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ここまで来てしまった外国人技能実習制度の実態

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すでに数え切れないほどの問題が起きてきた。「外国人技能実習制度」のことである。低賃金労働、休日無視、賃金未払い、詐取、労働災害、失踪など、ほとんど労働問題の全域にわたる。国際的批判にもさらされてきた。1993年度に導入された「技能実習制度」の段階から、近い将来こうした問題が発生することはかなりの確度で予想されていた。その後毎年のように違反事例が報告されてきた。このブログでもとりあげたこともある。部分的手直しは行われても抜本的改善のための制度改革はなされなかった。欠陥が露呈し、社会問題化するたびにその場かぎりの対応が繰り返されてきた。

6月11日のNHKニュースは、「外国人技能実習制度」の下で働く技能実習生が実習先の企業などを離れて、失踪(行方をくらますこと。失跡。『広辞苑』第6版)するケースが増加していることを報じていた。そして、昨年失踪した実習生4800人余りのうちで4割近い38.4%が来日して1年以内に失踪していたことをを報じていた。制度発足以来の経緯を知る者にとっては、制度の破綻以外のなにものでもない。

本来、この制度では 実習生が現在の実習先から他の働き先へ無断で移動することは認められていない。失踪の原因については、当該実習生の調査で最も多いのは、実習先の労働条件があまりに劣悪なことに由来する。ニュースで報告された事例(農作業)では、1日働いても2742円、時間当たり340円という最低賃金を大きく下回る水準である。

実習生にとっては、出国前に考えていた働いて得た報酬の中から、本国送金をすることなど、到底不可能なのだ。働いている本人自身が日本でまともな生活ができないと述べている。ニュースでは、中国から来た実習生が、円安が影響して手取りが予想していたより3割近く低くなってしまい、中国国内で働いても同じくらいであり、日本まで働きに来る意味がないと答えていた。

こうした状況に陥れば、実習生は苦境からの脱却を図る。インターネット世代の彼らにとって、頼るところは友人・知人であり、インターネット上の情報である。IT上の仲介業者の情報を利用し、次の働き口を探す。新たな働き口として浮上するのは労働需給が著しく逼迫している建設業関係が多い。東北大震災復興、オリンピック関連事業などが重なって、人手不足で受注した工事が出来なくなっている例は、いたるところで耳にする。小規模事業者ほど、人手確保に苦慮しているようだ。建設業で不法に働けば、1日当たり11,000円近くになるという。

失踪した実習生が働く業種は、こうした建築業に限らず、人手不足に悩む業種が多い。しかし、初めて就いた仕事から移動することが認められていない現在の制度では、彼らの行動は違法であり、失踪に該当する。当初は合法的に入国しても、その行為は不法就労(黒工)になり、不法滞在へと姿を変える。失踪者は居所も不明となり、犯罪などの温床となりやすい。

この制度は最初の制度設計の政策方向が誤っている代表的な例といってもよい。技能実習の名称が付された制度だが、実習は多くの場合、人手不足を補う低賃金での労働となっている。実習する職種についても、そのほとんどは来日した実習生が希望するものではない。しかも帰国した場合に、本国の産業で日本での経験が生きる場合は少ない。「低賃金労働の隠れ蓑」と、国際的にも厳しく批判されてきた悪名高い制度になっている。

現行制度を”柔軟に”運用して、ある程度の労働移動を認めるなどのこそくな手段では到底対応出来ない段階に来ている。不法就労者、不法滞在者がこうした制度上の欠陥から増加することは、望ましいことではない。人手不足の使用者に、低賃金労働者を実習や研修の名で外国から調達して供給するというような実態では、制度はたちまち破綻する。日本に来る実習者の多くが、「実習」を「労働」と読み替えていることは広く知られている。

オリンピックなどを控えて、年間2000万人近い外国人観光客の来日を目指す状況で、制度上の欠陥のために、失踪者などを通して不法滞在者が増加してゆくことは決して好ましいことではない。日本における不法残留者が減少してきたこと自体は、望ましいことだ。アメリカやイギリスで、不法滞在者がいかに大きな国家的問題となっていることを思えば、評価できる。しかし、こうした失踪者などのために、昨年は増加に転じた。少子高齢化の拡大による労働力不足、来日外国人の増加などを考えると、不法残留者(不法滞在者)の数を大きく増加させない政策対応が欠かせない。

「移民」という言葉は人によって受け取り方が異なるが、世界の人口が増加する中で、人口減少を続ける日本において、外国人の受け入れのあり方は、この国が目指す全体的政策視野の中で考えねばならない。「外国人技能実習制度」の抜本改革もその一環として位置づけられるべきだろう。

 

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