運用難の時代
マイナス金利政策はひとことで言うと、
「金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を課す」仕組みである。
日銀は、「金融機関が融資や証券投資を活発化させること」を期待している。
これを行わずに日銀の当座預金に安直に余裕資金を回すだけのところに対しては
「罰金(0.1%の金利)を課しますよ」というわけだ。
そんなことを言われたって、金融機関からすれば、簡単に融資は増やせない。
企業の資金需要は弱く、証券投資と言っても外債には為替リスクがつきまとう。
どうするか。
取りあえず持っている国債は売らずに抱えておく。売れば現金になって手元に売却代金が来てしまう。これを日銀に預けると0.1%の金利を逆に取られてしまうから、売れないのだ。
ということで、国債のマーケットでは売りが急減、価格が上昇(利回りが低下)した。
現在市場に流通する国債の8割近くの利回りがマイナスだという(本日付の日経ヴェリタス紙48頁)。
一方の日銀。
売りが急減している国債市場の中で、年80兆円ずつ国債残高を増やしていかなければならない。
政府による国債の新規発行は年30兆円強。
この分は、証券会社や銀行が引き受けた後、すぐに日銀に転売してくれる(彼らとしては確実な利ざやが稼げる)。
問題は、それ以外の分(年80兆円-年30兆円強)だ。
これを市場から買い集めなくてはならない。
かくして、日銀は国債を一所懸命買おうとするが、売り手の方は控えめといった状況が続き、国債価格が上昇(利回りが低下)、市場に流通する国債の8割近くが利回りがマイナスという事態に陥ってしまった。
いちばん困っているのは銀行や保険会社などの金融機関だろう。
企業や個人から資金が集まってきてしまうからだ。
これら金融機関の運用担当者にしてみれば、昨年までであれば、とりあえず国債で運用しておくことができた。
しかし今では残存期間13年超のものを除けば国債の利回りはマイナス。
プラスで預かったものをマイナスで運用することなどできない。
「どうしていいか分からない」といった状態が続く。
真偽のほどは分からないが、運用難にあえぐ一部の地方銀行や信金がやむなくメガバンクに預金をするようになったといったニュースも伝わってきた(『こちら』)。
預けられたメガバンクにとっても迷惑な話だろう。
黒田東彦日銀総裁は「マイナス金利はまだまだいくらでも深堀りできる」と語ったという(『こちら』)が、これ以上深堀するといったいどうなるだろう。
『当行に1000万円以上の預金をお預けになる場合には年0.1%の手数料を頂戴させて頂きます』-そんな張り紙がメガバンクの窓口に掲げられるようになるかもしれない。