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右脳インタビュー 新 将命

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片岡: 今月の右脳インタビューは新将命さんです。本日はご多忙の中、有難うございます。それではご足跡などお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。

新: 学校を出てシェル石油に入ったのは、当時の日本企業は年功序列の傾向が極端に強くて性には合わないと思ったからです。シェル石油は良い会社でしたが、石油業界は国の雁字搦めの指導下にあり、認められた投資の中で最大の成果を上げるという世界でした。それでは面白くありません。そんな時、破竹の勢いだった日本コカコーラから誘いがあり転職を決めました。そこで10年程、企画や営業、米本国での勤務を経験し、日本に戻る頃、ニューヨークと東京のヘッドハンターから連絡が来るようになりました。「ジョンソン・エンド・ジョンソン(日本)(注1)が社長候補を求めている。現在の社長はイギリス人だが、ポリシーとしては現地の社長を採用し、早く日本人化したいが内部には適切な人材がいない」と。一方、日本コカコーラは日本人社長の時代に一時的に業績が悪化し、米本社は日本人には無理だと判断したのでしょう。日本人社長は会長に祭り上げられ、米国人が社長に就任、その後、主要なポジションは外国人が占めました。同社に留まっている限りは副社長にはなれても、社長にはなれません。そこで、ジョンソン・エンド・ジョンソンに社長含みとして入社、常務、専務を3年務め、45歳の時に日本人として最初の社長に就任、4期8年を務めました。

片岡: ジョンソン・エンド・ジョンソンは何を求めていたのでしょうか。

新: 社長に就任する時、前任の社長は私に「就任おめでとう。ついては貴方に言うべきことがあります。それは貴方が目標を達成したとしても、必ず貴方にも社長、会長を辞める時が来る。その時、貴方が後継者を育てていなければ、私の貴方に対する評価は最高でも50点です」と。私はいくつかの会社を経験しましたが、普通は数値目標ばかりで、そこまで言ったのはジョンソン・エンド・ジョンソンだけです。ところで同社には世界で一番有名で、尊敬を集める企業理念があります(注2)。私は、これに惚れこんで同社に入りました。そのCredo(信条)を最初に書いたのは創業者の子息で、マイナーチェンジを続けながら100年近く受け継がれてきました。経営の原理原則は国境も、時代も超越しています。

片岡: マネジメント体制やM&Aの特徴についてお聞かせ下さい。

新: 現在、ジョンソン・エンド・ジョンソンの世界全体での売り上げは6.4兆円、子会社が250程あり、一社平均の売り上げは250億円程度。そこには一つの哲学があります。”We have grown by staying small.”です。例えば、baby products事業が大きくなるとbaby products companyにして社長を置きます。そうすることで経営者予備群を育てることができます。また小さいが故に変わり身が早く、特化していますので、お客様との接点も強く、顧客志向が強くなります。更に経営者の視線も末端まで届きやすくなります。ですからどんどん分社化していく…。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは”delegation=creativity”、”creativity=productivity”と言います。一つの塊ではなく、分離して経営の権限を委譲していくと、責任を感じ、そして考えるようになり、それが創造性へと繋がります。そうして創造性が高くなると、生産性も高くなります。結局、”delegation=productivity”、仕事を任せることが生産性を上げる要諦となります。もう一つの哲学としてM&Aの成功の方程式は経営者ごと引き継ぐことだと考えています。買収した会社のトップは、その会社にとって非常に重要な資産であり、その人的資産も含めて買収するということです。勿論、そういうことが出来る会社を買っているという面もあります。

片岡: 新さんは同社以外にもサラ・リー、フィリップ、ホールマークといった錚々たる国際企業で経営のプロとしてご活躍でしたが、オーナー経営者については如何お考えですか。

