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1 戦略の定義について

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戦略とは何かについては、古来幾多の見解がある。ジョミニ(1779-1869)は「国家の防衛、敵国侵襲のため戦地において適当に兵軍を運用する術」とし、同時代のクラウゼヴィッツ(1780-1831)は、「戦争目的のためにする戦闘使用の学術」であり「戦闘は戦争の目的を達せんがための戦略上の手段である」と述べている。リデルハート(1895-1970)は「政策の目的遂行のため軍事的手段を配分し使用する術」と定義している。

このように、人により時代により戦略の概念は変遷しているが、大きく歴史的流れをとらえるならば、その定義は以下のように発展してきたものと言えよう。すなわち、フランス革命前の時代には、まだ兵力を大規模に動員する体制が整わず、「戦略」(strategy)は、「将軍の術」とみられ、その概念もあいまいであった。もっぱら戦闘を対象として最高指揮官が経験に基づき行う術と捉えられていた。しかしフランス革命の結果、国民国家と国民軍が成立すると、様相は一変する。大規模な兵力を長期にわたり動員できるようになり、師団が運用単位として編成されるようになった。そのため、数個師団からなる軍団を広域にわたり運用するための術がナポレオン戦争の経験の中から編み出されてきた。また上記、ジョミニ、クラウゼヴィッツなどの軍事思想化が現れ、学としての戦略の理論的分析も試みられるようになった。また戦略は国家としての重要課題になったが、まだ戦時の軍事力の運用を主体とする枠を出なかった。

さらに第一次大戦から第二次大戦の総力戦時代にはいると、戦略は国家が全力を挙げて取り組む最大の事業となり、戦略は国家の政治、外交、経済、科学技術、心理・情報など各種戦略の総合として、平時有事を通じる総合戦略として論じられるようになった。またクラウゼヴィッツが唱えた政治の手段としての戦争という位置づけが明確になり、更に戦後冷戦時代にはいり、核兵器の登場に伴い、戦って勝つための戦略以上に、戦争を抑止ための抑止戦略が重視されるようになった。

近年はグローバル化に伴い、国際社会全体の安全保障、あるいはテロ、貧困などとの戦いの中での個々の人間に対する安全保障のための戦略も論じられるようになっている。しかし依然として、主権国家又は国家群が戦略のアクターとして主要な地位を占めている状況に変化はない。むしろ近年、一部の国家ではナショナリズムが高揚する傾向すらみられる。

このような経緯を前提にすれば、現代における戦略とは「平戦時を通じて政策に最大の支援を与えるために一国又は国家群の政治、経済、心理、軍事等の各力を行使する学及び術」(「1961年版ウェブスター大辞典」)と定義付けるのが妥当とみられる。

以上の戦略定義を前提とすれば、現在の戦略系列の概念区分は以下のように整理できるであろう。

最上位には、全戦略を包含する全体戦略としての国家戦略が位置する。国家を超えた国際社会全体の生存戦略なども考えられるが、現実の国際社会は主権国家の並存状態にある。主要なアクターは国民国家であり、全体戦略を主体的に描き、実行できるのは国家のみであり、国家戦略を最上位に置くのが適切であろう。

その下位に、国家の3つの体系に基づく目的別戦略を位置づけることができる。国家の、「価値の体系」、「力の体系」、「利益の体系」に応じ、それぞれ「価値戦略」、「生存戦略」、「繁栄戦略」が国家戦略の基本的な側面として存在する。これらは、国家として存立する上での必須の戦略であり、「生存戦略」は「国家安全保障戦略」とほぼ同等とみてよいであろう。

ただし、これらの3側面は相互に融合しており、補完関係にある。例えば、「生存戦略」には、個人レベルでの最低生活の保障など、「繁栄戦略」と直結する面もある。また、「価値戦略」のうち、国家の守り抜くべき本質的価値は、そのまま「生存戦略」の基本となる国防の目的となる。愛国心、国防意識の高揚は「価値戦略」においても重要な要素となる。

これらの目的別戦略を、機能面から支えるのが機能別戦略であり、各機能別戦略はさらに下位の機能別部分戦略に支えられるという関係にある。各機能別戦略、場合によりその部分戦略は通常、各省庁が主管する政策分野と緊密に関連しており、それぞれの政策の基本となる重要事項を律することになる。

ただし、各省庁を超える横断的政策の基本的重要事項については、内閣総理大臣が直轄する機関において総合的戦略として策定される必要がある。国の安全保障政策の基本的重要事項を律する安全保障戦略は、国の生存戦略そのものでもあり、その重要性と、各省庁を束ねて総合的に対応する必要性から、内閣総理大臣自らが主宰する機関において、総合戦略が策定されるべきである。

国家安全保障戦略を支える国家機能別戦略としては、上記の総合的な国家戦略の定義から、中核となる国防戦略のほか、政治・外交戦略、経済戦略、心理・情報戦略、科学技術戦略などがあげられる。国防戦略が国家安全保障戦略の中核を占めることは、現代においても変わりは無いが、その他の戦略が比重を増していることも事実であり、それらの総合性と一貫性がますます問われる時代になっている。

さらに、国防戦略は、直接的な軍事力行使に関する軍事戦略と、間接的な軍事力以外の諸力の行使に関する非軍事戦略に区分される。このうち、軍事戦略は、部隊運用に直結する軍令機能であり、自由民主主義体制の先進諸国においても制服軍人が、専管事項として直接責任を負っているのが通例である。

軍事戦略は現代では通常、統合戦略となるが、さらに他国との共同戦略、軍民間の協同戦略が包含される場合が増えている。また、軍事戦略の下位に連なる系列戦略としては、数個師団からなる軍、艦隊など最大運用単位の部隊運用に関する「作戦戦略」が存在する。また、「戦略」とはいえないが、師団以下の隷下部隊の運用術である「戦術」が「作戦戦略」の下位に存在する。

 

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