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日本を襲う巨大地震

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 狼少年(イソップ童話)
皆様は、子供の頃、イソップ童話の「狼少年」の話を聞いたことがあるだろう。筆者は、地震予知をめぐる論議を聞くたびに、この「狼少年」の話を思い出す。メディアが、一部の地震学者の説をもとに、「地震が来るぞ~」と報道するが、この地震予知は殆ど当たらない。今日の地震予知の科学レベルでは、地震発生の「時期」、「場所」、「規模」を正確に予知る事は不可能なのだ。国民は、地震への恐怖から、はじめのうちはメディアの警告に注目するが、何度も予測が外れると、「またかー」と、慣れっこになってしまう。そして、人々が忘れた頃に、地震は“想定外”の規模で突然やってくる。
「狼」と「地震」が決定的に違うのは、第一に、狼の場合は、犠牲となるのはせいぜい少年一人か羊1頭で、これを食えば満腹になって山に帰っていく。しかし、大規模地震の場合はそうはいかない。多くの人命を奪い、家屋を燃やし、人工物を破壊する。第二に、狼の場合は、必ず来るとは限らない。山の中で、獲物にありつけば、人里に出てくる必要は無い。しかし、地震の場合は必ず来る。首都直下地震などは、明日か来月か来年か10年後かは分からないが、いずれ必ず起こるだろう。

 地震予知の難しさ
次に、地震予知の現状について述べる。

☆ 地震予知とは
地震予知とは、地震の発生を予め知ることである。地震予知という言葉は、広範にはいわゆる経験則や情報による確定的な予測と異なり、超能力や啓示などの超越的感覚などによる予知までも含んで言うが、学術的には科学的方法により地震の時期・場所・規模の3要素を論理立てて予測することを指す。ただし日本地震学会は、警報に繋がるような決定論的な予測のみを地震予知とし、それ以外の日常的に公表可能なもの(確率で表現されるもの)は地震予測とする新しい定義を2012年秋に発表し、推奨している。

☆ 地震予知は可能なのか
率直に言えば答えは「NO」である。例えば、「今年9月21日の朝6時50分に、首都圏で『震度7』の地震が発生する」というような、「地震予知」については、現在の科学技術はそのレベルに到達しておらず、日本地震学会は「現時点で地震予知を行うのは非常に困難」という見解を発表している。

☆ 予知の手がかりになると思われる前兆
地震の前兆(先行現象)としては、①地殻変動、②地震活動の変化、③地震波の変化、④電磁気の変化、⑤地下水などの変化、⑥動物の異常行動、⑦地鳴り、⑧発光現象などがある。これらの前兆は過去の地震で発生の直前に一部が観察・観測されたが、「すべての地震の前兆とはいえない」――というのが現在の認識である。また、これら地震の前兆とされるものには科学的裏付けが不十分なものも含まれることから、前兆と地震発生との関係(シナリオ)が明らかにされていなければ、「科学的な予測」に繋がるとは言えない。

 地震予知とメディア・地震学者――今村明恒の悲喜劇
被害が甚大であることから、国民の地震への関心は極めて高い。メディアが発行部数や視聴率を伸ばす上で、地震予知報道は有効な手段である。メディアは地震学者の言説を上手に利用し、まるで「狼少年」のように、扇情的な記事を書く傾向にある。古くは、こんな例があった。東大の今村明恒助教授は、過去の地震の記録から、関東地方では周期的に大地震が起こるものと予想し、1905年に雑誌「太陽」に「今後50年以内に東京での大地震が発生する」と警告し、震災対策を迫る記事を寄稿した。この記事は震災対策を強調するものであったが、東京二六新聞が売り上げを伸ばすために「東京での大地震発生」を扇情的に取り上げ、大きな社会問題になってしまった。今村は、上司の大森教授らから世情を動揺させる浮説として攻撃され、「ホラ吹き今村」と中傷された。しかし、皮肉にも1923年に関東大震災が発生し、今村の警告が現実のものとなった。その後、今村は「ホラ吹き」から「地震の神様」と讃えられるようになった。
この例のように、メディアによる地震発生についての予告報道は、地震の予知がたまたま正しければ(的中すれば)一定の効果を生むだろうが、外れた時は社会不安やパニックをもたらす。日本国民は、比較的冷静であるが、メキシコやペルーでは、自宅を売却・疎開、町からの脱出(地震予測当日)、食糧備蓄、個人保険加入の急増、入国外国人数の減少などが見られた。

