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右脳インタビュー 平野英治 メットライフ生命副会長・元日銀理事(国際関係担当)

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片岡:  今月のインタビューは平野英治さんです。本日は、地政学など、非金融経済的な要素の影響を中心にお話をお伺いしたいと思います。宜しくお願い致します。

平野:    ビジネスを取り巻く環境を見る場合、以前は経済外部の要因がある程度構造的に安定しており、例えば冷戦時代がそうですが、外部環境を所与として、その中で金融経済がどう動くかを考えていればよかった。しかし今は地政学など非金融経済学的な変動要素の方が寧ろ重要といってもよい状況になっており、そうした要素に目を向けないと企業戦略そのものが成り立ちません。その良い例が米国の大統領選挙です。これまでの大統領選挙は、どの候補者でも米国の市場主義を前提とした体制は変わらす、ある程度、政策の展開が読めましたし、誰がブレインになるかなども予想できました。しかし、今回はそれがわかりません。あれだけ無理なことを言うドナルド・トランプ候補。一方、ヒラリー・クリントン候補は勝ったとしても、とても不人気な大統領になりますし、各種スキャンダルを抱えています。つまり、どちらが勝っても、強い指導力は発揮できないでしょう。そうした大統領の下でどのような経済政策や外交が行われていくのか、読んでいかないといけない。日米同盟すらも所与のものだとは簡単に言い切れない時代になってくるかもしれないし、力の空白が生じれば、中国はどうするのか、ロシアはどうか…。更にヨーロッパではEUの混乱が続くでしょうし、テロのリスク等もあります。そもそも、トランプ候補があれだけの支持を集めるということ自体が不確実性の時代そのものです。

片岡:    今回のような選挙戦が展開されるような土壌ができていたこと自身が大きな問題ということですね。

平野:    例えば二極化が進むと妥協ができなくなります。対立構図でいえばエリート対反エリート等色々な軸がありますが、そもそもの自由主義、自由貿易、市場というものをベースにしたアメリカ、或いはアングロサクソンの価値観そのものが問われているのかもしれません。では、それに代わるものがあるのかというと、ない。まさにGゼロの時代ですね。しかしこれが現実だとすれば、その中でどうやって経営していくのかが大きな課題になります。わからないことが多い中にあっても、できる限り色々なところに目配りをし、先を読み込む努力をしていかないと経営は成り立たない。
さて、情報というのは、皆で共有すれば、もはやそれは情報ではなく、共通の知識になります。勿論、共通知識も重要ですが、それだけではなく、自らシナリオを解析するという力をもたないと、経営としてのバリューが出てきません。自分自身の頭、つまり独自に情報を収集・分析し、またシナリオを練る、それと同時に予想を超えることが起きても対応できる経営の弾力性をもつ…。そうした仕組みをどう作っていくのか、それが企業の将来性を決めていく時代です。言うだけなら簡単なのですが…。
さて、例えばGEですが、同社は毎年のように社の方針や戦略を変えています。彼らは変化の時代に合わせて、二つのことを考えていて、一つは、変化に対応するのではなく、自分が変化を起こしていく方がいいということです。もう一つは、会社のユニットをなるべく小さくして、選択と集中を柔軟に行える組織にすることです。この対極にあるのが日本の大企業で、例えば加工組立メーカを頂点とする鉄のピラミッドは物凄く強固な垂直統合の構造をもっています。このため選択と集中が非常に難しいという面がある。日本の組織の多くは環境が安定しているときは強いのですが、計算できない時代をどう乗り切っていくかという点になると不安が残ります。

