳格化 2、上場会社における複数独立取締役選任義務の明確化 3、会計監査人選任における監査役・独立取締役のあり方 4、公益通報制度の実効化…等といった企業統治改革案を纏めました。野党時代でしたが…。
さて、コーポレートガバナンスの基本的な考え方は、国によって違いがありますが、基本はモニタリングであって、何がモニタリングの主体として相応しいかという議論はあっても、執行を担当する役員から離れた形での監視、チェックが必要ということは疑う余地がありません。しかし、今の日本において、モニタリングの仕組みをきちんと機能させようと考えた時に、日本の会社法におけるコーポレートガバナンスに関する規定は海外から大きく取り残されているし、企業文化、商慣行とも相まって、極めて難しいのが現状です。だからまず重要なのは2の複数独立取締役選任義務化だと思います。立派な社外取締役を入れても、一人四面楚歌の中でモニタリングの役割を果たすことは難しいし、もともと社外取締役は利益相反色の強い、役員の選任、指名、報酬等について、公正性を担保することを期待されています。そうした対立的な事柄でキチンと協議するためにも、一人では難しいのではないでしょうか。

片岡:  その後どうなりましたか?

柴山:  私の企業統治改革案は、自民党の選挙公約に付随するインデックスという政策集に入ったのですが、政権復帰すると私は総務副大臣になり、この問題から離れてしまいました。経団連のプレッシャーなどもあったのでしょう、参議院選の公約なども、いつの間にか社外取締役は「1人以上」となってしまいました。そして今通常国会で成立した改正会社法で、一人以上の社外取締役を入れることについて、「遵守せよ、さもなくば、従わない理由を説明せよ(comply or explain )」 ルールが導入されました。
さて、日本では機関投資家に出資者に対する説明、或は権利行使の責任を持たせるといった、日本版スチュワードシップ・コードを導入しました。しかし、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方を諸原則の形でまとめ、会社法ではなく従則というような形で、それを守らなければ一定の説明責任が生じるようなコーポレートガバナンス・コードはまだ出来ていません。海外の投資家は、企業のプラン、事業についての判断もさることながら、そういった判断に至る過程がフェアで投資家の利益が考えられるような体制ができているかということも重要視してきています。勿論、日本らしさはあってもいいのですが、それが、きちんと投資するに堪えるものだろうかということが大切で、コーポレートガバナンス・コードの導入を今回“日本再生ビジョン”の大きな柱としました。そしてハードローとは違うコードという形態ならば一歩進んだものを方針として提示できるのではと「上場株券の発行者は、取締役である独立役員を少なくとも2名以上確保することとする。独立役員を少なくとも2名以上確保しない場合、相当でない理由を説明しなければならない」という文言を盛り込みました。

片岡:  “日本再興戦略 改訂2014”では、「上場銀行、上場銀行持株会社について少なくとも1名以上、できうる限り複数の独立社外取締役導入を促す」と銀行について「複数」を言及するに留まりましたね。

