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第49回 国際法務その15: 保険法-2種類の外国生命保険金

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外国生命保険金とは、外国生命保険会社から受取る生命保険金ですが、これには2種類のものがあります。保険業法が認める「外国生命保険会社」から受取る「適格」外国生命保険金と保険業法が認めない「外国生命保険会社」から受取る「不適格」外国生命保険金の2種類です。
保険に直接に関係する日本の法律には、保険業法(注1)と保険法(注2)があります。保険業法は、「外国保険業者」に対して、①「日本に支店」などの拠点を設けること、および、②「日本の免許」を受けること、を要求しています(注3)。たとえ外国の法律上はどんなに立派な外国生命保険会社であっても、日本に拠点がなく、日本の免許のない外国生命保険会社は、日本在住の人を被保険者として「生命保険契約」を締結することを禁止されています(注4)。
日本に拠点があり、日本の免許のある外国生命保険会社から受取る生命保険金は、保険業法上「適格」外国生命保険金ですが、日本に拠点がなく、日本の免許のない外国生命保険会社から受取る生命保険金は、保険業法上「不適格」外国生命保険金です。
外国生命保険金が「適格」か「不適格」かは、本来は、保険業法上の問題ですが、平成19年度(2007年度)の税制改正が行われる前は、相続税法上および所得税法上の問題でもありました(注5)。つまり、平成19年度税制改正前は、「適格」外国生命保険金は「相続税の課税対象」であり、「不適格」外国生命保険金は「所得税の課税対象」であったのです。ということは、次のような意味です。たとえば、ドイツに駐在していた日本人の夫が、自分を被保険者、妻を受取人として、ドイツの生命保険会社と生命保険契約を締結しました。この夫妻は、日本に帰国しましたが、まもなく夫が亡くなり、妻はドイツの生命保険会社から500万円の生命保険金を受取りました。このドイツの生命保険会社は、日本に拠点がなく、日本の免許のない外国生命保険会社でしたから、この500万円は「不適格」外国生命保険金となります。平成19年度税制改正前には、「適格」外国生命保険金だけが「相続税の課税対象」であり、「不適格」外国生命保険金は「所得税の課税対象」であったため、この500万円には、相続税法第12条第1項第5号イに基づく非課税措置(注6)の適用はなく、一時所得として所得税法第34条(注7)(注8)(注9)および第22条第2項第2号(注10)が適用されたのです。その結果、妻は約20万円の所得税(注11)を納付しなければならないことになりました。ところが、この「気の毒な妻」の例は、皮肉にも、逆に、「富裕層の節税策」として利用されるようになりました。たとえば、この妻が受取った「不適格」外国生命保険金がなんと50億円もあったとしましょう。一時所得として所得税の課税対象になります。しかし、所得税法第34条および第22条第2項第2号の適用があります。富裕な夫が支出した保険料が10億円であったとすれば一時所得の金額は40億円となり、この40億円の2分の1である20億円は課税対象から除外されます。「気の毒な妻」とは違って「富裕な夫の妻」は、20億円超の非課税所得を得るのです。平成18年(2006年)11月14日の政府税制調査会での討論(注12)を踏まえて、平成19年度からは、「気の毒な妻」も「富裕な夫の妻」も同じ扱いを受けることになりました。「不適格」外国生命保険金も「適格」外国生命保険金と同じく、すべて「相続税の課税対象」とされたのです。したがって、「気の毒な妻」の受取った500万円は相続税が非課税となり、「富裕な夫の妻」が受取った50億円は全額が相続税の課税対象となります。

脚注

注1 保険業法(平成7年6月7日法律第105号、平成8年4月1日施行)は、「保険業」という「業務」を規制する法律で、主として「保険会社」が規制対象になります。

注2 保険法(平成20年6月6日法律第56号、平成22年4月1日施行)は、「保険契約」という「契約」を規制する法律で、「損害保険」、「生命保険」、および、「傷害疾病定額保険」が規制対象になります。

注3 保険業法第185条第1項:外国保険業者は、日本に支店等を設けて、内閣総理大臣の免許を受けた場合に限り、当該免許に係る保険業を当該支店等において行うことができる。

注4 保険業法第186条第1項:日本に支店等を設けない外国保険業者は、日本に住所もしくは居所を有する人に係る保険契約を締結してはならない。

注5 大蔵財務協会、平成19年度版 改正税法のすべて、488頁以下。

注6 相続税法第12条第1項第5号イ:次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。・・・相続人の取得した[生命保険金]については、500万円に相続人の数を乗じて算出した金額・・・

注7 所得税法第34条第1項:一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得および譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務または資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。

注8 所得税法第34条第2項:一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。

注9 所得税法第34条第2項:前項に規定する一時所得の特別控除額は、50万円とする。

注10 所得税法第22条第2項第2号:総所得金額は、次に掲げる金額の合計額とする。・・・一時所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額。

注11 (生命保険金の総収入金額500万円-保険料として支出した金額約10万円)= 490万円;490万円-特別控除額50万円 = 一時所得の金額440万円;440万円の2分の1 =総所得金額220万円;所得税の金額 約20万円。

注12 税制調査会第1回グループ・ディスカッション(平成18年11月14日)資料一覧:G・D1-7資料(納税環境整備(国税関係))みなし相続財産に対する相続税の課税。

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