急転・切迫するアメリカ不法移民問題
アメリカ最近の世論調査:「あなたはすでにアメリカに居住している不法滞在者にアメリカ市民としての法的地位を与えることに賛成ですか、反対ですか。」
賛成: 59%
反対: 39%
分からない: 2%
Source May 7-11 2010, A P-GfKPoll.
包括的な移民法改革への意欲を喪失しかけていたオバマ大統領だが、この2-3日の間の急変に、中間選挙後の来年度延ばしという悠長な構えでは間に合わなくなってきた。不法移民に厳しいアリゾナ州不法移民対策法(SB1070)の施行(7月29日)の前日、7月28日に、連邦地裁は条文の大部分を差し止める仮処分命令を下した。
これに対して、アリゾナ州政府(州知事ブリューワー氏)は29日、仮処分命令に対する不服申し立てを連邦控訴裁判所(高裁)へ提出した。州法が復活する可能性もある。かくして、不法移民問題は、違憲審査という連邦レベルの大きな課題として急浮上してきた。
アメリカ経済の回復に伴わない雇用改善に、いらだちを強めている国民は、不法移民へ厳しく対応するようになっている。これは最近のイギリスなどにも見られる変化だ。アリゾナ州の新法に賛意を表する国民や他州民は多い。いくつかの世論調査が示すように、国論はほぼ二分している。アリゾナ州法に近い州法制定を考えている州は18州に上るといわれる。ブリューワー・アリゾナ州知事の人気は急上昇している。
他方、ヒスパニック系を重要な票田と考えるオバマ陣営、そして野党である共和党も同様に、急転、移民問題を重視し始めている。アリゾナ州新法に強い反対の意を表明したオバマ大統領としては、ブッシュ政権以来の「包括的移民改革」の路線を基本的に踏襲する以外に道はないが、高まる反移民という動きにいかに応えて行くか。医療保険改革に劣らない、アメリカ社会の仕組みを大きく変える可能性を秘めた問題だ。
医療保険改革の議論の折に、オバマ大統領が大統領選に敗れたマケイン上院議員に「選挙は終わった」と宣告した折のマケイン氏(アリゾナ州)の表情が印象的だった。二人の間に超党派の協力が生まれる可能性は少ない。マケイン議員は移民法改革への熱意を失ったのか、すでにかつての改革案を提起することをやめてしまっている。故ケネディ上院議員亡き後、与野党が連携し、超党派で法案をまとめ上げるだけの政治力を持った議員は少ない。オバマ大統領はアリゾナ州の問題を軽く考えすぎた。移民問題はアメリカの政治・社会を大きく揺り動かす可能性を秘めている。この2-3ヶ月の議会の動きから目を離せない。