香港を代表する企業 Li & FungのビジネスモデルをCITICは超えられるのか
前回アジアについて説明したが、中国でcheap laborを使って大量に物を作るbusiness modelを実践したのがLi & Fung(利豊)だ。ここ数年来徹底したrestructuringを行ってきたが、中国からアジアに展開となると新たなbusiness modelの構築が必要となろう。今回は過去30年以上にわたり中国経済と同じ歩みを続けた企業Li & Fungについて掘り下げてみたい。
#香港の大手商社と言われるが
日本の総合商社についても内容の説明が難しいが、Li & Fungの場合はアパレル商社とかブランド品扱い商社とか言われるが実態はブランド品の他、Walmart(米国),Marks & Spencer(英),Sainsbury’s(英)といった名だたる巨大小売業のvenderとして活躍している。同社の歴史は広州で陶器などを扱う商社として発足、国民党と共産党の内戦後香港で輸出業者として再出発したと聞いたことがある。
同社の経営はVictor Fung(名誉会長)とWilliam Fung(会長)の兄弟が担ってきた。二人の経歴からみてもWilliamが実務を担当しVictorが対外的な仕事を担当したと思われる。
同社の香港本社のshow roomを覗くとコーチの靴とかDKNYのジーンズなど女性でなくとも知っているブランドの商品が棚一面に並べてある。これらの商品の調達と先に述べた大手小売業へのsupply chainとしての機能が同社の全貌である。
#Victor Fung
香港のみならず世界的にも有名な財界人でHong Kong Airport AuthorityのChairman,香港貿易発展局のChairman(1991~2000)
(何れも名誉職で無給)なども務めたが日本との関係では日香経済委員会の香港側代表も務めた。日本側は経団連が窓口で先進各国とはそれぞれ経済委員会がある。但し独立国でない地域としての香港との経済委員会は極めて特殊ともいえるが毎年この場での自由な意見交換によって日香間の取引に多大の寄与をしていることも事実だ。1997年を跨いで英領時代とその後の香港側の代表の顔ぶれはまさに香港の歴史そのものだ。97年の英領時代最後まではSwireのPeter SutchとかJardineのMartin Barrowが代表となり、その他は総商会の常連メンバーが代表となっていた。97年になるとJardine/Swireは表舞台から姿を消し中国本土からCITICや華潤の代表が参加した。CITICの場合、北京政府と密着しており、華潤はもとが対外貿易部なので中国政府そのものでもあり両者とも自由な意見交換は差し控えていたが数年で委員会から姿を消し、本土企業としてはBank of China(HK)だけがその後も委員会に名を連ねていた。2000年以降となると委員会は再び活況を呈し、香港の行政長官を務めたC. H. Tung, 同じく海運業界の代表、Peter Woo, 及びVictor Fungなど香港財界を代表する人物が香港側の代表となった。更にJardine/Swireも再び委員として活躍するようになった。英領時代との違いは建設、不動産業界からの参加が増えたともいえる。現在はSun Wah GroupのJonathan Choiが香港側の代表を務めている。さて本題に戻りVictor Fungも日香経済委員会で活躍したがその後はInternational Chamber of CommerceのChairmanとして世界的に活動した(現在は名誉会長)。彼はMIT(電気工学)を卒業後Harvard大学のビジネススクール(HBS)で経営学博士号を取得、HBSで金融論の教授として教えていた。実に多才な人物だが香港に戻りLi & Fungの経営に当たったが中国が世界の工場として台頭した時期とまさに一致する。一方、アジアのsupply chainに戦略性をもたらした企業としてHBSのcase studyに取り上げられている。筆者はVictorとは付き合いが長いがWilliamとはそれほど多くは会っていない。あいまいな記憶だが彼はPrinceton大出身でいずれにしても兄弟ともアメリカで立派な職を得て(おそらく両者とも米国籍保有者と思う)70年代にLi &Fungによくぞ戻ったものと思う。
