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リテールバンキングとITの活用

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 リテールバンキングの世界では、営業店舗での対応に加えて、モバイルフォン・パーソナルコンピュータ・ATM等のITを活用して、利用者の便益・満足度の向上を図り、顧客として取込む傾向が益々強まっている。こうした動きについて、昨年11月米国シカゴで開催されたBAI(Bank Administration Institute ~85年以上の歴史を持つ米国の業界団体)主催のRetail Delivery 2014での報告を中心に以下のとおり整理してみた。
米国においては、銀行の業務範囲に関して弾力的な取扱いがなされており、邦銀の魅力増大の見地から、我国においても同様の取扱いが望まれる。

1. オムニチャネルの追求
2. モバイル・バンキングの収益貢献の途
3. Apple Payを中心とした決済サービスの動向
4. クレジットカードとSNSとの融合
(付)JP Morgan Chase銀行での営業店業務展開

    1. オムニチャネルの追求

        1. オムニチャネルの概念

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          オムニチャネルとは、複雑な顧客行動を統一した観点で捉え最適なチャネルでサービスを提供する取組で、シームレスな顧客体験ができる環境を整備し、顧客満足度を向上させることを目指している。

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          オムニチャネルは、近年小売戦略において提唱されており、これを金融に取入れようとするもの。

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          これまで、金融においては、マルチチャネルの概念の下で、モバイル・パソコン・ATM・コールセンター・店舗の各チャネルがそれぞれに顧客満足度の向上の目指して来たのに対し、オムニチャネルでは顧客を中心に据え、モバイルからコールセンター等にチャネルを移動しても継続的に、同レベルのサービスを提供することを目標とする。

    2. オムニチャネルの効果
      オムニチャネルの展開によって、顧客獲得のさらなる増加が可能になり、加えて既存顧客との関係深化、効率的な業務展開によるコスト削減も期待できる。

        1. 他業種での成功事例
          こうした試みは物品販売・サービス提供の領域では、次のように既に実現していることが多く、銀行としてはこの成果を取入れようと模索している。

          サービスの特長 他業種での成功事例
          待ち時間 “0” Delta航空
          チャネル移動してもサービス提供が持続 TESCO(イギリスの小売業)
          テーラーメイドサービス Walgreens(米国のドラッグストア)
          購買プロセスが直接コントロールできる
          (変更が容易)
          UPS(米国の宅配サービス)
    3. 米銀の現状
      米銀では現在、①顧客行動の徹底分析、②Facebookなどを通じる既存顧客以外の行動パターンの収集、③顧客の動きをシームレスにサポートできるデータ連携・販売促進キャンペーンの模索、④PDCAサイクルを回し、アクセス方法の最適化を追求 等により、オムニチャネルの確立に努めているが、大手銀行でも確固としたビジネスモデルを打ち出せていない。

    4. モバイル・バンキングの収益貢献の途

      1. Harris Bankの事例

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        Harris Bankはシカゴに本店を置く、総資産11兆円、支店数650の中規模銀行。

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        モバイルフォン(スマホ)の業務活用には従来から力を入れており、①預金獲得、②顧客と営業職員とのアポ管理、③投資信託・保険等の金融商品のクロスセルにおいて十分な成果を挙げている。

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        今後は、物販・サービス提供業者との間で、銀行のモバイル画面において優遇ポイント制度の利用増大等連携強化を追求することを通じて、個人顧客および業者の両方において取引拡大を目指していく方針。

      2. US Bankの事例

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        US Bankは、米国中西部、北部25州に3200店舗を展開する総資産42兆円のスーパーリージョナルバンク。

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        試行段階ではあるが、オンライン・ショッピングアプリを提供する等モバイルフォンの機能を広く活用することにより、銀行収益の増大を図っている。具体的には、モバイルフォンで、商品カタログの撮影・音楽の聴取などのアクションを取ると、対象の商品が画面上に表示され、直接購入が可能(代金決済はクレジットカード機能を利用)となる仕組。

