先物取引―中国は石油など資源の最大輸入国となり習政権は国際価格形成に影響力をと先物取引に力をいれるが投機に利用されない市場ができるのだろうかー
習独裁政権は政策を進める上で民主国家のような余計な議論がないので政策遂行は迅速だ。過剰設備削減によって国営製鉄会社の純利益は前期の2.6倍(2017年)となり中国鉄鋼業界は好況に沸いたが年間12億トンもあった生産能力を1割削減し、さらに地条鋼(スクラップを溶かして簡単な設備で生産するため品質・成分が不安定となる)の撲滅も市況回復に寄与した。鋼材価格の上昇は国を挙げて推進した過剰生産能力の削減によるものだ。ただし米国の鉄鋼などの輸入制限を受け鉄鋼の好況は踊り場にさしかかっていると見る向きも多い。米国の輸入制限により市中では鋼材が20%安で取引されるなど市場での冷めた見方が多い。鋼材需要の大半は不動産市場だが、先行きは不透明とされている。北京や上海などの主要都市の住宅価格は横ばいとなり、自動車販売も勢いがない。地方の中小メーカーが再び設備増強に動く気配もある。習近平指導部は生産性改善や環境対策を名目に石炭、鉄鋼、非鉄などの余剰生産能力の削減を急いだ結果、資源や資材の価格が伸びさらに原油価格の底入れもありシノペック(Sinopec、中国石油加工集団)は純益が500億元を超えたとも言われている。金融以外の国営企業中心の純利益は前期より39%増益とも言われている。中国は昨年10月の共産党大会をにらみ公共投資のアクセルを踏み込んで来たがその結果党大会後も景気拡大が続いたとみることができる。最近のトランプ政権の鉄鋼・アルミなどの輸入制限に対し中国側が過剰に反応している事情はこのあたりにある。
1. 商品市場;価格変動リスクの抑制(いわゆるhedge機能)と価格の形成に使う先物市場は世界中に40以上あるが特に米国のNY Mercantile 取引所(NYMEX)は昨年の売買高は約6億5千万枚で世界でも最大の取引所となっている。ここに上場しているWest Texas Intermediate(WTI)原油は国際価格の指標となっている。同じく米国Chicago商品取引所(CBOT)の穀物先物も国際取引の指標となっている。英国も先物取引が活発でLondonのIntercontinental取引所(ICE)では北海ブレンド原油を上場している。銅などの非鉄金属を取引するLondon金属取引所(LME)も有名だ。一方急速に売買高が伸びているのが中国だ。元々投機好きの国民性だが、適当な投機の場所がなかったこともあるが、上海期貨交易所は昨年度の売買高はNYMEXを遙かに上回っている。(大連交易所も同様で商品は鉄鋼石や石炭が主たるもの)3月末に上海で上場した原油先物は海外投資家が得た利益の課税を当面免除する特例を出した。参加者の確保とともに中国の先物市場への影響力が強くなるとみる。昨年原油輸入国としては世界最大となった中国は自国の需要動向を国際価格に反映すべく人民元建ての原油先物取引を開始した。上場場所は上海国際エネルギー取引所で市場参加者を増やすため取引に参加する外国企業の税制優遇とか個人にも3年間所得税免除とか普通の国では考えられない優遇策をとりいれている。米国のWTI,欧州の北海ブレントが従来の指標だが欧米主導の価格決定に不満でもあるが米国との貿易摩擦もあり対米けん制の狙いもあるのだろう。
中国では非鉄金属や鉄鋼関連先物の売買高が急増し国際相場への影響が著しい。問題は個人投資家が売買の過半を握っており、本来の商品先物市場の最重要項目である企業のヘッジ取引に使われていない。その結果、投機的取引に重心が移っている危険がある。中国は金属資源の最大の消費国だが、原油も輸入量では最大となった。中国政府の思惑は国際的価格の形成に影響力をと言う考えだが果たして投機に利用されない市場ができるのであろうか。日本でも原油の先物取引を巡り日本市場は空洞化するであろう、企業は日本の需給などが反映されない割高な原油を購入せざるを得なくなる恐れもあるとして原油の先物について中国への対抗策が必要だとする意見も多い。ただし中国の場合、現在のところ個人投資家が大半で2017年も株価が上昇し金利も高くcommodityに資金が流れ込みにくい状況と言われていた。いずれにしても当分投機に左右される市場と見るべきであろう。
2.原油 投資マネーが入り高値をつけている。世界全体で見れば目下株高と見るべきであろうが、商品相場にも金融緩和による投資マネーが流入し原油のように高値に向かっている。WTI原油先物は1月に1バレル63ドルをつけた。国際エネルギー機構は今年の世界原油需要は中国需要が元となっている。インドの伸びもあり前年比1.3%増と予測している。WTI先物の買い越し幅も同じような高い水準となっている。株高―好況―原油消費増というのが株式市場の期待だが、同時に投資マネーは非鉄金属もねらっている。銅の国際価格は4年ぶり、ニッケルは2年半ぶり、亜鉛は10年ぶりの高値圏にある、このような時にいつも話題となるのが供給不足という見方だ。供給不足は簡単に解決されず高値が続く可能性が高いとみているが、実際はどのようになるのか今後も注目する必要がある。筆者の偏見だが、商社の非鉄担当者のなかには非鉄高騰を常時考える確信犯がいる。過去にも何度か失敗例があったがこの点も注目すべきと思う。