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右脳インタビュー  若狭勝 衆議院議員・弁護士 元検事

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片岡:    今月のインタビューは若狭勝さんです。本日はテロ問題についてお伺いしたいと思います。

若狭:    日本は地政学的に中東からは遠く、また中東のテロリストはその容貌からして日本では目立つこともあり、これまでテロが起こり難かったのですが、問題は日本国内の過激派と国際テロが手を組むことです。内部協力者がいると、いくらセキュリティを高めても、テロリストに、いとも簡単にそれを掻い潜られてしまいます。勿論、オリンピック・パラリンピック直前になると新規採用なども厳重になってくるでしょう。しかし、今はまだ危機意識が低い。重要施設等に新規採用で入り込んで、ただじっとX dayを待つ…。つまり、今は、仕込み時です。ですから、特に重要施設で従業員を採用する場合は、今から、きちんと調査をすることが必要です。そして、その調査結果を情報として集中的に保管し、その情報を共有することが大切です。実際、原発では、従業員信頼性確認制度などを規制委員会が取り入れようとしています。

片岡:    原発の労働者問題では、暴力団の関与も既に言われていますね。今の制度や環境の中では、協力者を入り込ませない、或いは従業員を協力者にしない仕組みが十分に機能し難いのではないでしょうか。

若狭:    その通りです。日本の法整備はそういう面でも諸外国と比べれば赤子のようなものです。一昨年、小池都知事と福島第一原発の敷地を視察しましたが、そこで働く人らに対するセキュリティが弱いと思った…。今、日本のテロ対策は本当にお手上げです。皆ぬるま湯につかっていますから…。国民の意識を高めるのは、本当に難しい。
さて、今国会では「テロ等準備罪」が大きな議案の一つとなっていますが、この法案は、野党の指摘にも持ちこたえられるように、はじめから相当縛りをかけています。まず、組織的な犯罪集団自体を定義付けし、組織的犯罪集団とは、「団体のうち、その結合関係の基礎として一定の重大犯罪を実行することがその共同目的となっているもの」などとしていることです。これにより縛りがかかりますが、それだけではなく、その団体の活動の一環として「①一定の重大犯罪を計画謀した」うえ、「②下見などの犯行準備行為をすること」が犯罪成立のための要件とされています。①の要件だけではなく、②の要件も必要とされていることから、相当縛りがかかっていると言えます。

もっとも、この犯罪がテロの未然防止に効果があるかといえば、その効果は乏しいと思います。要は、計画や話合いを証拠により証明しないといけないという大きな壁があるのです。テロを実行する前の段階では、その計画に加わっていた人が改心して、警察に名乗り出て、計画を供述しなければ、計画や話合いの証拠がないわけです。とすれば、裁判官も令状を出すことはできません。

元々、我が国の刑事司法制度は、犯罪が起きたあとの取り締まりを前提としていて、犯罪が実際に起きる前(犯罪が成立する前)のいわば未然予防のことは考えられてこなかったのです。今の法制度の枠組みだけでは、テロの未然防止には無理があって、テロ等の予防には効果が弱いでしょう。私は検事として組織犯罪の適用をやってきましたのでそうしたことが良く分かるのですが、議員の多くは、官僚が「これでテロが防げますよ」といえば、それを信じてしまいがちです。

