第15回 贈与と税金その7: 日本とアメリカが交錯する場合(在米日本人)
日本在住の日本国民である母花子が以前に1,000萬円で購入し、今では時価が3,000萬円に値上がりしている指輪をアメリカ在住の日本国民である娘桃子が日本に一時帰省中に贈与し、娘桃子はアメリカに帰国後にこれを第三者に3,000萬円相当の対価で売却しました。この場合、日本とアメリカの贈与税および日本とアメリカの所得税が問題になります。無償で移転された指輪の時価相当分3,000萬円についての贈与税と、購入してから売却するまでの期間中に生じた指輪の値上がり分2,000萬円についての所得税です。結論として、日本の贈与税とアメリカの所得税が娘桃子に課せられます。アメリカの贈与税と日本の所得税は誰にも課されません。まず贈与税を見ましょう。贈与税を課される者(納税義務者)は、日本では贈与を受けた者(受贈者)ですが(注1) 、アメリカでは贈与を行った者(贈与者)です(注2) 。日本では受贈者が日本人であれば、一定の例外に該当しない限り(注3)、受贈財産の所在場所がどこであろうとも、日本の贈与税が課されます。受贈者である桃子はこのような例外に該当しない日本人ですから(注4)、指輪の時価相当分3,000萬円について日本の贈与税が課せられることになります。他方、アメリカでは贈与者がアメリカ国外に居住している非居住者外国人 (nonresident alien) であれば、贈与財産の所在場所がアメリカである場合に限ってアメリカの贈与税が課せられます(注5)。贈与者である母花子は非居住者外国人ですから、日本に所在した指輪についてアメリカの贈与税は課されません。つぎに所得税を見ましょう。その指輪をアメリカで第三者に売却した時点で、指輪の値上がり分2,000萬円についてアメリカの所得税がアメリカの居住者である娘桃子に課せられます。母花子の取得価額(1,000萬円)を娘桃子が引継ぐからです(注6) 。娘桃子は日本の非居住者ですから、日本の国内源泉所得に限って日本の所得税が課税されます(注7)。その指輪をアメリカで第三者に売却したことから生じた所得は日本の国内源泉所得には該当しませんから(注8)、日本の所得税は課されません。
脚注
注1 相続税法1条の4.
注2 Section 2501(a) of the Internal Revenue Code of 1986.
注3 相続税法1条の4の2号は、受贈者が日本の非居住者であっても日本人であれば、原則として、受贈財産の所在場所がどこであろうとも、日本の贈与税を課すものとし(これを無制限納税義務者といいます)、例外として、贈与者(母花子)が5年超の期間日本の非居住者であり、かつ、受贈者(娘桃子)も5年超の期間日本の非居住者であった場合に限って、受贈資産の所在場所が日本であることを日本の贈与税を課す条件としています。
注4 贈与者である母花子が日本の居住者である以上、受贈者である娘桃子には上記例外の適用がありません。
注5 Section 2511(a) of the Internal Revenue Code of 1986: “…the tax imposed … in the case of a nonresident not a citizen of the United States, shall apply to a transfer only if the property is situated within the United States.”
注6 Section 1015(a) of the Internal Revenue Code of 1986.
注7 所得税法5条2項: 「非居住者は、第161条に規定する国内源泉所得を有するときは、この法律により、所得税を納める義務がある。」
注8 所得税法161条1号:「この編において国内源泉所得とは、次に掲げるものをいう。 ①・・・ 国内にある資産の・・・譲渡により生ずる所得・・・」
(敬称略)