 地震予知に関する最近のマスコミ報道
今日もメディアの地震情報報道は活発である。また、それを受け止める国民側は東日本大震災のトラウマから、過剰に不安に陥る可能性がある。メディアの報道例を挙げよう。

☆ 6月7日付夕刊フジ「地震予測的中の早川氏、いま注視する“5つのエリア”とは」
この記事は、地震予知研究の専門家、電気通信大学名誉教授、早川氏の「早川理論」に基づく地震予測――(1)鳥取から島根(6月10日まで)(2)福島から茨城(11日まで)(3)和歌山から徳島(14日まで)の3エリアは内陸、海底部ともにM5・0前後、最大震度4程度の可能性がある――を報じている。早川氏は地震が起こる約1週間前、前兆現象として起きる地殻のヒビ割れが電磁波を発生させ、これが上空の電離層に影響を与えることに着目し、発生場所と地域を予測しているという。
因みに、この早川氏の理論については、横浜地球物理学研究所のブログ(http://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/3abb6770be43f02fad8d87fd65ad5b37)では、「全く信用に値しない」とする論文を掲載している。

☆ 5月28日付日経新聞・共同通信「根拠ない地震予知に苦言 気象白書、雑誌記事など『非科学的』」
この記事は、気象庁が「気象白書」で、地震予知に関する雑誌の記事などに、「科学的な根拠がない」と苦言を呈したことを報じている。

☆ 週刊ポスト2015年6月19日号「地震・火山『予知ムラ』 税金250億円使い成果ゼロの言い訳」
この記事は、上記のような気象庁を“ヨイショ”した記事(記者クラブ加入の新聞・通信社を念頭)に反論したもので、①気象庁を中心とする地震や火山の「予知ムラ」と②その家来に成り下がった「クラブ記者」――役所にいわれるまま検証もせず記事を垂れ流す――と、③「予知ムラ」を増長させた「政治」の責任を糾弾するもの。これによれば、地震と火山を合わせた研究関連予算は昨年度だけでも253億円、この20年間で総額4300億円に上るという。「予知ムラ」は、巨額の税金を貪りながら、予知ができないことの“科学的言い訳”を繰り返すとし、「自分たちはカネをもらって役に立っていない」という自覚と反省がないなら、一刻も早く解散したほうがいい、と手厳しく批判している。
予知情報を提供する「予知ムラ」を糾弾することにより、世論の注目を集めようとする魂胆の記事。メディアは立ち回り方が実に上手だ。

 日本に迫り来る未曾有の天災――首都直下地震と南海トラフ巨大地震
日本は、有史以来最大の国難の時期を迎えているのではないだろうか。それは中国の台頭による「戦災」の脅威と次に述べる「天災」の脅威である。
小松左京氏が書いたSF小説に「日本沈没」(1973年)という作品がある。その結末は凄まじく、タイトル通りに、四国を皮切りに次々と列島は海中に没し、北関東が最後の大爆発を起こして日本列島は完全に消滅する、というものだ。
日本が完全に沈没するほどの悲劇ではないが、近未来に予測される首都直下地震災害と南海トラフ巨大地震は、日本に戦災に勝るとも劣らないほどの甚大な物心両面の被害をもたらす可能性が高い。地震による物的被害については説明するまでも無いが、実は心理的な被害も同様にきわめて大きい。ノエル・ブッシュは、「戦争は、愛国的目的意識を起こさせるが、地震はえてして意気を消沈させ、絶望や、無気力をもたらしがちだ」と述べている(チャルマーズ・ジョンソン著「ゾルゲ事件とは何か」44ページ)。
これら二つの地震は、予知はできないものの予測(確率論的予測)」は可能である。以下順に二つの地震・震災についてその概要を説明したい。

