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第27回 粉飾決算その5: 第3類型の粉飾決算

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一般に粉飾決算と言われるものには3つの基本的な類型があります。第1類型が、事実そのものを偽るもの(例えば、架空の売上げを計上する。)、第2類型が、子会社を使うもの(例えば、不良品を親会社の在庫としないで子会社の在庫とする。)、第3類型が、複数ある会計処理方法の中で都合の良い方法をワザと選択するもの、という3類型です。この中の第3類型が問題となったのが、いわゆる旧長銀粉飾事件です。旧長銀粉飾事件には2つの流れがあります。1つは、旧長銀の頭取および2名の副頭取が「虚偽記載有価証券報告書提出罪」および「違法配当罪」で起訴された刑事事件です。もう1つは、旧長銀の会長、頭取、2名の副頭取、2名の常務取締役、取締役総合企画部長、取締役事業推進部長に対して旧長銀の後身である新生銀行および整理回収機構が「違法配当」に相当する金額の損害賠償を請求した民事事件です。刑事事件の流れは、第一審(東京地裁平成14年9月10日判決(注1))では、全員有罪(頭取が懲役3年・執行猶予4年、副頭取が両名とも懲役2年・執行猶予3年)、第二審(東京高裁平成17年6月21日判決(注2))では、全員有罪の第一審判決を維持して、控訴棄却の判決、第三審(最高裁第二小法廷平成20年7月18日判決(注3))では、第一審判決および第二審判決を破棄し、全員無罪の逆転判決となっています。民事事件の流れは、第一審(東京地裁平成17年5月19日判決(注4))では、「違法配当ではなかった」として、損害賠償請求を棄却し、第二審(東京高裁平成18年11月29日判決(注5))では、第一審判決の請求棄却判決を維持して、控訴棄却の判決、第三審(最高裁第二小法廷平成20年7月18日決定(注6))でも、第一審判決および第二審判決を維持して、上告棄却の決定(および上告不受理の決定)となっています。つまり、旧長銀粉飾事件は、複数ある会計処理方法の中で都合の良い方法をワザと選択するもの、という第3類型の粉飾決算の事例なのですが、最高裁によって、刑事上も民事上も「粉飾決算ではなかった」と判断された訳です。被告人ら全員を有罪とした第一審判決および第二審判決を破棄し、逆転して被告人ら全員を無罪とした最高裁第二小法廷平成20年7月18日判決によれば、その理由は次の通りです。

1. 1. 旧大蔵省は、昭和57年4月1日付けで、「決算経理基準」を発出したが、平成9年7月31日付けで、この「決算経理基準」を改正した。
2. 旧長銀の行った平成10年3月期の決算は、「改正前の決算経理基準」によれば「粉飾ではなかった」が、「改正後の決算経理基準」によれば「粉飾であった」。
3. しかしながら、旧長銀が行った平成10年3月期の決算の当時は、過渡的な状況にあって、「改正前の決算経理基準」も、「改正後決算経理基準」も、ともに「公正ナル会計慣行(注7)」であった。
4. そうすると、「改正前の決算経理基準」に準拠して旧長銀が行った平成10年3月期の決算処理は「公正ナル会計慣行」に反する違法なものとはいえないから、「本件有価証券報告書の提出および配当につき、被告人らに対し、虚偽記載有価証券提出罪および違法配当罪の成立を認めた第一審判決およびこれを是認した原判決は、事実を誤認して法令の適用解釈を誤ったものであって、破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」

脚注

注1 私の知る限り、この判決は公表されていないようです。ただし、商事法務1669号17頁以下に、岸田雅雄、「不良債権と取締役の責任―長銀判決の検討」の判例批評があります。

注2 判例時報1912号135頁以下。

注3 最高裁のホームページwww.courts.go.jp/saikosai/ 商事法務1845号26頁以下に、岸田雅雄、「旧長銀事件最高裁判決の検討」の判例批評があります。

注4 判例時報1900号3頁以下。太田剛彦、「長銀配当損害賠償事件」判例タイムズ1215号178頁以下。

注5 私の知る限り、この判決は公表されていないようです。

注6 私の知る限り、この決定は公表されていないようです。ただし、上記注3の商事法務1845号26頁以下の岸田雅雄の判例批評に、同じく最高裁第二小法廷が同じく平成20年7月18日に上記の刑事判決の外に「上告棄却の決定」および「上告不受理の決定」を行った旨の記述があります。

注7 旧商法32条2項に「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」と規定されていたので、何が「公正ナル会計慣行」が問題となったのです。なお、この問題については、上記注3の商事法務1845号26頁以下の岸田雅雄の判例批評を参照して下さい。

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