マイナス金利
苦渋の決断だったと思います。
一国の金融システムには、民間金融機関の盤石な財務体質、収益基盤が不可欠。
民間金融機関が日銀に預けていた当座預金で、これまでプラス0.1%の金利がついていた部分に仮にマイナス0.1%の金利を課すとすると、242兆円×0.2%=約4,800億円の収益悪化につながってしまいます。
当然そんなことは出来ないということで、日銀は、当座預金残高を、
①「基礎残高(金融機関が日銀に預けていた2015年1~12月の当座預金平均残高)」
②「マクロ加算残高」
③「政策金利残高」
の3つの階層に分類しました。
そしてマイナス金利が適用される残高を「政策金利残高」のみとしました(『こちら』 および 『こちら』)。
つまり上記の例ですと、民間金融機関は、約4,800億円の収益悪化は回避でき、従来通り約2400億円の収益を享受できることになります。
これでは日銀に「ブタ積み」された200兆を超える膨大な額の(民間金融機関が持つ)当座預金残高が現状より減ることはなく、したがって市中に出回ることはないではないか、と危惧される方も多いと思います。
民間金融機関としては、財務省が発行した国債を日銀に転売して儲け、さらにその「代わり金」(販売して得たお金)を日銀に預けておけば、そのまま金利がついて儲かるからです(少なくとも昨年の平均残高部分までは)。
なぜ市中にお金が出回ること(=景気活性化)を犠牲にしてまで、民間金融機関に「杖」を差し出すようなことを続けるのかというと、日銀としては、民間金融機関の体力にも配慮せざるをえないからです。
冒頭述べた通り、一国の金融システムには民間金融機関の盤石な財務体質、収益基盤が不可欠です。
そして住友商事がシェールオイルで2700億円の損失を被り、ニッケルでも770億円もの減損計上を余儀なくされるという、最近の資源安は、海外で積極的に資源開発に融資してきた民間金融機関の体力を奪ってきた(下記参照)・・・。
つまり民間金融機関は日銀からのある種の支え、「杖」を必要としている状況にあり、日銀としてはこの杖を取り払ってまでして、「さぁ、利息を差し上げるのではなくて、逆に利息を徴求します、だから市中に貸し出してください」と言うことは出来なかったというわけです。
背景をもう少しご説明します。
邦銀は、2015年上半期には海外投融資残高が英国を超え世界首位に浮上するなど、海外融資を積極化させてきました。
ただ実際には「欧米の金融機関が新興国から手を引きはじめ、日本が首位に押し出された面が強い」といえます(昨年12月28日、日経新聞記事の解説文言、『こちら』)。
全銀協会長は、すでに昨年5月21日の段階で、「原油価格の下落によってエネルギー関連企業の一部では影響を受けているところもあるし(中略)、プロジェクトファイナンスと言われる資源開発の分野では、非常に高いレベルでの原油価格において採算が成り立つことを前提としているようなビジネスやプロジェクトがある」と発言(『こちら』)。
昨年5月というと原油価格がまだ65ドルを超えていた時の発言です。
昨年11月5日には、米連邦準備理事会(FRB)のタルーロ理事(金融規制担当)が講演で「(邦銀を含む)外国銀行のドルの運用と調達のミスマッチが米国市場のリスクだ」と問題提起しています(昨年12月28日、日経)。
また金融庁は昨年秋、メガバンクの審査担当部署に対し、資源安などが投融資に与える影響について緊急調査を始めたとも報じられています(昨年12月28日、日経)。
日銀としては金融機関の状況にも十二分にも目を配りつつ、マイナス金利に向けて足を一歩踏み出したということでしょうか・・。
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なお今回の記事内容とは別の話ですが、会社四季報オンライに連載中の「近未来を見据えた投資術」の第12回が昨日掲載されました。
宜しかったらご覧になってみてください。『こちら』 です。
(Hidetoshi Iwasaki’s Blog)