    5. Apple Payを中心とした決済サービスの動向

        1. Apple Pay

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          Apple Payとは、Apple社が2014年10月に米国で開始したNFC(近距離無線通信)技術を利用したモバイルフォン資金決済システム。電子マネーでなくクレジットカード決済の形態。

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          決済機器にモバイルフォンをかざすだけで、決済が可能となるという点では、「おさいふケータイ」や「Googleウォレット」と同様の機能。

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          取引行為の面では、生体(指紋)認証およびトーカナイゼーション(クレジット番号を利用業者にそのまま示すのではなく、取引1回毎に10桁の数字列[トークン]を伝達する)を採用することにより、他人の成り済ましおよび利用業者等によるクレジットカード情報の盗用を防止することが出来、取引の安全確保において、高い評価を受けている。

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          Apple Payはこうした高度の安全確保機能が採用されていることから、不正決済に対する補償費用の大幅削減が見込まれており、スタート当初から大手銀行を含む500以上の金融機関が採用している。

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          Apple Payは、スタート当時から以下の大規模企業を含む22万店舗で利用可能となっており、その後も急ピッチで増加している。
          Apple Payで決済可能な先:
          Disney Store、Macy’s(百貨店)、McDonald’s、Nike、SUBWAY(サンドウィッチ・チェーン)、Toys“R”Us (玩具チェーン)、Whole Foods Market(自然食品スーパーマーケット)、Walgreens(ドラッグストアチェーン)

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          本コンフェランスにおいても、Apple Payを取り扱ったセッションは、多数の参加者により満席の状況であった。あぶれた30~40名の聴衆は床に座り込んで説明を聴いていた。

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          さらにApple Pay利用に当って、Apple社は利用店舗・決済金額等の利用情報を一切取得しておらず、情報漏洩のリスクが最小化されている。
          Apple社は、決済サービス利用の対価を、不正利用の少ないシステムを提供する見返りとして、決済銀行から徴収(決済金額の0.15%)しているため、利用者は、Apple Pay利用する際に、決済手数料を追加的に支払う必要はない。

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          日本でのApple Payの利用については、NFC(近距離無線通信)の方式が日本で支配的な方式と異なるため新たに対応機器を導入する必要があること、および我国ではクレジットカード決済に関する不正行為が米国など多くないこともあって、Apple Payの利用が拡大することは当面は見込まれない。
          もっとも、Apple社が我国においてApple Payを普及させる方針を採用しさえすれば、NFC対応の決済機器の導入はさして困難なことではないはずで、決済の安全性の高さから推して、日本でも利用が急上昇することは想像に難くないところである。

    6. 米国におけるその他の決済サービス
      ① CurrenC
      Merchant Customer Excange(MCX)社が2015年にサービス開始を予定しているモバイル・ウォレット。大手スーパーマーケットのWalMart社がイニシアティブを取って開発したシステムで、クレジットカードは使わず、購入者毎のQRコードで支払者を特定。小売業者に購入履歴等販売データが蓄積される。
      ② Dwolla
      クレジットカードを経由しない送金ネットワークシステムで、米国で一番手数料が安い(10ドル以下無料、10ドル超でも1件当り25セント)。Facebookとも連動。
      ③ Bluebind
      American Express社がWalMart社と共同で開発したデジタル・プリペイド・カードシステム。小売店舗での決済・ATMからの現金引出し、個人間の送金等幅広い利用が可能。

 

  • クレジットカードとSNSとの融合

    1. サービス内容を「顧客」が決定できる、究極のマーケットイン型クレジットカード。
      英国の大手国際金融グループBarclaysの子会社Barclay Cardが開発したシステム。

    2. Barclay Cardは、サービスが全く規定されていない「ホワイトカード」を発行し、Facebook等SNSのコミュニティでメンバ自身が、自ら欲するサービス内容を企画・実施するもの。

    3. カードのデザイン、手数料率、外貨両替サービスの有無、ポイント料率について、SNSに集うコミュニティメンバの投票で決めていく。その収支は、年2回メンバに開示され、サービスの改善、見直しを当該コミュニティで継続的に行っていく仕組。

