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世界は今、ニューノーマルを探り始めた  ― G20ハンブルグ・サミットと国際システムの今後

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はじめに:二つの‘終わり’

5月イタリアで行われたG7サミットが「1対6」の様相に、また7月ドイツで開かれたG20サミットでのそれは「1対19」の様相にあったと言われています。それが意味することは、トランプ米国を「1」として、これに対峙した他メンバー国との亀裂の深まる様相を語るものでした。さて、その‘亀裂’をどう理解し、今後の世界経済の可能性を如何に考えていくべきか、その備えとして過般、今、人気の世界経済論、二つを読んでみました。

一つは法政大学教授の水野和夫氏による「閉じてゆく帝国と逆説の21世紀」(2017・5、集英社)、もう一つは、国際ジアーナリストのビル・エモット氏の「西洋の終わりー世界の繁栄を取り戻すために」(2017・7、日経出版)(原題:The Fate of The West)です。

まず水野氏は、イギリスの歴史家、ジョン・エルスナー(J. Elsner)とロジャー・カーデイナル(R. Cardinal)の共著「蒐集」をリファーし、西欧には歴史を「蒐集(collection)」の歴史と捉える考え方があり、「蒐集」することで社会秩序を維持してきたのが西欧文明だとした上で、現代に至る世界経済発展の生業を、歴史的perspectiveを以って分析するのです。

つまり、その蒐集する対象は、最初は土地だったが、13世紀初頭に資本の概念が誕生したことで、その対象は資本に移り、その蒐集活動はグローバルに進み、経済の拡大を見てきたというのです。ただその‘場’の広がりに限界が出てきたことで資本の「蒐集」が困難な状況が生まれ、その困難な状況を定義上、「資本主義の終焉」とみるのです。同時に、こうしたグローバル資本に振り回されるのはたくさんだとして、世界に対して自分たちの社会や市場を「閉じる」方向に向かおうとする意識が広まってきたと言うのです。そして、イギリスのBREXIT、米国では排他的とも言える自国主義を唱えるトランプ氏の台頭でグローバリゼーションを否定する潮流が明確になったとし、これが世界に対して「閉じる」と云う選択を迫る、つまり経済ナショナリズムにその解を求めることとなったとし、世界経済の現状を解析するのです。つまり、自由と平等を前提としてきた資本主義はその歴史を終え、現行の資本主義というシステムは ‘閉じた帝国’ としてポスト近代システムを探ることになると分析するのです。

確かに複雑に変化する世界経済を、歴史的パースペクティブと共にダイナミックに分析された本書は、彼の3年前の「資本主義の終焉と歴史の危機」に続き、評価される処ですが、さて、これがポスト・モダンの姿を‘閉じた’経済システムに求めることになるとの発想には正直、組することはできません。新たな技術革新が急速に起こってきている今、新しいもの、異なったものを結び付けることによって新しい収益機会、つまり新たな蒐集の場が創造される時代にあるだけに、です。

そ点では、エモット氏の論理は、より建設的であり、示唆的と思料する処です。つまり彼はシュペングラーの大著「西洋の没落」をリファーしながら、筆者も学生時代、のめり込んで読んだものですが、戦後70年以上ずっと西洋諸国は繁栄を続け、この繁栄する西洋に参加する国がどんどん増え、現代性を齎す思想に群がってきたということですが、今、そのシュペングラーにどこか似ている質問者が、私たちの前に立ちはだかって、指を振り、首を傾げて、この繁栄の時期は終わったのか、それとも終わろうとしているのか、と問いかけていると云うのです。そして、今の時代は、待遇とさまざまな権利の平等が、何十年もの間、なかったような強い疑念にさらされ、社会の信頼が揺らいでいるように思われること、そして更に、現在と今後十数年の西洋の命運は、その進化の能力に委ねられるとした上で、西洋諸国の市民として、まず、ドア、国境、心を閉ざそうとする動きに抵抗し、進化によって変わるのを拒んでいる大きな障害を突き止め、異見を一致させ、障害を除去しなければならないと警鐘を発するのです。

序でながら彼は、米国でよく引き合いに出されるトーマス・ジェファーソンが云ったとされる「自由の代償は、永遠の警戒である」に照らし、外部の脅威と、内なる脅威の両方に、警戒する要があるとし、現在、そうした脅威の最大原因は、不平等だと指摘するのです。だから、億万長者であることをひけらかし、自分の名前を大書したけばけばしいビルが気に入っている人物が、平等の為にたたかっていると思われているのは、皮肉としか言いようがないというのですが、まこと共感、覚える処です。

かくして、トランプ氏が云う「ディール」をベースとしたアメリカ・ファーストとは、トランプ・ファーストであり、一国のトップとしてのスローガンとは決して言えるものではありません。
つまり、「世界を止めろ。俺は降りる」と云うような経済ナショナリズムは正しい手法とは言えず、要は、我々は民主主義と経済システムを修理、整備することなくしては成り立たなくなっていくというのです。 その点ではトランプが言っているように「腐敗を一掃する」必要がある処でしょうが、しかし、逆にドアを閉ざし、貿易と競争の障壁を高めたら、独占企業、カルテル、過度の政治力を持つものによる被害が甚大になると云うものです。同時に利己主義と、それを追求する能力は弱まるどころか、強まっていく事になる処です。 アメリカや欧州でポピュリストの党が提案する閉ざされた独裁主義的な社会は動きに乏しく、極端な場合にはゼリー状に固まったものになる筈と云え、機会は増えるどころか減らされることになるとは歴史が示す処です。
それは‘開かれた社会が優位に立てる’事を語る処と、エモット氏は云うのです。

さて、この優位をどのように堅持していくかが、2008年の金融危機以降の世界経済に課せられたテーマとしてあり続けてきた処です。そして、そこにある問題を克服し、持続的な成長を担保していく為にと導入された世界活動の一つがG20サミット(注)です。そのサミットがドイツ・ハンブルグで今年も行われましたが、そこで見る討議の展開は、当初の理念とは聊かのギャップを実感させるものでした。

(注)G20サミット:日米欧主要7か国(G7)の財務相・中銀総裁会議に、1999年、アジア通貨危機に対処するため、米国が主導して中印など13か国を加え、G20財務相会議を創設したことに起源をもつ。首脳会議は2008年のリーマンショックを受け、当時のブッシュ米大統領が主導して開催。2009年に定例化が決まった。G20では世界経済や自由貿易拡大への議論を通じて国際秩序の堅持を図る事都してきたが、現状では米国が輸入制限をちらつかせ、中-印・露などBRICS首脳が保護主義反対を訴える構図に変わってきた。

そこで、この際はエモット氏のコンテクストにも照らしながら、今次のG20サミットが映し出した現下の国際情勢、とりわけ自由貿易を巡るトランプ米国と、欧州、とりわけメルケル・ドイツとの関係、そして蜜月とも瞬時、評された米中関係の変容にフォーカスし、その実態を確認しつつ、同時に係る新潮流の中、日本としてはどういったポジションを目指していくべきか、改めて考察しておきたいと思います。(7月25日)

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