閉塞破れるか:オバマ大統領土壇場の移民改革
閉塞の壁を破る
唐突の発表という印象だった。ABC News(6月15日)を観ていると、オバマ大統領の記者会見が目に飛び込んできた。両親に連れられてアメリカに入国し、現在アメリカに滞在する16-30歳の不法滞在者を強制送還することなく、在留資格を与えるとの発表だった。
5年以継続してアメリカに滞在し、学校に在学中あるいは卒業した者、兵役に従事している者で犯罪歴がない若者が対象だ。これまで、彼らは移民法上は不法滞在者の扱いを受けてきた。大統領はこの措置はアムネスティでも、市民権付与でもなく、グリーンカードでもないという。
2年ごとに更新チェックを受けるし、グリーンカードと連携もさせないとする。対象者はおよそ80万人。親などに連れられて16歳前に入国し、現在30歳以下、5年以上継続してアメリカに滞在している外国人が対象となる。大統領はこれこそなすべきことだと強調。ジャネット・ナポリターノ国家安全保障省長官は、この方向でしかるべき措置をとると声明を発表した。2年間の労働許可も与えられる。その後2年ごとに更新審査を受ける。回数に制限はない。長官はこの方針は大統領の独断ではなく、国家安全保障省で十分検討してきたものだと付け加えた。
大統領就任以来、移民法改正はブッシュ大統領の共和党政権以来、上下両院の党派対立で膠着状態、11月の大統領選までに有効な対応は絶望的とみられてきた。重要法案はほとんどが共和党優位の下院でブロックされてしまう。そうした状況にしびれを切らしたのだろう。突然の大統領令という意表をついた措置に出た。
対象となる若者は、ほとんどがヒスパニック系だが、この新措置を歓迎している。彼らがアメリカ活性化の一翼を担っていることも確かだ。他方、共和党側は大統領の権力乱用と強く批判している。違憲だとの声も上がっている。
ぎりぎりの選択
オバマ大統領は大分フラストレーションがたまっているようだ。ホワイトハウス・ローズガーデンで、大統領が内容の説明をしている途中で、割って入った保守党系のジャーナリストが「なぜアメリカ人の労働者よりも外国人を優遇するのか」と叫んだ。大統領はいつになくけわしい表情で、「余計な口を挟むな。今は論争の時ではない。これこそやるべきことだ」と言い放って会見を打ち切った。
今回の対象者は、親に連れられて入国した子供たちで、本人たちには違法行為の責任はないが、発見されれば強制送還の対象とされてきた。民主党はDREAM Actとして知られるより包括的で寛大な方向を提案してきたが、下院で多数を占める共和党にことごとく阻止されてきた。閉塞感が漂う中で、大統領命令という異例の措置に出たのは、大統領選を前にヒスパニック系をなんとか引きつけたいという政治的意図もあるのだろう。
他方、共和党は不法移民にはより厳しい政策を打ち出し、ロムニー候補は国境の障壁強化を強調してきた。マサチュセッツ州知事当時は不法移民の子弟には、州の奨学資金を支給しない方針をとってきた。
共和党議員の中には、「アメリカ人は憲法を守るため、アムネスティを退けてきた。今度はオバマを退ける時だ」と主張している。議会の議論を無視して、移民法を緩め、国境を開くのは、大統領の越権だとの批判もある。
目前に迫った9月の大統領選を考えるならば、明らかに支持者(とりわけヒスパニック系)の拡大を目指した「政治的爆弾」の色が濃い。1100万人近いといわれる不法滞在者の中で、今回の対象は1割に達しない。しかし、4年前のオバマ大統領を支えたような高揚感がまったく消滅した今、この唐突にもみえる対応は明らかに大統領選を念頭に置いたものだ。DREAM Actが成立しない中で突如発表されたこの動きは、その方法を含めて、移民政策をめぐる新たな論争に火をつけるだろう。