右脳インタビュー 福本出 国家安全保障局顧問、元海上自衛隊幹部学校長 石川製作所取締役東京研究所所長
片岡: 今月のインタビューは福本出さんです。本日は「南の海」についてお伺いしたいと思います。宜しくお願い申し上げます。
福本: まず、海洋戦略には、海上交通の確保、海洋資源の利用といった経済戦略、海洋の安全保障戦略があり、その小さな一つとして海軍戦略があります。2010年の戴秉国・国務委員の論文によると、中国の核心的利益は、①共産党による指導 ②中国の主権安全、領土保全、国家統一 ③中国経済社会の持続可能な発展を上げています。主権安全、領土保全、国家統一の一丁目一番地は台湾、そしてチベット、ウィグルですが、そこに尖閣なども入ってきました。以前は、国境の内側の領土のことを言っていたのですが、今は海洋国土という理念を打ち出し、経済社会の発達のための海洋権益を主張しています。中国はすでに石油輸入国になっていますし、海上交通路が中国にとっての生命線となっています。「中国が意識する9つの出口」というのがあり、そのうち6つが日本列島と絡んでいます。また中東ヨーロッパからのルートに中国は「真珠の首飾り」と呼び、バングラディッシュやスリランカ、アフリカの東海岸などの港に大規模な投資をし、港湾開発をしたり、軍の病院船を送って医療支援を行ったりして、足掛かりを作っています。
さて、海には、歴史的にだんだんと決まってきた法律があります。昔は、船から大砲が届く範囲として領海は3マイルに設定され、その外は公海でしたが、今では領海は12マイルとなり、その外側に接続水域、排他的経済水域(EEZ)が設けられ、更に大陸棚が自然と延長しているときにはそこでの海底資源の権益も認められるようになってきています。一方、飛行機は発明されてからまだ100年ほどですので、空の世界では、海 ほど国際法が発達しておらず、12マイルの領空とその外の公空だけで、現時点ではこれが世界的に認められた国際法となっています。
そうした中、中国は、排他的経済水域を超えて大陸棚までもが、海洋国土という国家管轄海域で、その外側が国際公共海域、公海だという理念を打ち出しています(2010年10月5日の中 国の解放軍報)。
そして、中国は海だけでなく、空も同じように考えているというのは彼らの対応を見れば明らかです。一昨年、中国が尖閣上空を含めた防空識別圏(Air Defense Identification Zone: ADIZ)を突如宣言し、新聞等で大騒ぎになりました。ジェット戦闘機は極めてスピードが速く、領空に入ってから対処していてはとても自国の防衛になりません。そこで防空識別圏という概念ができてきましたが、これは国際法上も確立している排他的経済水域などとは異なり、各国が勝手に作っているという性格のものです。本来、ADIZは単に敵か味方か、安全なのか…、アドバンスをもってチェックするというだけのもので、相手国の上まで張り出していることもあり、中国が防空識別圏を設定し、それが「日本のADIZ等に重なっているから問題だ」というのは的外れです。いままで日本の周りのADIZは周辺国のそれと全く重ならず、きれいに棲み分けがされていましたが、これは当然のことで、第二次世界大戦後、各国に進駐した在韓、在日、在台湾米軍が線引きしたものを、それぞれの国が独立して引き継いだもので、もともと重なるわけがありません。では今回のADIZの宣言の何が問題だったかというと、諸外国のADIZにはない二つの特異点がありました。中国のADIZを通る飛行機は、軍用機、政府公用機、民間機にかかわらず、事前に通告するように求めたこと、事前に通告しない飛行機、怪しい動きをする飛行機については中国軍が防御的必要な措置をとると書いてあることです。まるで自分のテリトリーで、管轄権、法律、国内法が及ぶがごとき主張です。たまたま中国の軍関係者と話す機会があり、説明をもとめると「実際にやっていることを見てください。そう書いてあるけど、何も強制的なことはやっていません」といったことしか言いません。しかし、そう書いてある以上、疑いは消えません