柴山:  やはり紆余曲折があって…。諸外国では社外取締役を過半数入れているところもある、こんなレベルの低いところでやっていたら、国際競争力が損なわれる等と法務省や金融庁等とやりあいましたが…。兎に角、社外取締役を「複数」にすることができれば、「1人」で潰されてしまうことはなくなりますので、まずはそれが私の当面の目標です。
その他にも例えば、“日本再生ビジョン”ではコーポレートガバナンス・コードについて「東京証券取引所が具体的コーポレートガバナンス・コードを来年の株主総会のシーズンに間に合うように制定する」と書いていたものが、曖昧な形にされてきた案が出てきたり…。幸いこの部分は、原文に近い形の『東京証券取引所が、来年の株主総会のシーズンに間に合うよう新たに「コーポレートガバナンス・コード」を策定することを支援する』というところまで戻すことができましたが、最後の最後まで、随所で、ずっと役所は抵抗していました。
ところで、こういう経団連が嫌がるようなものを作るときは、何処を中心にしてやらせるかが大切で、塩崎恭久先生とさんざん考えました。例えば東証は経団連の会員会社はお客様ですので、厳しいことを言おうと思っても反撃にあってしまう。だから東証の監督官庁である金融庁を持ってこられないかと考えました。しかし彼らは面倒な事には巻き込まれたくないから「東証にやってもらえばいい」等と言いながら一向に受け入れません。それならば政府がトータルでやってもいいと思った時期もあったのですが、政府となると、経産省が経団連に近いので、力学的に不利になってしまいます。やはり金融庁しかない、もし金融庁がどうしても嫌がるならば、政治主導で、例えば「塩崎や柴山がうるさいことを言っているから…」といった言い訳等も用意し、金融庁主導でコーポレートガバナンス・コードのひな型を作らせよう等とも考えていたのですが、結局、金融庁と東証の共同事務局とする有識者会議で考え方を纏めるということに落ち着きました。

片岡:   “日本再生ビジョン”では「社外取締役と監査役による合議体を内部通報窓口にするなど、内部通報制度の充実やその活用に向けた制度の構築が合わせて必要である」とありますが、“日本再興戦略 改訂2014”では内部通報制度についての言及がありません。

柴山:  社外取締役というのはパラドックスを抱えています。社長から独立をしていることの最大の強みは、社長に物を言えることですが、最大の弱みは中の事を知らないことです。だからモニタリングを機能させるためには、中の事をしっかりと把握させることが大切です。一方、中にいる人の最大の強みは中の事を良く知っていること。最大の弱みは上に言えないこと。ですから、中の人と外の人をうまく情報連携させると、ガバナンスはよりうまく働きます。例えば社外取締役や或は内部通報制度の窓口を務める弁護士に対して内部告発をできるという線を作るだけでもそうとうな牽制になります。そう考えて“日本再生ビジョン”の中にも内部通報制度の充実を盛り込んだのですが…。

片岡:  「株式持ち合い解消、銀行等金融機関などの株式保有規制強化」等に関する記述も殆どなくなっています。“日本再生ビジョン”で示されているような銀行等保有株式取得機構ができれば持ち合い解消が大きく進んだのではないでしょうか。

柴山:  金融機関が株を持つということは、クライアントである事業会社に対して、①融資という形で高い金利を払ってもらい、その代わりガバナンスにはタッチしない。②利益は配当しかもらえないけれど口を挟んでいくという二つの立場があります。系列を作るという意味もありますが、銀行本来の業務としては寧ろ利益相反といっていいかもしれない。というのは例えば回収の極大化を図るためには、企業再生等も促していくということになるのでしょうが、株を持っていると、再生に持ち込むと紙くずになる。そうなると判断が鈍ることも多い…。
特に地方も含めた企業の新陳代謝が求められる中で、金融機関が株式を保有するということについては、一定の合理性が説明できなくてはいけないはずです。しかし、事業会社には銀行に株を持って貰いたいという要望が依然あります。傾いたときに、助けてもらえるからです。だから一気に持ち合いの解消を図る取得機構まで作ってしまうと、かなりまずかったのかなと。今回、この持ち合い解消は塩崎先生がかなり役所とやりあっていました。金融機関の関係の業界団体や経団連の会員企業の役員といった方が抵抗勢力としては大きかったようでした。

片岡:  法人税の引き下げは、コーポレートガバナンスを進めるうえでは良いカードにもなりましたね。

柴山:  そうかもしれません。麻生太郎財務相の「法人税を下げた場合、増えた金を何に使うのか。内部留保に回るのなら何の意味もない…だからこそコーポレートガバナンスが必要だ」というような発言もあり、この影響が大きかったことは事実です。最近は新聞もコーポレートガバナンスに関心を示すようになってきましたが、去年の会社法改正の時は少数でした。しかし、潰れるはずの会社が潰れずに、退場するはずの役員が退場しないというのはおかしいし、結果として日本の企業の生産性は欧米に比べて低く、特に第三次産業などは酷い。だから、ここで、法人税減税とセットで、それをキチンとした投資に回すというような意味合いも含めて、コーポレートガバナンスによるROEの向上を進めなければならないというような認識を経済界やメディアの皆様にも意識をもっていただけるようになったと思います。