片岡:    戦略を環境に合わせて柔軟に変えていくということで、従業員を鍛えることもできます。それは大きいですね。

平野:    2008年のリーマンショックを契機にGEはファイナンス部門を大幅に縮小しました。GEの出身者は個々人が自分の頭で考える訓練をつみ重ねてきているように感じます。これは組織の在り方として、すごく重要です。世界が大きく動いている場合は、個々人が、自分の判断で動く、自分の責任で情報を集めて、自分の頭で考える。勿論、会社の戦略にも合わせてないといけないのですが、現場は人が担っているのですから、人そのものを育て上げるということが合理的なのだと思います。そしてGE出身者に共通に言えるのは、情報に対して物凄く敏感なことです。普通は皆忙しいから、自分に関連している情報だけを拾うという傾向がありますが、それではバイアスがかかります。今は、どこがどう繋がっているかわからない時代ですから、幅広くアンテナを立てていないといけません。また今は公開情報だけでも、かなりのものが集まります。それを集めて分析し、自分の考える戦略に織り込んでいく…。そのためには、ある種のイマジネーションを含め総合的に物事を捉える力が試されます。
さて、金融の世界で最も情報に敏感な企業のひとつはGoldman Sachsでしょう。金融は情報が持った方が勝ちです。そのためにぎりぎりの勝負をしようとしているわけです。同社は各国政府の元高官や関係者をどんどん採用しています。中央銀行総裁経験者もいます。そうした人たちの考え方、見方は、ある意味で情報そのものよりもバリューがあるともいえます。様々な公開情報をベースに、優れたストーリーを組み立てることができるからです。またGoldman Sachsでは逆に、ECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁、BOE(イングランド銀行)のマーク・カーニー総裁、NY連銀(ニューヨーク連邦準備銀行)のウィリアム・ダドリー総裁のように自社の出身者が主要国の中央銀行総裁に就任するケースもあります。

片岡:    そうしたストーリーのベースには、在職中の経験や非公開情報などもあるからこそ、という部分もありますね。また逆に自社にいた人間が総裁になれば、彼らがどういうストーリーを作るかも予想しやすい。これは金融に限らず、技術でもそうですね。例えばインターネットは軍事技術からの派生ですが、技術やその方向性を見てきた特定の人には、まったく違うストーリーが見えているかもしれない…。そしてこうした技術が世界を変えた…。

平野:    例えば、googleもトヨタも自動運転技術を進めていて、競合していると同時に提携もしています。しかし、この二社は思想が大きく異なるように思います。トヨタは「車は人が運転するもので、その補助機能として自動運転機能があるのであって、まったく無人で動くのであれば、それはもはや車ではない」というスタンスです。一方、googleは完全な自動化を目指しています。それはいわゆる乗用車だけではなく、軍事技術が視野に入っているのかもしれません。或いは、小さいロボットを作って、人体に入れて…というような医療技術などの可能性も見ているのではないでしょうか。こうした視野の違いを見ると、どうしても、日本は大丈夫なのかと思ってしまいます。今、日本の産業の中で、世界的レベルで戦っている企業や産業は沢山ありますが、大きいところとなると自動車産業が代表格になります。しかし、その自動車産業においても、10年後、20年後の姿は分かりません。

片岡:    視野の違いも影響しているということでしょうか。さて、日銀では、非金融経済要因をどのように取り入れているのでしょうか?

平野:    私は、日銀ではずっと国内畑できた後、国際局長3年、理事(国際関係担当)を4年勤めました。国際局長になった当時、多くの日銀マンは、中国は重要な国だとは思っていましたが、決定的に重要だという認識まではあまりなかったように思います。あくまでも世界の主流は欧米にあり、ニューヨークやロンドンがエリートの居場所として認識されていました。私が「中国は日本にとって物凄く重要な国だからもっときちんと見なければならない」と思ったのは、日銀の中と違って、外部、例えば商社の人たち等と話していると、彼らの話の中では、中国に圧倒的な存在感があったからです。ですから日銀も、もう少しバランスをかえないといけないという思いで中国に駐在員事務所を作りましたし、また日中の円元スワップの責任者もやりました。勿論、自分自身でも年に4,5回は中国に行き、自分の目で見て、色々な人と話しました。新聞等の情報だけではバイアスがあり、実感も伴わず、想像力も湧きません。そして、勿論、中国を見るには、経済だけでなく、政治や外交などの非金融経済的な要素もしっかりと見ないといけません。そういったものを少しずつ深堀していきました。
しかし、組織全体としてみると、日銀のネットワークからあがってくる情報はどうしても金融経済が中心になります。それ以外のものに対する対応、例えば地政学的リスク等の非金融経済情報については、これを十分に活用できる体制はできていませんでした。

片岡:    平野さんは国際金融規制強化の動きに対して、『金融システムは、プレーヤー同士が信用のネットワークでつながる「相互依存性をもつシステム」であるところに特徴があり、いかに規制を強化し、個々の金融機関の自己責任原則を強化しようとも…システムの一角に生じた問題が、全体を巻き込みかねない危機に発展するリスクを、完全に排除することはできない。予測不能な危機に際して、最終的に頼りになるのは、「最後の貸手」としての中央銀行の果断かつ迅速な対応であると思うが、一連の国際金融規制、危機対応の議論には、こうした視点が決定的に欠けている』と毎日新聞「経済プレミア」でご指摘されていますが、地政学リスクへの対応も同じですね。

