潰えた夢:アメリカ移民法改革の断面
最近のブログ記事でとりあげているアメリカ移民法改革にかかわる問題のひとつが、CBSニュースで話題となっていた。あのDream Actが上院を通過できず、成立しなかった。CBSは「夢法案、上院に死す」DREAM Act Dies in the Senate と報じている。この法案はアメリカへ16歳以前に「不法」に入国した者に審査の上、市民権取得への道を開こうとしたものだった。
ほとんどの日本人が関心を寄せないようなトピックスばかり、なぜ書いているのかと思われよう。理由を記せば長い話になってしまう。しかし、30年後、あるいは50年後になると、日本も同様の問題を避けては通れないだろうとの思いが頭の片隅をよぎるためだ。管理人本人は間違いなくこの世にいないから、余計な心配にすぎないことは承知の上でのことだ。
余談はさておき、上述のDream Act 法案、下院は通過したのだが、上院で主として共和党議員の反対で、議事妨害 Filibuster のため成立を拒まれた。このことはオバマ大統領の下で、移民法改革が進展しないことにいらだっていた人たち、特にヒスパニック系の活動家にとって、大きな失望を生んでいる。新年に入り、共和党優位の議院体制となれば、こうした法案が復活する可能性はなくなってしまう。
法案はもともと子供の頃、親などに連れられてアメリカへ入国し、高校あるいは同等の教育を終了、アメリカ国内へ少なくも五年間居住していた者が対象になっている。さらに犯罪歴がなく、さらに2年間の大学課程あるいは軍役につくことに合意した者に限られている。応募者はそれでも市民権を得るため10年間は待たねばならず、遡及して租税を支払い、履歴についての審査をクリアしなければならないという内容だった。反対にまわった共和党議員の考えは、この法案はアムネスティ(恩赦)に近く、さらに不法移民の入国を招くにすぎないというものだった。他方、その内容から、共和党員の中にも法案主旨に賛成する者もいて、党派を越えた投票が行われた。
法案が成立しなかったことで、移民とりわけ不法在住者の多数を占めるヒスパニック系には不満が高まっており、いかなる動きが生まれるか。彼らにすれば、このままでは「二流市民」の苦難な時期が続くだけだ。
新年になり下院が共和党優位に移行する前に、少しでもポイントを稼ぎたいオバマ政権には苦しい結果になった。オバマ大統領も失望の色を隠せなかった。もっとも、民主党員の中にも、包括的移民法案が生まれるためには国境管理の一層の改善、不法移民を雇用した使用者への厳しい罰金が課せられるべきだとの強い主張もある。さらに市民権を望む者は、英語の習得、罰金の支払いも必要だとの考えも提示されている。
いかなる形であれ、包括的移民法が新議会で成立するには、もはや超党派での対応しかないと考える民主党議員もいる。今のところ、こうした考えには賛成者は少ないが、人権、居住の権利など問題の内容、ヒスパニック系の影響力などから、可能性が消えたわけではないとの観測もある。
かつては、白人対黒人の対立問題が、今では白人、黒人、ヒスパニックと多様化し、人種グループ間の亀裂の拡大は複雑になった。 数が少なかったころは「物言わぬ民」であったヒスパニック系が大きな発言力を持った今日、対立修復のルール作りはそれほど容易なことではなくなった。近い未来のアメリカのあり方に深くかかわるからだ。人々が思い描くアメリカ国家像は収斂にはほど遠い。