片岡:    この法案は、元々は、国際組織犯罪防止条約への加盟に重点が置かれていますね。

若狭:   そうなんです。この条約は本来経済的利益を目的とした組織犯罪に対処するためのもので、それを日本の法案で「テロ等準備罪」という名前を付けてテロの未然防止に大きな効果があるように見せるのは邪道だと思います。もっとも、この法案自体は、条約に加盟でき、外国との捜査共助が従前に比べ行い易くなることや、組織犯罪の犯人の引渡しがスムーズになるなどの効果・目的はあります。ですから、法案を通すことには反対していないのですが、しかし、実際にはテロ対策として効果が弱いこの法案を「テロ等準備罪」という名前にしてしまうと、国民も政治家も「これが通ればテロ対策は大丈夫だ」、「オリンピック・パラリンピックを開催できる」と思ってしまっています。これが私は最も怖いのです。この法案を通し、それで、あとは何もせずに、このままオリンピック・パラリンピックを迎えると、本当に大規模テロが現実のものとなる危険性があります。それこそ、国の信用を失い、多数人の命を奪うことにつながります。
平成16年、警察庁はテロ対策推進要綱を出し、「我が国はテロが起きる可能性が増大してきており、テロ対策の法整備が必要だ」とうたっているにもかかわらず、はや12年、殆ど進んでいない…。テロ資金の規制には確かに幾つか法律はありますが、抜本的なテロ対策にはなりません。諸外国のスタンダードは、大きくわけて三つあり、「無令状拘束」「無令状捜索」「行政傍受」です。フランスは先日テロが起きたときに、そういうことを一気にやっていきました。しかし、日本では、仮に、正規の情報機関からのしっかりとした情報に基づき、「大規模テロを起こす可能性が高い人」と色濃く疑われても、今の法制度のもとでは、その人を拘束はできません。しかし、大規模テロを防ぐためには、何とかしなければいけない。ただ、人権に価値を重く置く日本では、そのような場合、まったくの無令状で拘束することは難しいと思います。私は「事後的令状主義」を提唱しています。そういう時にはまず拘束して、その後直ちに、きちんと裁判官の審査を受けます。これが「事後的令状主義」です。現行法制度のもとで、「緊急逮捕制度」といって、殺人が行われ、犯人が明らかな場合で緊急を要する場合は、まず身柄を拘束し、そのあと、裁判官の令状発付を受けるというものがあります。これも事後的令状主義ですが、その緊急逮捕の制度と同じように、事後的令状主義のもとで、未だ何ら犯罪は起こしていないが、今にもテロを起こしそう人に対し、その身柄を拘束する制度を設けるのです。またその際には、不服申立制度も設け、もし万が一間違っていたら補償をするなど、人権にも当然配慮します。こうした仕組みを構築していく。私は、こうした事後的令状主義を含む「テロ未然防止法」という法案を作っています。いわば日本モデルです。これはオリンピック・パラリンピックの時までに限定した法律でもよいと思っています。オリンピック・パラリンピックでは本当にテロのリスクが高く、しかも時限立法であれば、致しかたないと思う人も多いと思っています。今国会はテロ等準備罪の審議で終わるのでしょうが、国民のためにも、その先でこうした「テロ未然防止法」を成立させなければならないと思っています。

片岡:    テロ対策では、時間をかけて監視し、情報を収集し、そして国際的連携が必要ですね。

若狭:    実は、日本のインテリジェンス機関は色々な制約もあって、外国のインテリジェンス機関から十分な信用を得ていないところがあります。だから、日本も今のNSC(国家安全保障会議)とは別に、しっかりと体系だった対テロの情報機関を設けて、そこに一手に情報を集めて利活用する枠組みを整備しないと、外国からの情報もとれなくなります。現場の公安調査庁の人間などに聞くと、きちんと情報を取っているといいますが、しかし、やはり、コアの情報となると、日本が信用できるかということが大切です。特にサイバーテロについては、日本は本当にお寒い限りで、そういうのも含めて、総合的な対テロ情報機関を作らないといけないでしょう。

片岡:    そうした組織を作るには、徹底して人を選び、守る、内部もしっかり監視する仕組みを入れ、じっくりと組織を育て上げる…、どうしても時間が必要です。リソースが限られる中で、どういったテロにまず考えないといけないのでしょうか。

若狭:    原発テロ、水道テロ、新幹線テロ、繁華街でのテロ…。残念ながら考えなければいけないものが沢山ありますが、特に重要なものは2つです。一つは原発テロで、これは北朝鮮を含めて、本当にミサイルを打ち込んでくる可能性がないとは言えません。格納容器自体がどうなるかは別としても、少なくとも全電源停止になっただけで終わってしまう。もう一つはやはりオリンピック・パラリンピックの開催式です。そこでテロが起これば、オリンピック・パラリンピックも終わってしまいます。そこには外国の要人もいますし、多数の命も奪われるでしょう。更に「日本にはテロ未然防止法もなかったのか」などと、日本は相当な批判を浴びます。「安心安全の国」が一気にくずれ、プレゼンスが低下します。

片岡:    具体的には?