 首都直下地震

☆ 首都直下地震とは
首都圏は三枚のプレート(岩板)がひしめく位置にあり、極めて危険な位置にある。地殻構造的に見れば、首都圏は北米プレートという陸のプレートの上にあり、その下にフィリピン海プレートと太平洋プレートの二つの海のプレートがもぐりこんでいる。このような3枚のプレートが相互に滑ったりプレート内部が割れたりすることで、様々なタイプのマグニチュード7クラスの地震が発生する。

☆ 首都圏の重要性
首都圏とは、首都圏整備法に示された関東地方1都6県(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)と山梨県を含む地域である。首都圏の中でも東京圏には、我が国の人口の約3割が集中し、大企業の本社数の6割強など、人口や経済活動等が集中している。特に、皇居をはじめ、立法、行政、司法の三権の中枢機能、日本銀行本店、東京証券取引所等金融・経済分野、各国大使館、その他交通・運輸・港湾・情報・報道分野等の中枢機能が東京都心の極めて狭い地域に立地している。また、日本の安全保障にとって重要な在日米軍司令部(横田基地)、米陸軍司令部(キャンプ座間)、米海軍司令部(横須賀米海軍施設)、米空軍司令部(横田基地)が首都圏内に存在する。
従って、これらの諸機能が震災により毀損・喪失すれば、我が国の国家としての機能に決定的なダメージを与えることになる。これは、「頭部」を無くした「人体」のようなもので、我が国の存立にとって深刻な事態を招来するだろう。

☆ 首都直下地震の被害想定(人的・物的被害)の概要
この被害想定は、内閣府の首都直下地震対策検討ワーキンググループがまとめたもの(平成25年12月19日)である。この被害想定では、①都心南部直下地震(マグニチュード7.3、30年間に70%の確立で発生)の具体的被害推計のほか、②関東大震災(1923年)タイプの再来型地震(マグニチュード8.2、発生確率は0~2%)についても被害の大枠が試算された。その概要は以下の通り。

(1)都心南部直下地震の被害想定
この被害想定では最悪のケース「冬・夕方・風速8m」を前提としている。被害想定の概要は、死者数最大23,000人、避難者最大720万人、帰宅困難者(1都3県)最大800万人、経済被害は建物等の直接被害が約47兆円、生産・サービス低下の被害が約48兆円で合計約95兆円にのぼる。また、インフラに関しても、次のように甚大な被害が発生する。
電力は、発災直後から都区部の約5割が停電し、供給能力が5割程度に落ちこみ、1週間以上不安定な状況が続く。
通信は、固定電話・携帯電話とも、輻輳のため、9割の通話規制が1日以上継続し、メールは遅配が生じる可能性がある。さらに、携帯基地局の非常用電源が切れると電波通信を停止する恐れがある。
上下水道は、都区部で約5割が断水し、約1割で下水道の使用ができない。
交通は、地下鉄は1週間、私鉄・在来線は1か月程度、運行停止する可能性がある。また、主要路線の道路啓開には、少なくとも1~2日を要し、その後、緊急交通路として使用する。都区部の一般道はガレキによる狭小、放置車両等の発生で交通麻痺が発生する。
港湾は、非耐震岸壁では、多くの施設で機能が確保できなくなり、復旧には数か月を要す。
燃料は、油槽所・製油所において備蓄はあるものの、タンクローリーの確保、深刻な渋滞により、非常用発電用の重油を含め、軽油、ガソリン、灯油とも末端までの供給が困難となる。

(2)大正関東地震タイプの再来型地震の被害想定
大正関東地震タイプの再来型地震は、相模トラフ沿いを震源域とするものである。この地震では、建物倒壊、津波及び火災による死者は約7万人、建物の被害は約133万個、経済被害は160兆円にのぼり、都心南部直下地震レベル(マグニチュード7クラス)よりも被害が甚大である。