新: 八起会という、会社を倒産させた社長たちの会合があります。なぜ潰れたか理由を聞いたときに、一番目の理由は経営者の傲慢だったそうです。この会社は俺が作った、幹部社員は俺が育てた、この業界は俺が一番知っている…。社長には色々な落とし穴があります。オーナー経営者であれば尚更です。例えば個室に入ると情報が拡大、縮小、歪曲、ねつ造され、実際に何が起こっているか分からなくなります。そして秘書が優秀であればある程、世事から疎くなります。私は社長をやっている時に速達が有料だと知りませんでした。またワンマン社長であれば交際費を自由にでき、会社のお金でゴルフや飲みに行く、彼女を作る、妻のお土産を買う等と公金と私金の区別がつかなくなる…。社員は見ないような顔をして、しっかり見ています。一部の批判と多くの軽蔑をかい、結局は身を滅ぼします。中内功や堤清二は裸の王様でした。逆にオーナー経営者のメリットは大胆な意思決定とスピードです。これは貴重なものです。ところでトップが権限委譲してはいけないことが三つあります。「企業理念」、「企業戦略」、そして「わが社が求める人材とはなにか」です。これは社長が一人で決めなければいけない。多数決ではダメです。そうでなければ、社長はいりません。本来、企業経営は独裁であるべきです。できれば事前に衆議を重ねた上での独裁が望ましいと思います。
片岡: ところで、ヘッドハンティングでCEOを招聘する際には報酬にルールのようなものがあるのでしょうか。

新: 通常のイメージでは年俸の3割アップが一つの目安です。新規企業の場合はさらにストックオプションを付けます。それだけリスクが高いということですね。私の場合も、どの企業に行く場合も最低でもそうでした。ジョンソン・エンド・ジョンソンの場合は米本社の株式のストックオプションもついていました。また日本で外資系企業に勤めるメリットの一つに、業績がよければ固定給以外のfringe benefitが大きい点もあります。

片岡: 招聘された場合、社内を如何に掌握するのでしょうか。

新: 最初の半年から一年の間は上から下までいろんな人に話を聞き、知り、学ぶ。つまり現状把握です。それまでは何も変えてはいけません。そして方向性の確立と発信します。将来はこういう方向にかじを取ろう…。方向性の中には、まず理念、ビジョンがあり、そして目標、目標を達成するための戦略、つまり儲かる仕組みが入ります。社員を巻き込んでこれを作り、社員の腑に落ちるように自分の言葉で高らかに発信します。その上で戦略を細かに現場に落とし込みます。戦術です。このプロセスを経ると、CEOは社内外で信頼を勝ち取ります。

片岡: M&Aの場合、被買収企業が不安定な状態になることがありますね。

新: 不安定であればこそ、こうしたプロセスをしっかり行うことが必要です。M&Aの場合は、買収する前に第一プロセスのかなりの部分を終えていることも多々あります。新しい方針を出すまでの期間が長ければ長いほど、人心は動揺して生産性が下がりますので、買収した翌日に方向性を打ち出してもいいくらいです。勿論、買収の際に、事前に相手企業での詳細な調査が出来ないことあります。その際には基本概念のみ示し、いつまでにしっかりした事を示すというプロセスを明確に示せばいいのではないでしょうか。

片岡: 人員整理を伴うM&Aについては如何お考えですか。

新: 浪花節的ですが、そういう場合、基本的にM&Aを行うべきではないと思いますが、マネジメントの失策で、過剰な人を抱え込んでいる場合など、どうしても手を付けなくてはいけないこともあります。そうした場合でも、なぜ、それが不可欠かという数字の裏付けを伴った明確な大義名分が必要です。これはM&Aに限りません。例えばトヨタは4000億円の赤字といっても、10兆円を超える内部留保を蓄積しています。それが非正規雇用とは言え、なぜそこに手を付けなくてはいけないか、十分に説明責任を果たしているとは思えません。

片岡: 同じように非正規雇用問題を抱えるキャノンも、子会社であるキャノンマーケティングジャパンのM&Aへの積極的な取り組みが話題となっています。

新: 結局は経営者ですね。

片岡: 本日は貴重なお話を有難うございました。
~完~ (敬称略)

インタビュー後記

外資系企業を次々と渡り歩く人をjob hopperということがあります。新さんは、そうしたjob hopperではなく、career builderでありたいと常々考え、だからこそ、一所に長い間腰を据え、そこで実績を積み重ね、人脈を構築してきたそうです。

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。
脚注

注1

ジョンソン・エンド・ジョンソンについては下記をご参照下さい。
http://www.jnj.co.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジョンソン・エンド・ジョンソン
注2 ジョンソン・エンド・ジョンソンの企業理念(Credo)については下記をご参照下さい。
http://www.jnj.co.jp/group/community/credo/index.html

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