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成長戦略を活かす「リスク・マネジメントと保険の手配」(その7) 海外で活躍する日本企業役員・従業員の安全対策 森島知文

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 国内需要の飽和から海外に活路を見出さざるを得ない日本企業、更にその展開先は米国等の先進国から新興国へと進展している。そこで注意を要するのが、当該地域に派遣される役員/従業員(家族を含む)の健康管理や安全管理であろう。滞在先の政治や宗教または習慣の違いから予想もしないさまざまなリスクによる事故やリスクに対する備えとして下記のような危機管理対策システムの構築が必需であろう。

1. 健康管理
新興国地域においては、日本では馴染みのないエボラ出血熱、デング熱、マラリア、狂犬病といったとても恐ろしい感染症の危険性がある。汚染された水や食品によって感染する腸チフスやコレラ、赤痢、肝炎や寄生虫もあり、様々な細菌性中毒の発生率も高く、更には、鳥インフルエンザによるパンデミック発生源の危険性もある。2002年に発生した中国での鳥インフルエンザ「SARS」事件の折、当時中国に進出している主な企業(約60社)にアンケート調査をしたところ、殆どの企業でとられていた対策が「マスクを送る」程度だったことを思い出すと、現在ではどのように進展した対策を講じているだろうか・・。
一般的には、「海外旅行傷害保険(上図の上の円)」への加入がある。最近はカード会社のサービス機能にこの旅行傷害保険が付帯されていることから、それで十分と考えている企業や従業員も多いのではなかろうか・・。しかし乍ら、当該付帯保険には「傷害/疾病にかかる医療実費の限度額が低い(限度額100万円or200万円」ところに盲点があるのをご存じだろうか? 筆者が20年前米国駐在員時代、テネシー州に駐在していた従業員が脳疾患を患い、医師が付き添ってLAの手術可能な病院へ緊急移送されてきたとき、入院手続の際に「入院医療費に関する最低保証額$5万」を求められ唖然としたが、(医療費 実費限度額1,000万円に加入の)海外旅行傷害保険の保険証書を見せて事なきをえた実体験からも言えることである。新興国においては、医療事情が悪く当地での治療が不十分なためかなり離れた先進国の病院への搬送が必要になるケースも多々あることに備えること、先進国においては高額医療に対応できるだけの限度額(出来れば無制限)への加入が必要であることを考え合わせると、カード付帯サービス保険だけで十分とはいえないのではなかろうか・・?
また、海外駐在員にも適用される労基法施行規則の見直しがなされ、施行規則3条部別表1-2に「精神疾患」「過重負荷による脳・心臓疾患」は業務上の疾病と追加された。海外では、激務と慢性的な緊張によって精神疲労、身体疲労、神経疲労が重なってくるが、高いモチベーションによって、その疲労が隠されてしまうため、海外で多い突然死は、企業の過失と見做されないことにも要注意であろう。

2. 安全管理
2013年1月16日アルジェリア・イナメナスの天然ガス精製プラントが 、アルカイダ系の武装勢力「イスラム聖戦士血盟団」に襲撃され、化学プラントの建造に実績のある日本のN社も参加していてことから、イギリス人、アルジェリア人、アメリカ人、フランス人に加えて日本人10人が人質として拘束後に亡くなった。犠牲になった日本人は全員がN社関係の幹部・協力会社・派遣社員であった。N社は1969年からアルジェリアでプラント建設を行っており、アルジェリアで数々のプロジェクトを成功させてきたことで、現地での信頼も厚く、危機管理でも日本企業としては最も優れていたともいわれるN社でさえ、このような悲惨な状況となったことにショックを禁じ得なかった。
また、直近ではフリージャーナリストのG氏がイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)による人質事件で、一時英国の危機管理コンサルタント会社が関与していたようだが、政府が全面的に開放交渉を模索するようになったが、最終的には最悪の結果となってしまったことは記憶に新しいところであろう。
日本企業の海外駐在員の誘拐事件は、1978年にエルサルバドルで日本企業の合弁会社社長が誘拐・殺害されて以来、 日本企業の海外駐在員の誘拐事件や不当拘束事件は後を絶たず、今まさに大きな脅威となってきている。