☆ 震災対策の方向性と国、自治体、企業、民間(各人)の取り組み
先ず、「事前防災」としては、「中枢機能の確保」、「建築物、施設の耐震化等の推進」、「火災対策:感震ブレーカー等の設置促進」、「延焼防止対策」及び「オリンピック等に向けた対応――外国人への防災情報伝達」を挙げている。
次に、「発災時の対応への備え」として、地震から概ね10時間後までを「国の存亡に係る初動」ステージ、さらに概ね100時間をまでを「命を救う」ステージ、それ以降を「生存者の生活確保と復旧」ステージと位置付けている。
更に、首都の震災対策を重視する「首都で生活する各人の取組み」を特記して「地震の揺れから身を守る――耐震化、家具固定」、「市街地火災からの避難――火を見ず早めの避難」、「自動車利用の自粛――皆が動けば、皆が動けなくなる」及び「『通勤困難』を想定した企業活動等の回復維持」を挙げている。

 南海トラフ巨大地震
以下の説明は、主として中央防災会議防災対策推進検討会議の下に設けられた南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの最終報告(平成25年5月28日公表)から引用した。

☆ 南海トラフ巨大地震とは
南海トラフ巨大地震は、フィリピン海プレートとアムールプレートとのプレート境界の沈み込み帯である南海トラフ沿いで発生する巨大地震(マグニチュード9.1、震度7)のことである。南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループにおいて明らかにされた南海トラフ巨大地震は、千年に一度あるいはそれよりもっと発生頻度が低いものであるが、仮に発生すれば、超広域にわたる巨大な津波、強い揺れを伴い、西日本を中心に、東日本大震災を超える甚大な人的・物的被害が発生し、我が国全体の国民生活・経済活動に極めて深刻な影響が生じる、まさに国難とも言える巨大災害になるものと想定している。

☆ 南海トラフ巨大地震の特徴と被害の概要
この巨大地震の特徴は、超広域にわたり強い揺れと巨大な津波(最大32メートル、太平洋側の広い地域で数メートルの津波が襲う)が発生し、避難を必要とする津波の到達時間が数分という極めて短い地域が存在することである。また、その被害は下記のようにこれまで想定されてきた地震とは全く異なるものである。

(1) 広域かつ甚大な人的被害、建物被害、ライフライン、インフラ被害の発生
最大で死者32万3千人~33万人、倒壊家屋238万6千棟にのぼる。この死者見積数は東日本大震災の20倍近い数字で、2004年スマトラ島沖地震の死者・行方不明者数の約28万人を大きく上回り、史上最悪の大惨事となる。

(2)膨大な数の避難者の発生
避難所避難者数は約 240 万人~約 500 万人となり、発災後最も多くなる。

(3)被災地内外にわたる全国的な生産・サービス活動への多大な影響
南海トラフ巨大地震では、工業出荷額が日本全体の3分の2に達する「太平洋ベルト地帯」に被害が及ぶため、経済被害は日本の国内総生産(GDP)の約42%に当たる220兆3000億円に上る。この被害額は、東日本大震災の10倍以上になる。

(4)被災地内外の食糧、飲料水、生活物資の不足
上水道は、約2,570 万人~約3,440 万人が断水する。下水道は、約2,860 万人~約3,210 万人が利用困難となる。

(5)電力、燃料等のエネルギー不足
電力は、約2,410 万軒~約2,710 万軒が停電する。火力発電所の運転停止等により、西日本全体の供給能力が電力需要の5 割程度となる。都市ガスは、約55 万戸~約180 万戸の供給が停止する。

(6)帰宅困難者や多数の孤立集落の発生
一時的に外出先で滞留する人は、中京・京阪神都市圏で約1,060 万人に上る。

(7)復旧・復興の長期化
阪神大震災は10年経ってやっと復興したと言われ、綺麗で住み良い街になっているように見えるが、神戸市の財政状況は復興にお金を使い果たし不景気もあり、今も復興したとは言えない状況だといわれる。東日本大震災は、震災に加え津波の被害(原発を含む)があり、阪神大震災より被害は大きいので20年以上はかかると見られる。
これら震災復興の実例を勘案すれば、南海トラフ巨大地震災害からの復旧・復興は相当長期を要するものと思われる。

