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第11回 贈与と税金その3: 値下がりしている資産を贈与した場合(日本)

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前々回(贈与と税金その1)と前回(贈与と税金その2)は、値上りしている資産を贈与した場合の税金についての日米比較でしたが、今回と次回は、値下がりしている資産を贈与した場合の税金についての日米比較です。父太郎が以前に金2,000萬円で購入し、今では時価が100萬円に値下がりしているゴルフクラブの会員権を息子一郎に贈与し、その直後に、息子一郎はこれを第三者に100萬円で売却しました。この場合、贈与税と所得税が問題になります。無償で移転された会員権の時価相当分100萬円についての贈与税と、購入してから売却するまでの期間中に生じた会員権の値下がり分1,900萬円についての所得税上の損失です。まず無償で移転された会員権の時価相当分100萬円は贈与税の基礎控除額110萬円未満ですから (注1)、息子一郎には贈与税がかかりません。次に1,900万円の損失は息子一郎の他の所得から控除しますから、約700萬円の所得税の減少となります。前々回の[贈与と税金その1]で述べましたように、息子一郎は父太郎の取得価額2,000萬円を引継ぐからです。つまり、「取得価額の引継ぎ」という制度は、父太郎が所有者であった期間の「値上がり分(増加益)」を息子一郎が引き継ぐ効果だけではなく、父太郎が所有者であった期間の「値下がり分(含み損)」も引継ぐ効果があるのです。最高裁の判決があります。事案はこうです。父親が1,200萬円で購入したゴルフクラブの会員権を100萬円に値下がりした時点で息子に贈与し、息子は82萬4,000円の名義書換料を支出して名義を変更した上で、これを第三者に100萬円で売却し、自分の所得金額から1,182萬4,000円(売却金額100萬円マイナス父親の取得価額1,200萬円マイナス名義書換料82萬4,000円)を損失として控除しました。約437萬円の節税です。ところが税務当局は、息子自身が支出した名義書換料82萬4,000円は控除できないとしたのです。つまり、節税額は約437萬円ではなく約407萬円であるという訳です。そもそも税務当局は、息子が父親の取得価額1,200萬円を控除したことは全く問題にしていません。最高裁も父親の取得価額を控除できることは当然とした上で、息子自身が支出した名義書換料も控除できると判示したのです(注2) 。次回の[贈与と税金その4]で述べますように、同じく「取得価額の引継ぎ」という制度を有するアメリカでは「値上がり分(増加益)」の引継ぎは認めますが、「値下がり分(含み損)」の引継ぎは認められていません。

脚注

注1 相続税法21条の5、租税特別措置法70条の2。

注2 平成17年2月1日最高裁判所第三小法廷判決。なお「ミスターWho」の少数異見、最高裁公認の節税策「含み損」という贈り物、週刊東洋経済2005年4/30・5/7合併特大号27頁。

(敬称略)

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