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機関設計の選択議論に虚しさを覚える ~資生堂のコーポレートガバナンスの実践に学ぶ~

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監査役会設置会社である資生堂のコーポレートガバナンスの実践を見ていると監査役会設置会社、指名委委員会設置会社、監査等委員会設置会社などの機関設計について議論することがどれほどのことかと思えてきます。資生堂はコーポレートガバナンス・コードの有識者会議での議論のはるか先を行くコーポレートガバナンスを実践しています。

 

日本監査役協会の月間監査役1月号に「今動き出す企業統治改革と監査役」という昨年10月に開催されたパネル・ディスカッションをまとめた特集が組まれています。昨年2月のスチュワードシップ・コードの策定、6月の会社法の改正、12月のコーポレートガバナンス・コード原案についてのパブコメ募集など日本のコーポレートガバナンス改革の起点となった昨年の動きを受けた特集です。このパネル・ディスカッションに資生堂の常勤監査役の高山靖子氏が登壇しておられます。ここで高山氏が紹介された資生堂のコーポレートガバナンスは大変実効的なものであると感銘をうけました。

資生堂は監査役会設置会社ですが、監査役会は2名の常勤監査役(男性1名、女性1名)、取締役会は、常勤の社内取締役5名(男性5名)、非常勤の社外取締役3名(男性2名、女性1名)から構成されています。

この構成を業務の執行・非執行という観点からみると、非業務執行役員(監査役+社外取締役)8名、業務執行役員5名となっています。

また、社外・社内という観点から見ると、社外出身役員(社外監査役+社外取締役・社内取締役)8名、社内出身役員5名となっています。

ダイバーシティの観点からは、外国人1名(社内取締役)、女性3名(社外取締役・社外監査役・社内監査役)で女性比率は23%となっています。

ここで注意して欲しいのは、社外出身で社内の常勤の取締役が2名いるということです。その中には、日本コカ・コーラ(株)の会長であった代表取締役執行役員社長である魚谷雅彦氏も含まれています。

詳しい内容を省略して重要だと思う点を紹介しますと、この取締役会が諮問する委員会として、役員報酬諮問委員会、役員指名諮問委員会があるという点です。この諮問委員会の中に特別部会があり、ここで社外取締役と社外監査役の協働によって次期社長候補の選抜を行う仕組みです。事実、上述の魚谷社長はこのプロセスで昨年4月に選ばれたということです。そしてそのプロセスはアニュアルレポートで開示しているということです(筆者は実際には見ていません)。ここに、同誌に記載されている高山氏の説明を引用します。

「昨年(2013年)の夏から特別部会を月1回のペースで開催し、あらゆる可能性を排除せずに検討を始め、社内外の人物から複数の候補を選び、多面的なヒヤリングや調査、外部機関によるアセスメントなどを実施して選好を行いました。昨年4月からマーケティング改革プロジェクトに参画していた魚谷雅彦も、その候補者の1人でしたが、特別部会から役員指名諮問委員会に答申され、最終的に取締役会で決定しました。」

ここでは、コーポレートガバナンス・コードの有識者会議で議論されていた内容よりはるかに先進的な実践が行われているのです。何より、社長候補の選抜に社外取締役・社外監査役の社外の役員だけで行われていること、社外監査役も社長の選抜に大きくかかわっていること、候補者も社内外の広い範囲から選んでいることなど、時代の先端を切り開くものだと思います。

この例を見ていると機関設計の議論がばかばかしく思えてきます。実践する意思があるのであれば監査役会設置会社でも指名委員会等設置会社以上のことができるということを証明しています。まして、監査等委員会設置会社のような中途半端な会社機関の存在価値を無からしめる実例であると思います。事実、高山氏は同誌で次のように語っています。

「機関設計を変えることが企業価値向上につながるのでしょうか。むしろ、機関設計の選択の議論よりも、取締役会の在り方や活性化のところをもっとしっかり整えていくことが企業価値の向上のためにも重要ではないかと思っています。」(同誌47ページ)

(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより)

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