#現在のLi & Fung
色々な人物が同社の経営に参画してきたが今ではVictorやWilliamの子供がそれを引き継ぐ時代となった。
同社の特色は生産拠点の多極化で中国・アジア中心に商品ごとにきめ細かく生産拠点を分散させている。いわば商社機能に特化し「直営の工場を持たない、在庫を持たない」ことを原則として身軽な経営を目指している。
同社の取扱品目を並べると衣料品、ファッション・アクセサリー、玩具、ゲーム用品、スポーツ用品、家具、手芸用品、靴、旅行用品、食器などあらゆる品目が並ぶが商社の目で見ると当たり前だが一般には何がコア事業なのか分かりにくい。一方、大手小売りへの納品と並行してブランド物の買収を継続的に行ってきた。主なものでも、サークルKサンクスとかトイザラス(HK),2013年には英ローナミード(シャンプーの有名ブランドなどを持つ)を1億9,000万ドルで買収、供給(物流)からブランドの買収企業としても有名となった。一方この間に従来の卸売部門のリストラも続けている。
最近の例では4月に香港市場では中国や東南アジアで化粧品・医薬品部門(別会社となっている)の売却交渉の話が出たが最近に至り食品も含めた消費財の卸売部門を中国の国有コングロマリットCITIC(中国中信集団)に売却との発表があった。この部門は中華圏や東南アジアで40以上の流通センター、物流基地を持ち、化粧品、医薬品、食品などを販売しているという。
#香港株式市場でも問題に
香港株式市場では同社は人気株となっている。特に中国の改革開放政策実施後及び2001年中国がWTOに加盟して以来同社売り上げは毎年15%伸びたがこれは中国の対米輸出の伸びと同じペースだ。
ところがその後の中国での賃金上昇・過剰設備投資などによる中国経済の減速の影響も直接受けることとなり2013年には業績見通しを下方修正することとなった。そこで株価も一時は30%も下落するなど香港株式市場では最も注目される銘柄でもあった。同社の業務内容が良くわからないこともありブランドとsupply chainに対する買収戦略は継続可能なのかという批判があり、新聞などでたたかれる場合も多い。参考までに日本ではLi & Fung自体はあまり知名度がなかったが2007年に兼松繊維の55%の株式を取得し将来の展開に備えている。また、米国向け香港からのハローキティの輸出もありサンリオの少数株主となっている。
#CITICとLi & Fung
前述の食品などを含む消費材の卸売部門をCITIC(中信集団)に売却するとのnewsは香港株式市場でも大きな話題となっている。
一方、ドイツではスポーツ用品世界最大手ともいえるアディダスがロボットを使ってドイツ国内で靴などの生産を始めるとの発表があった。海上運賃などを節約し、消費地での生産回帰だが、これが次のアジア全域への展開でLi & Fung と CITICがどのような戦略を持っているのか注目に値する。
香港紙では中国、東南アジアで食品、医薬品などの消費財の卸売り部門を3億5千万ドルで買収し、東南アジアでの流通網を強化すると伝えられているが、もともとCITICは改革開放政策とともに赤い資本家と言われた栄毅仁が作ったもので、中国政府と密接な関係を構築し国務院管轄の大国営企業集団となった。ただし主体は金融業でいろいろな業種に絡んではいるが投資運用、投資顧問、不動産と依然金融中心であることには変わりない。今や中国政府と一体となっているので中国でのバブル崩壊に備え中信グループから不良資産を切り離し新会社に処理させようとの中国政府の方針との説もある。一方、昨年来の上海株式市場での政府の介入は失敗に終わったがその中心は中信証券でいまだに株式市況の上昇に積極的に噛んでいるとの説もある。更にバブル崩壊時にSwedenなどは銀行の国有化から手を付けたが、中国の場合、巨大銀行はすべて国営なので中信グループがバブルの処理に当たるといった説もある。
何れにしてもCITICがこの卸売り部門からどのようなbusiness modelを構築するのか注目したい。