☆南海トラフ巨大地震対策の主要な課題と対応の考え方

(1)津波からの人命の確保
目標は「命を守る」こと。住民一人一人が主体的に迅速に避難することが最も重要。即座に安全な場所に避難できるよう地域ごとにあらゆる手段を講じる。

(2)各般にわたる甚大な被害への対応
被害を減らすため、建物の耐震化や揺れに伴う火災への事前防災が極めて重要。ライフラインやインフラの早期復旧がすべての応急対策の前提。

(3)超広域の被害への対応
従来の応急対策や支援システムが機能しない。日本全体として連携の枠組みが必要。避難所不足が想定され、収容する避難者のトリアージ(優先順位の決定)や、住宅被害が軽微な被災者は自宅にとどまるよう誘導することを検討する。水や食料など一週間分以上を家庭で備蓄、地域で自活する備えが重要。交通が復旧すれば被災地外への疎開も検討する。

(4)国内外の経済に及ぼす甚大な影響の回避
企業は災害時の事業継続計画をつくり、流通拠点の複数化や重要データの分散管理など対策を取ることが重要。企業間や業種を超えた連携も検討。海外への的確な情報発信の備えを構築。

(5)時間差発生等態様に応じた対策の確立
地震が時間差をおいて連続するシナリオを検討し、臨機応変に対応できるよう応急活動や避難生活者の保護に備える。

(6)インフラ
千年に一度またはそれ以下の頻度で起きる巨大地震・津波をすべての対策の前提とするのは現実的ではない。津波対策はマグニチュード8級を対象として防波堤などを整備するが、それを超す場合に備えた構造強化も重要。「命を守る」ことを目標として住民避難を軸に、情報伝達、避難施設、避難路、土地利用などハード、ソフト対策を総動員する。揺れ対策は、施設ごとに耐震化に着実に取り組む。長周期地震動や液状化への新たな対応も検討。

 むすび――筆者からの提言

☆ 提言その1:国防と防災の一体的・一元的取り組みを――日本版「国土安全保障省」の創設を

(1)外敵の侵攻も自然災害も「国民の生命・財産」を脅かす点では同じ
国防・安全保障の世界では、その対象を「脅威」と位置付ける。我が国への脅威は①外敵による「日本への武力侵攻」のほかに②「集団敵自衛権を使う事態(新設)」などがある。「日本への武力侵攻」事態においては、外敵による軍事攻撃により国民の生命・財産が脅かされる。
一方、台風などの気象災害や地震・火山災害という自然災害も「国民の生命・財産」を脅かす点では、外敵による軍事攻撃と全く同じである。

(2)国防と防災に使用する組織も殆ど同じ
自然災害発生時における対処(使用)勢力は、先の東日本大震災における実績が示すように、自衛隊、警察、消防が主である。国防(国土戦)においても、敵対国の軍隊と直接交戦するのは自衛隊だが、国内において国民の生命、身体及び財産の保護に任ずるのは、は警察と消防である。これについては、警察法第2条で「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする」と、また、消防組織法第1条で「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする」と明記されている。

(3)外敵の侵攻と自然災害が同時期に生起する可能性
東日本大震災では、自衛隊を10万人も投入し被災者救済と福島第一原発の危機への対処をしている最中、ロシアなどは日本の統治能力が弱体化しているか否かを探ろうとした。同年3月21日付読売新聞電子版は「露戦闘機、日本領空接近…空自機スクランブル」と題し次のように報じている。

「防衛省は21日、日本海を飛行していたロシアの戦闘機スホイ27など2機が、日本領空に侵入する可能性があったとして、航空自衛隊の戦闘機を緊急発進(スクランブル)させたと発表した。
スホイ27は一時、領空の約60キロ手前まで接近したが、その後、両機とも北方に飛び去った。同省によると、ロシアの戦闘機に対するスクランブルは極めて異例。同省でロシア軍の目的などについて分析している。」

