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アジアの銀行は、急速にIT装備を強化

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 ICT(Information and Communication Technology)の進歩の度合は、近年一段と加速化しており、金融業務もこれを取り入れるかたちで、急速に変容を遂げている。
米国では、インターネット上で資金の借り手と投資家を直接結び付けるかたちの金融業務(peer to peer lending)が急速に発展している(“Lending Club”がその典型で、2014年12月にニューヨーク証券取引所に上場し9億ドルを調達、2015年3月には中国のインターネット通販大手のアリババと、同5月にはGoogleと業務提携)ほか、暗号通貨Bitcoinを送金・決済手段として本格的に取込む動き(米国大手投資銀行Goldman Sachsも資本投入)も見られる。
こうした傾向は、アジアにおいても同様に窺われており、それらのうち特徴的な動きを、先般香港で開催された“Asian Banker Summit 2015”(2015年4月14日~16日、Asian Banker誌の主催で、毎年東南アジアの主要都市で持ち回り開催。民間ベースの会議ながら、開催地の金融監督当局、中央銀行のトップも参加。本年は香港通貨庁のChan長官が基調講演を行った)の発表のなかから、以下に紹介する。

  1. モバイルバンキングの時代到来

  2. モバイルバンキングとは、電話・高性能パソコン・カメラを一体化したスマートフォンを中核として展開される金融業務で、何時でも何処でもインターネットにアクセスできる点で、デスクトップパソコンあるいはラップトップパソコンをベースとしたインターネットバンキングと比べて優位性があり、消費者満足度が高い。
    資金決済手段としても、現金、小切手、クレジット(デビット)カードがさらに進化したものと位置付けられる。
    これは音楽媒体が、ビニール製のレコードディスクからカセットテープ、CDと進化して、インターネット利用のライブ・ストリーミングに到達したことと同様に考えられている。

  3. モバイルペイメントの取引額が、2009年に250億ドルであったのが、2014年には3,525億ドルとなり、3年後の2017年には7,210億ドルに倍増する見込みと報告された。モバイルバンキングは、世界的にブームを呈しているといえよう。

  4. 近年(2011年から2014年まで)のモバイルバンキングの成長度合をみると、北米(米国・カナダ)が2.7倍、日本・韓国・台湾は3.2倍であるのに対し、東南アジア(アセアン諸国)は5.2倍と急速に伸長。今後も、東南アジアでの大幅な成長・発展が見込まれる。

    1. Asian Banker Summit参加を機に訪問したインドネシア・香港・フィリピンの大手銀行でも、モバイルバンキングに熱心に取り組んでいる。

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      マンディリ銀行(インドネシア最大の銀行、総資産8.5兆円[2014年末])

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      インドネシアは現金社会なので、モバイルバンキングの利用者は現時点では多くないが、若年層へのスマホの普及を考慮すると、今後は積極的に取り組む方針。

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      既にどのメーカーのモバイル端末でも対応可能な送金システム“Mandiri e-cash”を開発済みで、今後さらに機能を充実していく。

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      東亜銀行(香港最大の地場銀行、総資産12兆円[2014年末])

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      モバイルフォンを決済手段媒体として活用することに意欲的で、NFC(非接触の近距離無線通信)とクレジットカードを組み合わせた“BEA i-Pay”(BEA: Bank of East Asia)をスタートさせた。

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      今後は、ATMと“BEA i-Pay”とを融合させた、より便利な仕組みを展開する予定。

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      リテール顧客に、e-bankingに親しんで貰うため、店舗内の壁面・テーブルに、パソコン機能を組み込んだパネル(i-Windowと呼ぶ)を備えた営業店を増やしていく方針。

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      メトロ銀行(フィリピン第2位の銀行、総資産4.3兆円[2014年末])

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      モバイルバンキングは、Android端末を対象に実施しているが、SNSを利用した決済システムは、中央銀行がセキュリティ確保の見地から規制しており未対応。

  5. 暗号通貨(Bitcoin)の送金業務への応用

  6. 暗号通貨(Bitcoinはその一種)は、取引記録を公開鍵、秘密鍵により暗号化して、連鎖的にインターネット上で伝送する方法により、迅速に価値移転を行う仕組み(Blockchain)で多数の当事者が関与・確認することで、偽造・二重取引を排除している。
    資産価値の存在および移転を認証する中央機関に依存しない分権的管理メカニズムが特徴(peer to peer取引)。
    通貨も符号化された資産として取扱う。

  7. 日本では、Bitcoin交換所の一つであるマウント・ゴックス社が2014年2月に破綻したことから、Bitcoinに対する信認が喪失したが、これは同社の不適切な管理に起因するもので、Bitcoinの仕組み自体に問題があった訳ではない。

  8. 米国他では、迅速・安全・低コストな決済手段としてBitcoinの信用は高まってきており、電子決済大手のペイパル、PCメーカーのデルなどの米国大手企業も、Bitcoinを決済手段として採用。投資銀行ゴールドマンサックスも、Bitcoin関連のスタートアップ企業(Circle Internet Financial)に50百万ドルを投資。
    日本企業も楽天、リクルート、NTTドコモがBitcoin関連企業に出資。

    1. Asian Banker Summitでは、フィリピンのBitcoinベンチャーである“Coins.ph”社が、フィリピン・タイで出稼ぎ労働者の家族への送金手段としてBitcoinを提供している旨発表。

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      フィリピンでは、10百万人の海外出稼ぎ労働者が年間250億ドル(約3兆円)を本国送金しているが、フィリピン人の73%は銀行口座を持っていないため、送金業者を使わざるを得ず、平均8%の送金手数料を負担しているとのこと。Bitcoinを利用すると簡単に専用の受取口座を開設でき、送金手数料も1%と安価。

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      Bitcoinの送金メカニズムに使われているBlockchainは、通貨に限らず、有価証券、不動産権利証書等の移転にも利用可能であり、今後発展の可能性は大。

  9. ITを活用した迅速な銀行展開

    1. バラティヤ マニラ銀行(ニューデリーに本店をおく新設銀行)

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      インドでは、金融サービスを必要とする女性が多数(約6億人)いるにもかかわらず、銀行口座を持っている人の割合は約3割に止まっており、こうした状況を打破するため、女性をターゲットに絞った女性による銀行が必要との認識で開設された。

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      女性が手軽に安い手数料で、金融サービスを早急に利用できるようにするため、ITを最大限活用するかたちで、必要な機能を具備した簡易な仕組みで設立。OEMやASPを活用することでコンピュータ資源も極力所有しないこととし、免許取得後、55日で営業を開始。

    2. 北京銀行(北京に本店をおく中規模銀行)

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      金利規制の緩和および顧客需要の多様化を踏まえ、ITを最大限活用することにより、徹底した顧客サービスの提供を目指す。

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      インターアクティヴな市場情報機器、複合機能を備えたATM、パソコン端末等を多数装備した支店を構築。この結果、銀行カードの申込件数、資産運用サービスの契約件数が急増。

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      同行は“未来銀行”を標榜しており、“ITが銀行の未来を変え、顧客が銀行の運命を決める”をモットーにしている。

以上

 

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