指名及び報酬諮問委員会の設置で透明性確保を~コーポレートガバナンス・コード有識者会議の議論について~
第4回有識者懇談会に寄せられたに日本取締役協会の「企業の持続的成長に向けた「攻めのコーポレートガバナンスに向けて-コーポレートガバナンス・コード(日本取締役協会案)-」と経済同友会による「コーポレートガバナンス・コードに関する意見書」は監査等委員会設置会社と監査役会設置会社においても指名及び報酬諮問委員会を設置すべきであると主張していますがこれを強く支持します。特に、「過半数が独立取締役によって構成される指名諮問委員会・報酬諮問委員会」という点は重要です。
前回は「実情をしんしゃくし過ぎている」ということから原理原則に立ち返ろうと主張しましたが、それでは実情とはどういうことを意味しているのかというと概ね次のようなことではないかと思います。
① 日本の多くの企業では取締役会がほとんど内部出身の取締役で構成されていること。また、取締役候補者(あるいは監査役候補者も)の選任が代表取締役社長の専権事項でその過程が不透明なこと。
② これに加えて内部出身の取締役の間に年功序列の階層が残され、取締役間の実質的な平等性・独立性が担保されておらず重要な事項について取締役間で自由に反対意見等が言える環境が希薄なこと。
③ 取締役のほとんどが業務執行取締役であり、監督と執行が分離されていないこと。
④ 業務執行取締役は使用人として担当業務の責任者であった時の意識から抜け切れていない傾向が強いこと。
⑤ さらに、①で指摘したことと関連しますが、取締役の職務の執行を監督する常勤の監査役は内部出身者であり経営者の人事権の下にありその独立性が担保されていないこと。場合によっては、社内人事の都合で4年という法定任期を全うせずに社長から退任を迫られるようなケースも珍しくないこと。
⑥ 上記の環境の中で代表取締役という最高業務執行者の責任の取り方があいまいであること。
⑦ 取締役の報酬についてもリスクを取って果敢に経営したことへの報酬というよりは、社長あるいは取締役退任後の相談役、顧問などまでも視野に入れた長期的な安定収入に対するインセンティブが強いこと。しかも、その報酬の決め方と内容が不透明なこと。
⑧ 招集通知のタイミングや株主総会の開催日の集中など情報の開示の仕方が株主の便宜からかけ離れていること。
⑨ 企業間の株式持ち合いが依然行われており、お互いのガバナンスに対する牽制力が働きにくいこと。
⑩ 機関投資家の受託者責任に対する意識が希薄であり、企業に対する積極的な関与が求められていること。
挙げれば上記以外にもまだまだあると思いますがこのような現状を打破し企業の稼ぐ力を取り戻すにはどうすればよいのかという原則を議論しコーポレートガバナンス・コードとして指針をつくろうというのが有識者懇談会の目的だと思います。(⑩の課題に対しては、すでに今年2月にスチュワードシップ・コードがつくられています。)
これらの課題を解決するうえで重要な概念が第4回会議の議題の一つである「透明性の確保」という言葉であると思います。第4回会議の付属資料の中に、上場企業が東証に提出する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の内容の「コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方」に出てくるキーワードを集計したものがあります。これは東証一部、二部及びマザーズ上場の2275社が対象です。それによりますと、「透明性」という言葉が断然トップの69.1%とほぼ70%を占めているのが注目されます。日本の企業が「透明性」ということを強く意識しているにも拘わらずそれを実現する具体的方策になると、とたんに実情をしんしゃくするようになるのは残念なことです。
典型的な例は、①や②の実情に対して指名や報酬の決定プロセスを透明化することで解決することを目的に会社法で定められた委員会設置会社(改正会社法では指名等委員会設置会社)です。しかし、現実は上場企業2275社のうちわずか59社という少なさです。
そもそも指名委員会や報酬委員会の本意は、上述したように社長の後継者や次期取締役候補の選任や報酬についてその方針と手続きを投資家に説明できるように透明化するというものですが、日本の企業が指名委員会及び報酬委員会を敬遠するのは指名及び報酬の決定プロセスをできるだけ外部に見せたくないという経営者の一般的な姿勢によるものと思われます。あるいは、「社長の専権事項である取締役の人事権や報酬決定権を侵される」という誤解に基づくものと思われます。しかし、指名委員会や報酬委員会社長の人事権や報酬に対する影響力を排除しようというものではありません。
例えばGEの例ですが、日本GEの代表取締役を14年間務められた土屋泰昭氏によれば、GEは1892年にGEが誕生して122年の間に現在で9人目の社内出身のCEOが務めているということですが、すべて現任のCEOが推薦した候補者から選ばれているということです。要するに、現任CEOがその職務を通じて評価し適任者として複数の候補を選び指名委員会において明確な方針と手続きで選ばれるということで、現任CEOの人事権はこの複数の候補者を指名委員会に推薦するというプロセスを通じて強く維持されているわけです。
このように指名、報酬の決定についての透明性確保は重要であり、第4回会議に提出された日本取締役協会の「企業の持続的成長に向けた「攻めのコーポレートガバナンスに向けて-コーポレートガバナンス・コード(日本取締役協会案)-」においては「第8条 上場会社が指名委員会等設置会社でない場合、取締役の諮問委員会として、指名諮問委員会及び報酬諮問委員会(両社を兼ねた委員会を含む。)を置くものとする」としています。また、同じ会議に提出された経済同友会による「コーポレートガバナンス・コードに関する意見書」で、「監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社であっても、取締役会の下に、その諮問機関として、過半数が独立取締役によって構成される指名諮問委員会・報酬諮問委員会を設置するべきである」としておりこれら2つの提言を筆者は高く評価し支持します。特に、「過半数が独立取締役によって構成される指名諮問委員会・報酬諮問委員会」という点は重要です。
ここで一つ大きな疑問が浮かび上がります。監査等設置委員会にも指名諮問委員会及び報酬諮問委員会を設置することが重要であるという観点から監査等設置委員会を見てみると、これは指名等委員会設置会社とほとんど機能上の違いはなくなり監査等委員会設置会社の存在意義がないということになると思います。むしろ、指名諮問委員会及び報酬諮問委員会を置かない監査等設置委員会に移行するその意図はより甘いガバナンス機能へのインセンティブが強いことにあるのではないかというふうに見て取れます。この点については別に議論することにします。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより)