Home»連 載»法考古学と税考古学の広場»第54回 国際法務その20: 国際訴訟制度その4 :第6の主要な問題点としての立法管轄権および第7の主要な問題点としての国家行為

第54回 国際法務その20: 国際訴訟制度その4 :第6の主要な問題点としての立法管轄権および第7の主要な問題点としての国家行為

0
Shares
Pinterest Google+
問題点(日本語) 英語での表現 どういう問題か
立法管轄権 Legislative Jurisdiction ある国が立法できる範囲
国家行為 The Act of State たとえば、ある国による外国企業の国有化

第6の主要な問題としての立法管轄権

日本は、47の都道府県からなる単一国家です。これに対し、アメリカ合衆国は、50の州からなる連邦国家です。「日本法」という場合、日本という単一国家が制定した「国家法」だけが問題となりますが、「アメリカ法」という場合、連邦国家が制定した「連邦法」の外に、各州が制定した「州法」が別にあります。つまり、アメリカの「州」は、日本の「都道府県」とは異なって、いわば一種の「国家」なのです。そこで、そのような一種の「国家」としての「州」が立法できる範囲が問題になります。たとえば、ロング・アーム法(long arm statute)と呼ばれる州法があります。「ある州の非居住者が、その州と最小限度の接触(minimum contact)を有すれば、そのような非居住者に対して、その州の裁判所の司法管轄権が及ぶ」とする州法です。あたかも州が長い腕(long arm)を伸ばして州外の被告を自州の司法管轄内に取り込むように見えることから、このように呼ばれる訳です。この長い腕をどこまで伸ばせるかが「立法管轄権」の問題なのです。

第7の主要な問題としての国家行為

国際訴訟の場合、国家行為に関連して実務上とくに問題になるのが、「国有化」と「主権免除」です。

  1. 「国有化」が問題になった裁判として「日章丸事件」があります。1953年(昭和28年)3月、出光興産は、石油を国有化したイランから石油を買い入れ、これを「日章丸二世」という船で日本に輸送しました。これに対し、英国アングロ・イラニアンは、この石油の所有権を主張し、出光興産を提訴しました。東京地方裁判所は、「申請人[英国アングロ・イラニアン]は石油国有化法により、イラン国における石油採取権その他前記利権協約による一切の利権を喪失し、本件石油につき所有権を取得することはできなかったものと認めなければならない。」と判示して、「被申請人[出光興産]の[積荷である石油]に対する占有を解き、申請人の委任する執行吏に保管を命ずる。被申請人は[積荷である石油]につき譲渡その他一切の処分行為をしてはならない。」との判決を求めた英国アングロ・イラニアンの仮処分申請を却下しました(注1)。
  2. 「主権免除」に関しては、いわゆる「主権免除法(注2)」があります。この法律は、ある国家の裁判所が他の国家に対して民事裁判権を行使し得るかという、これまで「主権免除(国家免除)」として議論されてきた問題を規律するもので、その内容は、いわゆる「国連国家免除条約(注3)」を踏まえたものです。

脚注

注1 東京地方裁判所・昭和28年5月27日判決・下級裁判所民事裁判例集4巻5号755頁。

注2 正式の名称は「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」といいます。平成21年4月17日に、平成21年法律第24号として成立し、同年4月24日に公布され、平成22年4月1日から施行されています。

注3 正式の名称は「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約(United Nations Convention on Jurisdictional Immunities of States and Their Property)」といいます。

Previous post

断裂深まるアメリカ(6):国民への道を定めるものは 

Next post

朝日新聞がんワクチン報道事件 第四の権力”悪意”の暴走(その1/4)