    4. カードの運営に関与することにより、メンバの愛着も高まるため、カード使用率は通常の場合と比べて約3倍まで上昇。つれて収益も改善。

 

○  このように米国では、ITを活用した決済システムが各種開発利用されている。銀行にとっても、こうした資金決済に伴う手数料収入および資金決済に誘発されたかたちでの様々の金融サービスによる収入が無視し得ぬ収益源となっている。
我国においては、これまで「銀行=強者」の前提の下、銀行が資金決済および各種サービス分野に進出することは規制されていた。
本年2月26日付日本経済新聞朝刊報道によると、「金融庁は銀行規制を17年ぶりに転換」し、「持株会社傘下で新事業を可能」とする方向で検討しているようであり、「スマホ決済子会社」の設立も認められるとのこと。
銀行の健全性確保は当然であるが、それと両立する形での銀行規制緩和は我国銀行の国際競争力向上の観点からも強く望まれる。

(付)JP Morgan Chase銀行での営業店業務展開
上記「BAI Retail Delivery 2015」コンフェランス出席と同じタイミングで、JP Morgan Chase銀行(以下「JPMC」)のニューヨーク近郊支店を視察。同銀行支店業務展開の特長を以下、簡単に紹介する。

 

  • JPMCの全体像
    JPMCは、全米第1位の大銀行(総資産275兆円)であり、投資銀行業務、大企業融資に特化した金融機関との印象が強いが、実態は収入の5割弱(46.1% ―2013年実績)を、「Consumer & Community Banking」から稼得。これは、2004年にスーパーリージョナルの「Bank One」を合併し、2008年に全米最大の貯蓄・貸付組合(S&L)「Washington Mutual」を買収したことが大きく影響している。

 

    1. JPMCの「Consumer & Community Banking」の特長

    2. モバイル・バンキングおよびクレジットカード業務に強みを持っており、クレジットカード関連融資残高は全米第1位。

      1. 最近は、Affluent Mass(裕福な中間層)向けのプライベート・バンキング・サービスに注力している。

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        プライベート・バンキング・サービスは、2011年に開始し、2013年までに2150店舗(総店舗数は約5600)に「Chase Private Client」という特別の区画を設定。

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        対象顧客は、預かり資産平残が約30万円から5億円程度まで、2013年末までに20万人が登録。

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        顧客サービスは次の2名の職員がペアを組んで提供する。
        Private Client Banker——顧客毎に指名され、金融業務・サービスの相談に乗る世話係
        Private Client Advisor——顧客のリスク選好度および投資目標に応じて、具体的な投資プランを作成。

 

  • ニューヨーク近郊支店の実情

    1. 支店の近くには某国大手企業の北米本部があるため、米国大手行およびアジア系銀行拠点が集中しており、大変な激戦地区。

    2. 支店長(当店は女性)の任期は通常4~5年、事業資金・住宅ローンの融資決裁権限はなく(推薦のみ)、地域の融資センターで可否を決裁。米銀の場合、支店長に融資専決権限を与えないことが通例。

    3. 専門的知識を有する支店職員を積極的に育成しており、職能による役割分担が明確になっている。

    4. 「Chase Private Client」に力を入れており、既に200口座を開設済み。

  • JPMC Consumer Bankingの経営方針(同部門幹部との面談結果)

    1. 新しい資金決済関連競合商品(Apple Pay、Amazon FPS、Square等)への対応については、競合でなく共生を模索する。
      Apple Payに関しては、Apple社とパートナー契約を締結し、これによりChaseカードの利用増を図った方が効率的。

    2. サイバー・セキュリティ対策には、顧客からの信認を確保するため、最大限の資源を投入する(2012~2014年の間、毎年このために2.5億ドルを支出し、1000名の要員を割当てている)。

 

以上

 

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