第16回 贈与と税金その8: 日本とアメリカが交錯する場合(在日アメリカ人)
アメリカ在住のアメリカ市民である母グレイスが以前に10萬ドルで購入し、今では時価が30萬ドルに値上がりしている指輪を日本在住のアメリカ市民である娘ベテイがアメリカに一時帰省中に贈与し、娘ベテイは日本に帰国後にこれを第三者に30萬ドル相当の対価で売却しました。前回の[贈与と税金その7]の場合と同じように、この場合も日本とアメリカの贈与税および日本とアメリカの所得税が問題になります。無償で移転された指輪の時価相当分30萬ドルについての贈与税と、購入してから売却するまでの期間中に生じた指輪の値上がり分20萬ドルについての所得税です。結論として、アメリカの贈与税が母グレイスに課され、日本の贈与税が娘ベテイに課されますが、アメリカの贈与税は日本の贈与税から控除されます。またアメリカの所得税と日本の所得税が娘ベテイに課されますが、アメリカの所得税は日本の所得税から控除されます。まず贈与税を見ましょう。前回の[贈与と税金その7]で述べましたように、贈与税を課される者(納税義務者)は、日本では贈与を受けた者(受贈者)ですが(注1) 、アメリカでは贈与を行った者(贈与者)です(注2)。アメリカでは贈与者がアメリカ市民であれば、贈与財産の所在場所がどこであろうとも、アメリカの贈与税が課されます(注3)。贈与者である母グレイスはアメリカ市民ですから、指輪の時価相当分30萬ドルについてアメリカの贈与税が課せられることになります。他方、日本では受贈者が外国人であっても日本の居住者であれば、受贈財産の所在場所がどこであろうとも、日本の贈与税が課せられます(注4)。受贈者である娘ベテイは外国人ですが日本の居住者ですから、アメリカに所在した指輪についても日本の贈与税が課されます。ただし、母グレイスが納付したアメリカの贈与税は娘ベテイの日本の贈与税から控除されます(注5)。これを贈与税の外国税額控除といいます。つぎに所得税を見ましょう。その指輪を日本で第三者に売却した時点で、指輪の値上がり分20萬ドル相当について日本の所得税が日本の居住者である娘ベテイに課せられます。母グレイスの取得価額(10萬ドル)を娘ベテイが引継ぐからです(注6)。さらに娘ベテイはアメリカ市民ですから、指輪の値上がり分20萬ドルについてアメリカの所得税も課税されます。この場合も母グレイスの取得価額(10萬ドル)を娘ベテイが引継ぎます(注7)。前回の[贈与と税金その7]で述べましたように、日本の場合、日本の非居住者は日本の国内源泉所得に限って日本の所得税が課税されますが、アメリカの場合、アメリカ市民であればアメリカの非居住者であっても、全世界所得に対して課税されます。ただし、娘ベテイが納付したこのアメリカの所得税は日本の所得税から控除されます。これを所得税の外国税額控除といいます。
脚注
注1 相続税法1条の4.
注2 Section 2501(a) of the Internal Revenue Code of 1986.
注3 Section 2501(a) of the Internal Revenue Code of 1986.
注4 相続税法1条の4の1号は、受贈者が外国人であっても日本の居住者であれば、受贈財産の所在場所がどこであろうとも、日本の贈与税を課すものとしています。(これを無制限納税義務者といいます)。
注5 相続税法21条の8;日米相続税条約(遺産、相続及び贈与に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約)5条。
注6 所得税法60条。
注7 Section 1015(a) of the Internal Revenue Code of 1986
(敬称略)