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第20回 相続と税金その4: 値下がりしている資産を相続した場合(アメリカ)

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父ボブが生前に金20萬ドルで購入し、今では時価が1萬ドルに値下がりしている土地を息子ジョンが相続し、その直後に、息子ジョンはこの土地を第三者に1萬ドルで売却しました。このような場合、日本と同じようにアメリカでも、資産移転税としての遺産税(日本の場合は相続税)と所得税が問題になります。相続された土地の時価相当分1萬ドルについての遺産税と、購入してから売却するまでの期間中に生じた土地の値下がり分19萬ドルについての所得税上の損失です。まず相続された土地の時価相当分1萬ドルは遺産税の対象になります。ただし、納税義務者は、日本の相続税の場合は相続人ですが、アメリカの遺産税の場合は非相続人である父ボブ(の遺産)です。しかも、父ボブ(の遺産)が実際に遺産税を支払わなければならないかどうかは、他の遺産を含めた父ボブの遺産の総額が統一移転税額控除(注1) を課税遺産額に換算した額より大きいかどうかによります。もし課税遺産額が200萬ドル未満であれば (注2)、原則として、遺産税は課税されません。次に土地の値下がり分19萬ドルですが、前回の[相続と税金その3]で述べました日本の場合とは異なって、この19萬ドルの損失は息子ジョンの他の所得から控除できません。息子ジョンの取得価額が、父ボブの取得価額20萬ドルではなく、相続時点での時価1萬ドルと見なされるからです (注3)。このようにアメリカでは、相続の場合には、そもそも取得価額の引継ぎがありません。したがって増加益(含み益)は非課税となり、値下がり分(含み損)も控除されないのです。日本では、贈与の場合も相続の場合もすべて取得価額の引継ぎがあります。したがって増加益(含み益)は課税となり、値下がり分(含み損)は控除されるのです。

米国の1986年内国歳入法典§2010(a): General rule. A credit of the applicable credit amount shall be allowed to the estate of every decedent against the tax imposed by section 2001.(通則. 2001条によって課税される遺産税に対しては、すべての被相続人の遺産について一定の控除が認められるものとする。)

米国の1986年内国歳入法典§2010(c): Applicable credit amount. For purposes of this section, the applicable credit amount is … In the case of estates of decedents dying during 2006, 2007, and 2008 … The applicable exclusion amount is: $2,000,000. (一定の控除. 2006年、2007年、および、2008年中に死亡した被相続人の遺産の場合、一定の控除を換算した金額は200萬ドルとする。)

米国の1986年内国歳入法典§1014(a): Except as otherwise provided in this section, the basis of property in the hands of a person acquiring the property from a decedent … shall …be … the fair market value of the property at the date of the decedent’s death (本条に別段の定めがある場合を除いては、故人から資産を取得した者のその資産の取得価額は、その故人が死亡した日時現在の公正市場価額とする。)

(敬称略)

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