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遅すぎたオバマ移民制度改革の今後

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壊れてしまった移民システム
東日本大震災の後、さまざまなことが去来して、ひとつのことに集中できる時間が減ってしまった。意欲はあっても身体がついてこない。

ブログからも離れる時が来ていると感じていたが、最初から柱の一本としてきた移民(外国人)問題のフォローだけは定点観測の意味で、簡単でもメモ代わりに記しておきたいと思っていた。皮肉な結果とでもいいようがないが、今回の大震災で日本は移民も来ない国になってしまった。

 

エルパソ演説
CBSなどのアメリカのメディアが伝えるところによると、5月10日オバマ大統領は、ニューメキシコ州エルパソで移民法改革について大統領就任以来、ほとんど初めてその構想を語り、実現には超党派の協力が必要なことを述べた。このブログでも再三記してきたが、あまりにも遅すぎたとの感をぬぐいきれない。福島原発の例を持ち出すまでもなく、大規模な社会システムが壊れた場合、最悪の事態を予想して迅速に対応しないと、波及的に破損が進み、手がつけられなくなる。大統領自ら認める通り、有効な改革に後れをとったアメリカの移民システムは、決定的に壊れてしまっている。
President Obama Fixing Immigration Reform New Policy El Paso Texas

https://www.youtube.com/feature=player_embedded

 

ブッシュ大統領が、政権末期でなんとか人気挽回をねらって試みた「包括的移民法改革」 は、結局実現できず失敗に終わった。この段階で、オバマ大統領が移民改革を持ち出したのは、来年の大統領選に向けて、移民制度改革をひとつの争点とし、大票田のヒスパニック系などの支持をなんとかつなぎとめたいという考えがあるようだ。

大統領選の過程では、移民制度改革を大きな政治課題として早急な取り組みを約していたオバマ大統領だが、当選後はほとんどさしたる対応がなされることなく放置されてきた。当然、事態は改善されず放置されている。

腐敗・犯罪増加が目立つメキシコ
他方、最大の問題の焦点であるメキシコとの関係についてみると、メキシコ国内の麻薬、銃火器などをめぐる犯罪・腐敗は急速に悪化し、無法状態といわれるまでになった。たとえば、今回大統領演説が行われたエルパソと国境を介在して位置するメキシコ側の都市シウダ・パレスは、腐敗と暴力が蔓延して手がつけられないとまでいわれる。

エルパソでの演説内容は、ブッシュ政権当時から議論されてきた「包括的移民政策」の内容とほとんど変わることがなかった。演説の柱は、国境管理を厳しく行い、すでに国内にいる不法滞在者は、犯罪歴、英語能力その他を条件に、厳しい査定を経て順次アメリカ市民へ組み入れる、そして優れた能力を持つ移民は積極的に受け入れるという内容だ。演説収録を見てみたが、これまでの流れの繰り返しで新味はなかった。

具体性を欠くオバマ演説
コメントした公共ラジオ局フロンテラスのH.ローゼンベルグ氏によると、国境管理の実態、移民法政策としても具体性を欠き、不満足なものだという。国境管理については、適切にコントロールされているのは、およそ3000キロメートルのうち、わずかに120キロ程度にすぎないとまでいわれる。ナポリターノ国土安全保障長官は、移民受け入れは家族受け入れを含めて秩序を維持しており、国境管理も改善していると豪語しているのだが。

また、ミッシェル・マリスコ氏によると、2005年、1996年不法滞在者の強制送還は増加しているが、国境での逮捕者数は減少している。入国に必要な書類を持たない不法入国者も減少しているようだ。しかし、それが事実としても、こうした変化を生んでいる背後の原因として、不況がもたらしたものか、移民管理システムが機能しているためか、はっきりしないという。国内における不法滞在者数についても、一時1200万人といわれていた数字が1100万人(2010年)に減少しているが、ひとつの研究所の推定に過ぎないという。政府側には信頼しうるデータベースはない。ある推定では2000万人ともいわれる。

中間選挙で上下院ともに大幅に議席を失っている民主党としては、大きな支持基盤となっているヒスパニック系(5050万人、人口の16%)が求める移民制度改革は避けて通れない重要課題だ。

目的はヒスパニック票田の確保
移民制度改革には共和党の協力をとりつけなければ、実現は期待できない。しかし、民主党を含め、移民の増加について慎重論が強まっており、オバマ大統領が目指す移民改革はきわめて困難と見られる。

本年5月にホワイトハウスは今後の移民政策に関するひとつの報告書*をまとめたが、内容に新味はない。柱となっているのは次の4点である:

1.国境を守る連邦政府の責任

2.法を破り、アメリカ人労働者の雇用基盤を脅かし、入国審査に必要な書類を保持しない労働者を搾取するビジネスを取り締まる

3.アメリカが目指す価値と多様化したニーズにこたえうる、合法的移民を受け入れるシステムを創り、國際競争力を強化する

4.不法にアメリカ国内に居住する人々が合法資格を与えられるまでに果たすべき義務と責任

この報告書のより詳細な評価については、別の機会に待ちたいが、最も対応が困難と考えられるのは、このブログでかなり細部まで立ち入っているように、すでにアメリカに居住する不法滞在者に対する具体的次元での政策対応である。膨大な数の不法在留者をいかなる基準で選別すべきか。その道は遠いが、ブッシュ大統領の再選を占う最重要課題のひとつだ。

 

*Building a 21st Century Immigration System, May 2011.

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