第42回 国際法務その8: 租税法その2-法人所得に関する税法
前回(第41回)では、「租税法」の「国際的側面」に焦点を当てる場合(注1)、例によって、その「国際的側面」を、便宜上、次のように2種類に区別しました。
国際的側面の種類 | 英語訳 | その特色 |
1.対内的取引(活動) | Inbound Transactions (Activities) | 外国人または外国法人の日本での取引(活動)に対する「日本法」の適用 |
2.対外的取引(活動) | Outbound Transactions (Activities) | 日本人または日本法人の外国での取引(活動)に対する「日本法」の適用 |
そしてまず、個人の所得に関する法律である所得税法を見ました。そこでも述べましたように、「所得税法」は「個人の所得に関する」中核的法律ですが、法律技術的には、「個人の所得」だけではなく、「法人の所得」をも規定していることに注意すべきです。ですから、法人の場合には、個人の場合と異なって、常に「法人税法」と「所得税法」の双方を参照しなければなりません。対内的取引(活動)、つまり、外国法人(注2)の日本での取引(活動)、に対しては、まず、法人税法第4条第3項が、外国法人は〔日本の〕国内源泉所得(注3)を有する場合には〔日本の〕法人税を納める義務がある、と規定しています。つぎに、所得税法第5条第4項が、外国法人は〔日本の〕外国法人課税所得の支払いを受ける場合には〔日本の〕所得税を納める義務がある、と規定しています。これは、日本法人(注4)であれば「世界中の所得」が課税(法人税もしくは所得税または両税)の対象になるのですが、外国法人であれば「日本で生じた所得」(これを「国内源泉所得」とか「外国法人課税所得」と呼びます。)だけが課税(法人税もしくは所得税または両税)の対象となる、という外国法人所得課税の原則を規定したものです。これとは対照的に、対外的取引(活動)、つまり、日本法人の外国での取引(活動)、対しては、法人税法第95条第1項が、内国法人が外国法人税を納付する場合には、その外国法人税の額を〔日本の〕法人税の額から控除する、と規定しています。これは、日本人個人の場合と同じように、日本法人であれば「世界中の所得」が課税対象になるのですが、もし「外国で納付する法人税」があれば日本の法人税から差し引く、という「外国税額控除」を規定したものです。これまで何回か述べたことの繰り返しになりますが、この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際に必要な法律の半分だけしか取扱っていないのです。たとえば、日本で活動するアメリカ法人の法人税(corporate income tax)については、まず「アメリカの法人税法(注5)」の適用があることは当然ですが、すでに述べました「対内的取引(活動)に関する日本の税法」である法人税法第4条第3項および所得税法第5 条第4項の適用があります。同じように、たとえば、アメリカで活動する日本法人の法人税については、まず「日本の税法」である法人税法および所得税法の適用があることは当然ですが、「対内的取引(活動)に関するアメリカの法人税法」の適用があります。つまり、この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際には、もう半分である相手国の法律(たとえばアメリカの国内法)を必ず検討する必要があることを忘れないで下さい。
脚注
注1 「日本法」の「国際的側面」に焦点を当てる前提として、「日本法」の「国内的側面」の理解が必要な場合があります。たとえば「法人税法」の「国際的側面」に直接に関係するのは、「第一編 総則」と「第三編 外国法人の法人税」ですが、「所得税法」の「国内的側面」として、「第四編 源泉徴収」の理解が不可欠です。
注2 厳格に言えば、個人の場合は、「日本人」と「外国人」との区別ではなく、「居住者」と「非居住者」とに区別されます。つまり、「個人の国籍」に関係なく、「日本人」でも日本に居住していなければ「非居住者」であり、「外国人」でも日本に居住していれば「居住者」となります。法人の場合にも、厳格に言えば、「会社の国籍」によってではなく、「本店または主たる事務所の所在場所」によって、「内国法人」と「外国法人」に区別されます。
注3 〔日本の〕国内源泉所得とは、要するに「日本で生じた所得」のことです。所得税法の場合には、所得税法第161条が14種類の「国内源泉所得」を規定していますが、法人税法の場合には、法人税法第138条が11種類の「国内源泉所得」を規定しています。ただし、所得税法第162条と同じように、法人税法第139条は「租税条約」に「法人税法」とは「異なった定め」がある場合には「租税条約の定めを優先する」と規定しています。たとえば、法人税法第138条第7号は、「使用料」の源泉地の決定にいわゆる使用地主義を規定していますが、日本・スイス租税条約では、「使用料」の源泉地の決定にいわゆる債務者主義を規定しています。
注4 上記注2で述べましたように、法人の場合には、厳格に言えば、「会社の国籍」によってではなく、「本店または主たる事務所の所在場所」によって、「内国法人」と「外国法人」に区別されますが、原則として、「内国法人」とは「日本法人」を意味します。
注5 「アメリカの法人税法」とは、The Internal Revenue Code(米国内国歳入法典)を指します。