中国やロシアはまるで弱った獲物を狙う猛禽のように、大震災に苦しむ日本に対し「隙あらば」と狙っているのだろう。中ロのこのような“下心”を察知したからこそ、アメリカは敢えて「トモダチ作戦」に踏み切ったのではないだろうか。東日本大震災に際して、米軍は「トモダチ作戦」と銘打って、作戦司令部を東京都の横田空軍基地に置き、陸・海・空・海兵隊4軍の統合作戦を実施した。この作戦には、在日米軍基地がフルに活用された他、原子力空母ロナルド・レーガンなども投入され、ピーク時には2万人近い兵員を展開された。
米国の本音は、時の民主党政権の統治能力に不安を抱き、「日本沈没」の危機感を募らせたのではないだろうか。ちなみに、マイケル・シファー国防次官補代理(東アジア担当)は、下院軍事委員会において、「『トモダチ作戦』は、在日米軍を含め、アジア太平洋地域に前方展開兵力を持つ意義を示した」と述べた。この発言は、「トモダチ作戦」の目的が、日本の民主党政権に日米同盟の意義を再認識させるとともに、中国やロシアに対してアメリカの抑止力・存在感を示す意図があったことを窺わせるものだ。
日本を打撃する次の巨大自然災害――首都直下地震と南海トラフ巨大地震など――が発生した場合は、中国が尖閣諸島や南西諸島などを奪取する作戦を敢行する可能性がある。それゆえ、“自然災害大国”の日本では、国防と防災を一元的に取り扱う必要があるのではないだろうか。この点については、米国も十分に理解しているはずだ。したがって、今後は「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の中にも、首都直下地震災害と南海トラフ巨大地震などにおいては、「トモダチ作戦・Ⅱ」を発動する根拠を明記すべきであろう。

(4)運用の効率性とコスト削減からもベター
自然災害対処も国防も使用するパワーとしては自衛隊、警察、消防が主体となる。従来のように縦割り行政で運用すれば、それぞれバラバラに運用され、効率性に反する。また、自衛隊、警察、消防は国防と防災を別個のものとして、それぞれ類似の機能を別々に維持することとなり、コスト面からも好ましくない。自衛隊、警察、消防を一元的に運用でき、しかも国防と防災を一体的に対応できるようにすれば、運用の効率性とコスト削減の上で好ましい利益が生まれるだろう。

(5)アメリカの場合
アメリカの安全保障の任務を負う主たる行政組織は国防総省と国土安全保障省である。米国防総省の任務は、「戦争を抑止して、米国の安全を保護するために必要な軍隊を提供すること」であり、一方の国土安全保障省の任務は、「①テロを防止して安全を強化すること、②国境の保全・管理、③出入国管理法の施行・管理、④サイバースペースの防護、⑤災害克服能力の確保」となっている。
世界覇権を追求する米軍は世界で唯一の“外征軍”である。したがって、アメリカの場合は、国内の脅威は国土安全保障省が、国外の脅威には主として国防総省が対処する“二本立て”の仕組みになっている。

(6)日本版「国土安全保障省」の創設を
これまで述べてきたように、近未来に必ず襲うと思われる首都直下地震と南海トラフ巨大地震は、我が国に対する敵国の大規模侵攻による被害(戦災)を上回る震災をもたらすと想定され、まさに「国難」とも言え事態を招来することだろう。
わが国が、国防のために国運を賭して日米同盟を強化し、毎年5兆円近い予算を投入していることを思えば、震災に対しても同様に国運を賭した取り組みを行うべきである事は明白であろう。
日本はアメリカは異なり、世界覇権を追求し、自衛隊を外征する必要はない。したがって、国防と防災を分離して対処する必要はなく、二つの脅威を一体的に捉え、一元的に対処することが可能であろう。
筆者は、日本版「国土安全保障省」の創設を提案したい。申すまでもなく、日本版「国土安全保障省」は国防と防災を一元的に所掌し、その組織としては、防衛省、警察庁及び消防庁を傘下に入れることになる。