片岡:  “日本再生ビジョン”には駆け引きの中で、今回は切り捨てるつもりで組み込んだもの、或は、環境整備として世論を醸造するためにまだ実現が難しくても盛り込んだものなども当然ありますね。

柴山:  勿論そうです。そういう意味でも、“日本再興戦略 改訂2014”にはメインとなるものがキチンと入り、ここまでできたということは満足しています。

片岡:  コーポレートガバナンス・コードの導入など、本当に大きな一歩となりました。後は細部で骨抜きにさせないように実効性を担保していくのだと思いますが、まずはコーポレートガバナンス・コード策定に向けて「東京証券取引所と金融庁を共同事務局とする有識者会議において、秋頃までを目途に基本的な考え方を取りまとめる」とありますが、この有識者会議の人選がどのように行われ、どういた人が選ばれるか…。

柴山:  人選はトータルとしては金融庁が進めることになります。東証は金融庁を監督官庁とする組織ですから。まだ報告を受けてないので、はっきりとわかりませんが、今まで申し上げてきたような主旨を没却するような不当な人選であってはいけないので、我々もしっかりと見届ける必要があるし、どうしてもとなれば、必要な手段を講じます。
さて、今回会社法の改正が成立し、またコーポレートガバナンス・コードが来年の6月までにできることになりました。基本的には、コーポレートガバナンス・コードはそこからはじまる一年について適応されます。つまり会社法改正の施行から数えると、更に一年あるわけです。今回の会社法の改正は、施行の2年後に見直し、コーポレートガバナンス・コードの浸透度も見ながら、会社法改正という作業が待っています。その他、“日本再興戦略 改訂2014”には明示的に株式の持ち合いの問題を書いていますので、それも見ていかねばなりません。後は、まだ現時点では難しい問題も多いので、やはり社外取締役を強化するということと、explainの場合、つまり社外取締役を置かなかった場合の、しっかりした説明責任の詰めもしていきたいと思います。

片岡:  貴重なお話を有難うございました。

 

<完>

インタビュー後記

「これまでのマニュフェストや提言集といったものは、ともすれば省庁毎に出てくる提言をホチキス止めしたようなものでしたが、“日本再生ビジョン”はプロジェクトオリエンティッド、省庁の垣根を越え、インパクトのあるもの、重要なものから順番になっていて」、柴山さんは”日本再生ビジョン”に金融資本市場・企業統治改革グループの主査として、一番目の法人税、2番目の企業統治改革、3番目のGPIFと上から3つ、そして金融抜本改革や金融機関のコーポレートガバナンス等を担当、改革を強力に推進しています。
さて、通常、政治家が色々なレポートを作る場合、調査・立案に配分できる予算や人員は限定的で、その基盤となるデータは勿論、立案までも官庁に大部分を依存しているのが現状です。このため、官、或は質の高い(種々の要件を満たす)政策案や調査・研究結果、人材、資金等を提供してくれる利権団体等と、意を異にするものは立案段階から大変な困難があり、そもそも土俵にも上がれないことも多々ありました。しっかりとしたものに立案できても、更に激しい政治的駆け引きがあり、成立しても実効性を…。日本は、国内的にも、国際的にも、色々な意味で岐路を迎えています。柔軟性と多様性の担保する仕組みが不可欠ではないでしょうか。

聞き手 片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を開設。

脚注

注1 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf
注2 http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/pdf189_1.pdf
注3 http://ja.wikipedia.org/wiki/オリンパス事件

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