平野:    金融政策というと、どうしても、いわゆる金利の操作というようなイメージが強いのですが、日銀には大きくいうと二つの役割があります。通貨は、無制限に出回ると価値が落ちるから、量をコントロールして通貨の価値を守ることが必要です。それと同時に、通貨が、必要な時に必要なところに回るようになっていないと、通貨システムは機能しません。何かあったときには、中央銀行が、最後の貸し手として、頑張って通貨を供給してシステムを守ることも必要です。以上の両面を含めて通貨システムを守るということが、本来の中央銀行の役割であります。あえて言えば、マクロ経済政策の一環として金融政策に責任を持つ主体としての役割は、中央銀行の歴史の中では比較的新しいものです。さて、地政学的リスクについて言申し上げると、金融危機が発生すると、システムのどこかでお金が足りなくなってきます。そのままにしていると通貨システム全体が崩壊し社会が大混乱に陥るというときに、中央銀行は、必要なところにお金を供給してシステム全体の崩壊を防ぐという、最後の貸し手、ラストリゾートとしての機能を担っています。だから、どこで、どういうリスクが起こるかということについて、中央銀行は物凄く敏感でないといけない。私の頃は、必ずしも、地政学的リスクについて日銀に情報量が十分にあったとは言えません。今は、そうした取り組みも大きく前進し、各省庁や民間事業者とも、活発に情報交換しているのではないかと思います。

片岡:    最後にメットライフについてお伺いしたいと思います。例えば日本の生命保険会社は日本市場の中だけで競っていても、大きな展望が見られないとグローバル化を進める中で、メットライフは巨費を投じて日本市場に参入しました…。

平野:    元々メットライフは米国では総資産が最大の保険会社で、それだからこそかもしれませんが、海外に出るのが多少遅れた感があります。例えば、2010年のアリコ買収の前は、海外部門の売上比率は10%以下、アリコを買収し、海外部門の比率がやっと40%になった。つまりアリコを買収して初めて本格的にグローバル展開に乗り出したといっても過言ではありません。そのアリコの大半が日本でしたので、日本の売上は全体の20%近くになります。メットライフは、日本の保険市場に将来性を見ているからこそ、アリコを買収したということです。確かに少子高齢化で一般的な生命保険の市場規模は縮小傾向にあります。しかし、公的な社会保障制度に脆弱性を抱え、また、医療費が増える中、公的な保険制度でカバーできる部分は限られてくるなかで、個人年金保険や医療保険、或いは外貨建て保険などに成長可能性があると感じます。メットライフが面白いのはグローバル・スタンダードを意識しながら日本でビジネスを展開したいという思いが非常に強いことです。したがって、摩擦もあります。しかし、その志の高さに、私は共感を覚えます。旧来の日本のままの会社だったら、面白くないし、これまでのビジネスのやり方をただただ踏襲するだけでは、将来は見えてこないと思います。その意味で、メットライフが日本を変えるリード役になれればいいという思いもあります。
尤も、メットライフは、グローバル展開という意味では日本の生保と比べると一日の長がありますが、メットライフが真の意味でのグローバルカンパニーになるためには、課題も少なくありません。私は日銀をやめた後、トヨタグループに奉職しました。トヨタは良くも悪くも日本的な企業でしたが、ここ30年余りの間急速に海外展開を行ってきました。そのトヨタと比較すると、今のメットライフは、トヨタが本格的に海外展開を始めた90年代を髣髴させます。尤も、今は、時の変化が早いので、あと5~6年もすれば、メットライフはグローバルカンパニーとしての姿が整ってくるのではないでしょうか。
では、メットライフはどこで競争するかというと、今の金融経済環境下では運用で大きな差をつけることができません。ではどうするのかというと、その一つの答えは非価格競争力、つまりお客様の満足につながるようなサービス対応に磨きをかけながら、差別化を図ることです。もう一つは、効率性を、徹底的に追及し、コストを下げることです。不確実なビジネス環境に対応するためには、経営の弾力性を持つことが重要ですが、そのためにも無駄を省き、身を引き締めることが必要です。そして、そのためには、不断に業務のプロセスやITのあり方を見直すことが重要になってきます。メットライフは、今、都内にある7か所の拠点を2か所に集約するとともに、あわせてオペレーションのプロセスも見直しています。こうしたことを行うのは、不透明な時代を生き抜くための必要条件ではないかと思っています。

片岡:    貴重なお話を有難うございました。 ~完~

 

(取材日:2016年11月8日)

 

 

聞き手   片岡秀太郎 プラットフォーム株式会社 代表取締役

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