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ソフトウェア特許の歴史から見たデータストリーム特許の位置付けと今後の展望

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1. マイコン革命に起因して、1980年初めころから日本ではハードウェアを制御するソフトウェア発明の特許性を認めるようになり、マイコン型特許が出現した。
1980年代の半ばからは、ハードウェアを制御せず、例えばキーボードやファイルから入力された文字列を処理するワープロの発明なども特許として認められるようになったが、 発明の名称はワープロ装置というように、入出力装置および情報処理装置とソフトウェアが一体となった物に特許が与えられていた。これが、ワープロ型特許である。
その次に、1996年頃からフロッピーディスクやハードディスクなどの情報記録媒体に記録されているコンピュータプログラムの発明にも、特許が認められるようになった。
そして、2000年頃からは、情報記録媒体に記録されたコンピュータプログラム等でなくても、ネットワークを通じてダウンロードされるコンピュータプログラム等の発明についても特許が 認められるようになった。(参考サイト1)

上図の出典: 参考サイト1

データストリーム特許(通信ネットワーク上を流れるデータストリームのデータ項目の構成に特許性を認められたものであり、特許法上は「物」の発明の特許に該当する)は、 2016年では、数件しか登録特許とはなっていないが、IoT産業革命が本格化する2017年からは特許出願が激増すると予測する。(参考サイト6)

2. 2002年の特許法の改正によって、特許法第2条3項1号が、次のように改訂されて、プログラム等がハードウェアや機械と同じように「物」として扱われるようになった。

一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、 電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為

これによって、プログラム等(特殊なデータ構造も含む)の特許権による保護が大幅に拡充された。
すなわち、プログラムや特殊な構造のデータはハードウェアと結合していてもいなくても、「物」として特許権での保護対象となったのである。

3. IoT産業革命の時代におけるソフトウェア特許の発展の方向

知財推進計画2016においても、日本再興戦略2016においても、指摘されている事であるが、 AI,ロボット,3Dプリンタを中心としたIoT産業革命の中で、日本が競争力を維持・強化をすることが必要である。
そのためには、データが重要である。(データ駆動型イノベーション等に詳しい)

なぜならば、AIやロボットが知的活動能力を形成するためにはデータが必要だからである。また、3Dプリンタで多種多様で高度な物体を形成できるためには3Dデータが必要である。
すなわち、価値創出の源泉がデータに移行してきたのである。したがって、データの法的保護が必要である。

4. データの法的保護の方策の中の1つとして、特許法による保護がある。
コンピュータプログラムではないデータ構造であっても所定条件を満足すれば、特許権によってを保護される。(参考サイト2、参考サイト3の第53ページ以降の記述等)

データストリーム特許は、データ構造特許の一種であるが、そのデータ構造の出現場面をネットワーク上のデータの流れ(データストリーム)に限定しているところに特徴がある。
したがって、データストリーム特許の特許性の判断基準としては、データ構造特許のそれが用いられることになる。

5. IoT産業革命に対応した特許の世界の発展と、データストリーム特許の位置付け
IoT産業革命の時代に対応する知財制度や考え方(参考サイト4)を構築するために、「次世代知財システム検討委員会報告書 2016年4月」 が作成された。これでは、マシンやAIが創作したデータの法的保護のあり方が課題である事や、デジタル・ネットワーク時代の国境を越える知財侵害への対応が課題であるとされた。
データストリーム特許は、価値あるデータ構造がネットワーク上を流れる状況をターゲットにした特許であり、IoT産業革命において大変に重要なものとなる。

なぜならば、「デジタル・ネットワークの時代の国境を越える知財侵害」という課題に対しても、 データストリーム特許では、国外のサーバーから国内の装置に送り込まれるデータストリームが権利範囲に入るならば、 権利範囲内のデータストリームの「生産、使用、譲渡及び貸渡し、電気通信回線を通じた提供、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」を侵害行為として権利行使の対象とできるからである。
そして、ネットワーク上のデータストリームは、パケットキャプチャソフトで簡単に取得することができるし、分析も比較的容易だからである。

これが、意味する事は、「データストリーム特許は、IoT産業革命での価値創出の源泉であるデータの流れを権利範囲とする特許権であり、しかもサーバー内部や端末内部の構造の分析や立証なしに、 サーバーや端末に権利行使できるので、権利活用のコストパフォーマンスが抜群に良い」ということと、国外のサーバーからのデータストリームに対しても、国外サーバーの内部構造を特定しなくても、 権利行使できるということである。(参考サイト5、参考サイト6)

6. データストリーム特許の今後の発展の展望

現時点では、データストリーム特許として登録になっているものは少ない。(参考サイト6)
しかし、今後はデータストリーム特許は急増していくことになると考える。
なぜならば、価値創出の源泉であるデータを実質的にカバーできる特許権であるとともに、権利行使のコストパフォーマンスが大変に良いからである。
現在、分散型システムにおけるデータストリーム処理技術も開発されつつある。 これらの動向とあいまって、データストリーム特許の時代が2017年から本格化すると予想できる。

【参考サイト】
1. ビジネス方法の特許について 特許庁 2000年10月
https://www.jpo.go.jp/seido/bijinesu/interbiji0406.htm
2. データ構造に関する発明の事例紹介 パテント2013
http://www.jpaa.or.jp/activity/publication/patent/patent-library/patent-lib/201312/jpaapatent201312_005-027.pdf
3. 特許・実用新案審査ハンドブック 附属書B 第1章 コンピュータソフトウエア関連発明 2016年9月28日
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/handbook_shinsa_h27/app_b1.pdf
4. IoT関連技術の審査基準等について 特許庁 調整課 審査基準室 2016年11月
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/iot_shinsa_161101/all.pdf
5. 【生かせ!知財ビジネス】重要なデータストリーム特許 SankeiBiz 2016年12月9日
http://www.sankeibiz.jp/business/news/161209/bsl1612090500006-n1.htm
6. IoT時代には、データストリーム特許を活用した特許戦略の実践が重要である 特許戦略マガジン 2016年12月10日
http://archives.mag2.com/M0070682/20161210144153000.html

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