若狭:    例えば、テロリストが内部協力者の力を借りて東南アジアの飛行場から成田経由の飛行機に乗り、成田が近づいたらハイジャックをして国立競技場に向かって自爆テロを行うということも考えられます。東南アジアの空港はセキュリティがかなり弱いところもありますので、現在それを調査しています。

片岡:    羽田や成田発のものの危険性は如何でしょうか? 燃料もまだ満タンに近い…。

若狭:    成田も羽田も、PNR (Passenger Name Record)といわれる詳しい個人情報を含む「乗客予約記録」のようなシステムを取り入れるなど、色々な形で封じ込めをしていますので、日本の空港はかなりセキュリティが高くなっていると思います。しかし、内部協力者がいれば別です。また日本ではセキュリティーチェックで靴を脱がないのは問題ですね。テロリストは本当に色々なことを考えますから…。

片岡:    ところで、若狭さんは公安時代に洞爺湖サミットをご担当されましたね。

若狭:    テロという意味では、実は新幹線は危ない。洞爺湖サミットの時に、協議しましたが、新幹線で自爆テロが起きると、後続の列車を止めることは出来ても、その列車はあきらめるしかない。それを防ぐには航空機並みのセキュリティをしなければならないのですが、やはり現実的に難しいとのことでした。これは今も同じです。
またテロリストにとっては、リアルよりもサイバーの方が効果的な面もあります。例えば交通システムを止めてしまえばいい。またオリンピック・パラリンピックまでには、自動運転がある程度始まります。そのシステムに入り込まれれば、至る所で事故を起きるかもしれない…。それでもオリンピック・パラリンピックの時は、まだ完全自動運転にはなっていないでしょうから、まだいいのですが…。完全自動運転の時代になれば…。

片岡:    そうしたテロが実際に起こりうるという前提であれば、法案の手足をどう縛るかよりも、政府に強い権限を与えるのであれば、その担保は具体的にどうするのか、例えば情報公開や政府への監視強化等といったことを。逆に、そうした法整備はしないというのであれば、法整備無しで具体的にどうテロを防ぐのか、もっと色々と議論されていてもいいはずですね。

若狭:    その通りです。東日本大震災が起きたときに、津波の高さが、「想定外か」、「想定内か」ということが議論されましたが、大規模テロがオリンピック・パラリンピックに向けて、起こるということは、全く「想定内」の話です。その想定内のこともきちんと対応しないというのでは、政府は本当に無策です。政治家は抽象的な危機意識は持っていても、具体的な危機意識があまりに弱い。

片岡:    他の国はどうやって具体的な危機意識を高めてきているのでしょうか?

若狭:    日本においても、あってはならないことではありますが、ひとたび大規模テロが起きると、一気に意識が変わると思います。諸外国では、その連鎖によって作られていて、法整備とテロの危険性は相関性があります。テロの危険性が高いと法整備もかなり、治安第一になってきますが、テロの危険性が少なくなってくると人権配慮の中で、弱まっていきます。

片岡:    以前は、テロが起こっても、規模にある程度の限界がありましたが、今は極めて大規模なテロも起こりえます。ですから実際の経験を待つわけにはいかなくなってきているのではないでしょうか。

若狭:    そこですよね。これは何とかしないといけない。一度、大規模テロが起きてしまったら、色々な意味での首都機能が阻害されて大混乱が生じる恐れがあります。勿論、様々な個別の施策も必要だと思いますが、それよりも、もっと、こうしたテロ未然防止法なるものの法整備のプライオリティーは高いと思っています。
私は、もともと政治家になる動機は、二つあって、一つは、強盗強姦罪と強姦強盗罪の違い(現行の刑法では、強盗犯が引き続き強姦を敢行した場合には「強盗強姦罪」という無期懲役刑も用意された重罪であるものの、強盗と強姦の順序が逆で、強姦が先で引き続き強盗を敢行した場合は、「強姦強盗罪」という罪がなく、無期懲役刑に処せられることもない)に見られるように、女性蔑視の規定が刑法にまだ残っていたので、それを改正したいと思ってきました。この強姦強盗の問題は改正されることになりました。もう一つは「テロ未然防止法」の制定です。その二つの大きな思いで、政治家になりました。どちらも、まったく票にはならないのですが…。実際、今回の法案だけでも、これだけ「ワーワー」となっていますから、政治家だけでなく、政府も腰が引けていますね。しかし、国民の大多数の命を守るために、今何をすべきか、それは政治の責任です。

片岡:    貴重なお話を有難うございました。

 

<完>(2017年3月8日加筆)

 

聞き手   片岡秀太郎 プラットフォーム株式会社 代表取締役

 

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