☆ 提言その2:徴兵制による予備兵力の確保
既に述べたが、南海トラフ巨大地震は、超広域にわたり強い揺れと巨大な津波が発生させ、その被害は最大で死者32万3千人~33万人、倒壊家屋238万6千棟にのぼる。この死者見積数は東日本大震災の20倍近い数字となる。
東日本大震災の際の災害派遣では、菅総理大臣が防衛省・自衛隊に10万人出動態勢を指示したこともあり 、ピーク時で最大約10万7,000 人が投入された。これは、自衛官の実員約23万人の半分近い数だった。
東日本大震災における自衛官の投入実績(約10万人)から推計すると、南海トラフ巨大地震の際の災害派遣には自衛隊が投入すべき兵力は160万人となるが、現在の自衛隊の隊力(約23万人)では到底まかないきれない。
また、国防の分野では、仮に我が国が中国と戦争を行うことになれば、自衛隊は全力で同国との戦闘に当たることになり、国民保護法に基づき、武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護する余力はほとんどない、といえるだろう。従って、地震などの大規模自然災害においても、敵国による武力攻撃事態等においても、自衛隊・警察・消防を補完する大規模な予備隊力が必要になる。
因みに、韓国では、韓国軍の予備兵力となる「予備役」が約300万人いる。韓国では除隊後の8年間は「予備役」として服務する。「予備役」は、正規軍を補完するのが任務である。
韓国では、「予備役」の他に、「民防衛隊」が400万人以上も存在する。「予備役」を終了したら、さらに40歳まで、「民防衛」を務めることになっている。「民防衛」とは、各種災害の予防、非常用施設や装備の維持管理を行ない、有事時には警報を鳴らし、住民・交通統制、人命救助、物資の運搬を支援する任務のことである。
「民防衛隊」は、朝鮮戦争において、韓国軍は約20万人が戦死した一方で、市民の犠牲者は150万から300万人にものぼった反省・教訓から生まれたものだ。韓国では毎月15日は、「民防衛の日」として実際に訓練が行なわれている。このうち年に2回は警報伝播、住民退避、交通統制など公訓練が実施され、年に4回はテロ、風水害、地震など地域の特性に合わせた防災訓練が実施される。韓国民(外国人旅行者を含む)は、「民防衛の日」には、交通統制に従い、営業・業務を中断し、避難訓練に参加するなどの協力が求められる。
日本(1億2600万人)と韓国(約5000万人)の人口を念頭に、韓国を基準として予備役などの数を試算すれば、我が国の「予備役」は約600万人以上、「民防衛隊」は800万人以上、合計約1400万人以上になる。韓国人男性は約2年程度の兵役義務を負うが、除隊後8年間は「予備役」に就く。韓国の民防衛隊はボランティアではなく任命制であり、法律では20歳から40歳まで登録義務を有し(うち、軍・予備役・警察・義勇消防隊などを除くため、対象者は当該人口の約55パーセント)、これを忌避する者に対しては罰則がある。韓国人男性は「兵役(19歳~29歳の間に約2年間)」、「予備役(兵役終了後8年間)」、「民防衛(対象年齢20~40歳)」と年齢を重ねるごとに、順次勤めるのが一般的なパターンとなっている。
南海トラフ巨大地震や中国の脅威を考えれば、「我が国はまさに危急存亡の時にある」、という認識が必要で、500~1000万人規模の“予備兵力”が絶対に必要と考える。これらの“予備兵力”は徴兵制でしか賄えないだろう。
徴兵制といえば、拒否反応が強いだろうが、「国家・社会奉仕」という理念に基づき適齢の若者が受け入れやすいように教育内容にバリエーションを持たせるのが良いだろう。自衛隊の予備戦力としての「予備自衛官コース」、災害派遣時の予備隊力や国家有事の際の国民保護の予備隊力としての「市民防衛・防災コース」、高齢化社会の老人介護などを主体とする「社会奉仕コース」などに分け、期間やメニューを考えればよいだろう。自衛隊で長年にわたり蓄積した集団教育のノウハウで若者を鍛えれば、見違えるように逞しくなり、日本の社会全体が活性化するものと確信する。
 

(雑誌「丸」掲載記事) 

 

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