【身代金目的誘拐の世界的傾向】
・世界中で誘拐被害者の救出は極めて難しくなってきている。
・戦闘/貧困/貧富の差の激しい地域、汚職が進んでいる地域で多発。
・誘拐される人は、富裕層や世帯主とは限らない。政府高官/プロジェクト従事
者/人道支援活動家/ビジネスマン/旅行者も誘拐の被害者に含まれる。
・被害者の多くは数カ月以内で身代金が支払われた後、身体的被害を受けずに解放されている。
・多額の身代金が短期間で支払われた場合、被害者の家族/企業が将来また誘拐の標的にされる危険性がある。
・誘拐の85%が、朝の公道で起きている。
・誘拐事件のほとんどは計画的である。
・多くの誘拐事件は基本的なセキュリティ対策で防げる。
・身代金目的誘拐予防訓練を受けた人は被害に遭っていない。
(出典:株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツ)

 このように誘拐事件やテロ事件が発生する度に、必ず企業の関係者の間から聞こえてくるのは、「あれは、××社特有の問題があったから狙われたのだ」、「あれは、○○個人に問題があって、狙われたのだ」という声。しかし、過去には犯行組織から押収された資料に複数の日本企業の名前が挙がっていたケースもあり、一概にその企業や個人特有の問題として片づけてしまうことはできないのではなかろうか? 「わが社だけは大丈夫」、「わが社には無関係な問題である」、「まさか自分が」という認識こそが大きな危険を招くといえるのではないだろうか? 特に、日本人/日本企業は事故や事件が起こった時には「何かしなければ」と防災意識が高まるのだが「のど元過ぎれば熱さ忘れる」の特性か、しばらくして沈着すると「もう大丈夫」と結局何もしていなかったケースが多い傾向にて、どの企業も狙われる危険性が常に存在するということを認識した上で、海外安全対策/危機管理体制の整備に取り組む必要があると考えるのだが・・・、実際は自助努力によって実践的な対策を講じるのは現実としてはなかなか難しく、たとえば、次のような立場や状況に置かれている担当者も多いのではないだろうか?

(1)人事の仕事の片手間で海外危機管理の担当をしているが、何をすればよいのか・・・
(2)気にはなっているが時間がとれず、ついつい何もしていない・・・
(3)ほこりをかぶった危機管理マニュアルがあるにはあるが・・・

このような状況のもとで事件が発生した場合に、効果的な事件への対応ができず、直接的・間接的な損害の発生を増加させてしまうことにもなりかねない。その時に効果を発揮するのが「海外特殊危険保険(上図右下の半円)」である。この保険の最大の特徴は、「世界トップレベルの危機管理コンサルタント会社」と保険会社が提携しており、保険契約者に事件発生の報告を受けると24時間/48時間以内に当該危機管理コンサルタントが出動し、適切な対応のアドバイスを行う」ところにある。

当該保険のトリガー(補償対象となる事故:①身代金誘拐、②身辺脅迫、③不当拘束、 ④ハイジャック/カージャック等、⑤対物脅迫)に保険契約者の役員/従業員が遭遇した時の補償内容は下記の13項目である。

1 身代金または強要金
2 運搬中の身代金・強要金の破損、紛失または盗取
3 情報提供者への懸賞金
4 コンサルタント費用
5 事故解決の付帯費用
6 借入金の金利部分
7 リハビリテーション費用
8 通訳の費用
9 リコール費用
10 休業にかかる費用
11 事故拡大防止・軽減費用
12 補償対象者の給与
13 訴訟の費用

 その中で、補償項目4にあるコンサルタントの活用事例をトリガー (補償対象となる事件)毎に下記紹介してみよう。

A保険会社の保険商品案内より抜粋

この保険は日本企業の役員/従業員が海外の危険な地域でも活動せざるを得ない状況に鑑み認可されたものであることと、当該保険の付保が明るみに出ると犯人のターゲットになりやすいことから、通常の保険と違って次のような二つの注意点がある事には留意してほしい。
① 日本国内は免責(あくまでも海外に限定)。
② 契約者の企業に厳しい守秘義務が課せられている。



 G氏事件の折のIS国の発言以来日本企業/日本人も欧米企業/欧米人と同等にテロや誘拐事件の対象となってしまったことに加えて、左図の通り日本企業/日本人が活動地域としてフォーカスしているアジアでの危険性が増大していることを踏まえ、海外に赴任する駐在員や出張者にはしっかりとした事前教育と自覚を促しておくことは勿論であるが、会社としても企業としての注意義務を怠ると、結果として役員/従業員個人及び会社全体に厳しい結果がもたらされ、法的訴訟や会社の評判にもダメージを与え、最終的には企業の利益にも影響することになることを踏まえ、「海外旅行傷害保険や海外特殊危険保険」を含め24時間体制で対応できる安全/危機管理システムの構築」と「「健康管理対策」を講じた上で、積極的な海外展開の拡大とともに、企業のゆるぎない成長を目指していただきたいと念じている。

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