第38回 国際法務その4: 国際的側面の種類
前回(第37回)で「何ほどかを知るよう努力すべき日本法」として14種類(分野)を挙げました。今度の「国際法務シリーズ」では、これら14種類の「日本法」の「国際的側面」に焦点を当てますが(注1)、その「国際的側面」を、便宜上、次のように2種類に区別します。
国際的側面の種類 英語訳 その特色
1. 対内的取引(活動) Inbound Transactions (Activities) 外国人または外国法人の日本での取引(活動)に対する「日本法」の適用
2. 対外的取引(活動) Outbound Transactions(Activities) 日本人または日本法人の外国での取引(活動)に対する「日本法」の適用
たとえば独占禁止法を見てみましょう。公正取引委員会ホームページによりますと、「外国会社同士の合併」について、次のような記載があります(注2)。「外国会社同士の合併の場合は、合併当事者会社の中に、(日本国での)国内売上高が100億円超の会社と10億円超の会社がある場合に限り、事前の届出が必要です。」これは「日本法」としての「独占禁止法」の「国際的側面」ですが、「対内的取引(活動)」、つまり、外国法人の日本での取引(活動)に対する「日本法」の適用です。次に、たとえば外国為替法を見てみましょう。日本銀行ホームページによりますと、「本邦法人が海外の取引先に対する売掛債権5億円相当米ドルを他の現地企業に4億円相当米ドルで譲渡することになりました。外為法上、どのような手続が必要ですか?」という質問に対して、次のような回答がなされています(注3)。「居住者と非居住者との間の資本取引(債権の売買)にあたります。したがって、本邦法人は、取引金額が1億円相当額を超えますので、債権の消滅について・・・報告書省令別表様式9・・・1通を作成して、債権売買契約締結の日から20日以内に、日本銀行を経由して財務大臣に提出する必要があります。」これは「日本法」としての「外国為替法(正式名称は「外国為替および外国貿易法」ですが『外為法』と略称されています。」の「国際的側面」ですが、「対外的取引(活動)」、つまり、日本法人の外国での取引(活動)に対する「日本法」の適用です。このように、「日本法」の「国際的側面」を「対内的取引(活動)」と「対外的取引(活動)」の2種類に区別することには、次のような理由があります。ある外国法人(たとえばアメリカ会社)の日本での取引(活動)は、日本では「対内的取引(活動)」ですが、アメリカでは「対外的取引(活動)」です。したがって、そのアメリカ会社としては、「対内的取引(活動)」に関する日本の法律を知る必要もありますが、同時に、「対外的取引(活動)」に関するアメリカの法律を知る必要があります。同様に、アメリカで取引(活動)する日本会社は、「対外的取引(活動)」に関する日本の法律を知る必要もありますが、同時に、「対内的取引(活動)」に関するアメリカの法律を知る必要があります。この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際に必要な法律の半分だけしか取扱っていないのです。たとえば、アメリカ会社同士の合併については、まず「アメリカの国内法」の適用があることは当然ですが、先に見たように、一定の条件の場合には、「対内的取引(活動)に関する日本法」の適用があります。同じように、たとえば、日本会社がアメリカ会社に対する債権を別のアメリカ会社に売却する場合には、「アメリカの国内法」の適用があることは当然ですが、先に見たように、一定の条件の場合には、「対外的取引(活動)に関する日本法」の適用があります。つまり、この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際には、もう半分である相手国の法律(たとえばアメリカの国内法)を必ず検討する必要があることを忘れないで下さい。
脚注
注1 「国内法」の「国際的側面」に焦点を当てる前提として、「国内法」の「国内的側面」の理解が必要な場合があります。たとえば「独占禁止法」の「国際的側面」として「外国会社同士の合併」に対する規制がありますが、「独占禁止法」の「国内的側面」として、「国内の会社同士の合併」に対する規制があります。
注2 http://www.jftc.go.jp/ma/gappei/gappei.html
注3 http://www.boj.or.jp/type/exp/tame/faq/data/t_shihon.pdf