Home»連 載»法考古学と税考古学の広場»第61回 国際法務その27: 国防法その1:ココムおよびワッセナー・アレンジメント

第61回 国際法務その27: 国防法その1:ココムおよびワッセナー・アレンジメント

0
Shares
Pinterest Google+

この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は、「国際法」ではなく、すべて「国内法としての日本法」です。ときには「国際なになに法」(たとえば「国際刑法」)という呼び方をすることがあっても、それはあくまでも「国内法としての日本法」の「国際的側面」を意味することに注意して下さい(第35回参照)。この意味での「日本法」を下記の14種類(分野)に分類した上で、これまで第8番目の「訴訟法(仲裁法)」までを検討してきました。

日本法の種類(分野) 英語訳 英語の略称
1.独占禁止法(公正取引委員会) Antitrust Law (Fair Trade Commission) FTC エフ・テー・シー
2.外国為替法 Foreign Exchange Law F エフ
3.税法 Tax Law  T テー
4.会社法 Corporation Law C シー
5.労働法 Labor Law L エル
6.証券法 Securities Law S エス
7.保険法 Insurance Law I アイ
8.訴訟法(仲裁法) Litigation (Arbitration) LL エル・エル
9.国防法 National Security SS エス・エス
10.移民法(貿易法) Immigration Law (Import/Export Law)  II アイ・アイ
11.知的財産法 Intellectual Property Law P パ
12.環境法 Environmental Law E アー
13.業法(規制法) Regulated Business Law R アー
14.消費者法 Consumer Protection Law C ク

今回(第61回)から3回にわたって取り上げるのが、第9番目の「国防法」です。主な問題として、つぎの3つがあります。第1は、かつてのココム、現在のワッセナー・アレンジメントに基づく立法である「日本の安全保障貿易管理法」、第2は、米国のエクソン・フロリオ条項を真似た「和製エクソン・フロリオ条項」、第3は、米国企業との契約でよく見られる輸出禁止条項に基づく「日本企業の契約違反責任」です。今回は、第1の「日本の安全保障貿易管理法」を取り上げます。ココム(COCOM)とは「対共産圏輸出統制委員会(Coordinating Committee for Multilateral Export Controls)」の略称で、各国の輸出が共産主義諸国の軍事能力の強化に繋がることを防止し、米国がソ連に対して軍事的優位を保つために設立され、1950年(昭和25年)1月から活動を開始し、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国ならびに日本およびオーストラリアが参加していました。しかし、ソ連が崩壊し、冷戦が終結すると、存在意義が薄れたため、1994年(平成6年)3月に解散しました(注1)。この間に起きたのが、1987年(昭和62年)の東芝機械ココム違反事件です。刑事問題としては、当時の「外国為替及び外国貿易管理法(注2)」違反事件でしたが、同社が共産圏へ輸出した工作機械によりソ連の潜水艦技術が進歩し米国に潜在的な危険を与えたとして日米間の政治問題にまで発展し、同社の親会社であった東芝の会長および社長が引責辞職した事件です(注3)。ココムは解散しましたが、兵器輸出規制の必要(とくに紛争地域への兵器輸出規制の必要)はある、ということで、1995年 (平成7年)12月に、旧ココム加盟国のほかにロシアおよび東欧諸国なども加わって、オランダのワッセナーにおいて、ワッセナー・アレンジメント(the Wassenaar Arrangement(注4))が成立しています。

脚注

注1

ウイキペディアの「ココム」を参照。

注2

現在の法律名は「外国為替及び外国貿易法」で、1998年(平成10年)4月1日に「管理」という語句が削除されました。

注3

ウイキペディアの「東芝機械ココム違反事件」を参照。

注4

「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」外務省サイトhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/wa/index.html (最終検索:2011年8月22日)

Previous post

潮の目変わるか、移民の流れ

Next post

右脳インタビュー 望月晴文